拉致被害者になったほうが、個性使っても怒られづらそうですよねぇ
意識がゆっくりと浮上してくる。まぶたを開くと見慣れない天井が目に入った。薄暗い照明にレンガ造りの壁。カウンターの奥には大量の酒瓶が並んでいる。どこかのBARか?林間合宿の宿舎でなければ雄英でもなく、俺ははすぐに状況を理解した。誘拐されたんだと。あれから何時間経っただろう?いや何日か経過してる可能性もある。
身体を動かそうとするが両腕は後ろで拘束されていた。かなり厳重で個性対策も兼ねているのかもしれない。どうやら無事に拉致されたらしいな、あまり嬉しくない。隣を見ると同じく拘束された爆豪がいた。ガスマスクは外されている。
ちなみにまだお姫様だった。
爆豪は目を開き隣の俺を見る。次に自分を見る。そして再び俺を見る。
「戻せ」
開口一番それか。
「無理」
「戻せ」
「拘束されてるし」
「そういう意味じゃねェ」
爆豪が深いため息を吐くと、カウンターに座っていた死柄木弔がこちらを見ていた。奥には黒霧。周りにはヴィラン連合メンバーっぽいのがいる。
死柄木はしばらく黙って俺ら二人を見ていた。
爆豪を見る
ドレスを見る
爆豪を見る
またドレスを見る
「・・・」
「・・・」
「・・・それ」
死柄木がドレスを指差す。
「ンだよ」
「なんでその格好なんだろうなって」
「知らねぇよ!」
周りのメンバーが大なり小なり笑い始めた。クールそうな火傷男も肩を震わせてる。
「似合ってるな!似合ってねぇよ!俺は笑わないぞ!無理だわこれ!」
全身タイツ男は特に笑ってる。死柄木は額を押さえてる。
「俺さぁ、USJで魔法少女にされた時より意味が分からねえわ」
「待て、魔法少女?」
「ああ」
「何だそれ」
「聞くな」
「アタシも聞きたいわ!」
爬虫類男とサングラスのオカマが興味津々にしてる。死柄木が露骨に嫌そうな顔をしてて爆豪は少しだけ機嫌が良くなった。自分以外にも被害者がいる現状になんか満足してる。
「私この服好きです」
危険少女はくるりと回った。
黒を基調としたゴシックロリータ風の服
レース
ブーツ
リボン
元の改造制服より圧倒的にオシャレだ。
「カァイイです」
「確かに似合ってるわね〜」
「いいじゃねぇか!よくねぇよ!」
かなり気に入ってくれているようで嬉しい。死柄木はそんな仲間達を見てから仮面紳士へ視線を向けた。
「で、コンプレス。爆豪は分かる。こいつ何で連れてきた」
「偶然さ。爆豪君の隣にいたからね」
「それだけか」
「あとムーンフィッシュを一瞬で無力化していたし、放っていたら危険と判断した。だからつい、アドリブでね」
「つい、でこんな奴連れてくるなよ」
「まあ連れて来ちゃったもんは仕方ないさ」
その頃、俺はヴィラン連合を観察していた。全員服の改善点が見えてしまう。ついでに人柄も。職業病かな。
「そういえば自己紹介してない」
爆豪が「何を言っているんだこいつ」という目でゆっくりこっちを見た。だが気になるものは仕方ない。知らない人がいるのだから名前くらい知りたい。火傷男以外は結構会話出来そうだし。
最初に反応したのは危険少女。元気よく手を挙げる。
「はいはーい!トガヒミコです!好きなものは血と、カァイイものです!」
うん、元気だ。内容は怖いが。普通に人生を楽しみたい気持ちは感じる。
「この服かぁいいです!」
「ありがとう」
その隣で火傷男が鼻で笑う。
「荼毘だ」
それだけか。まぁ名乗ってくれただけでもいいか。秘密主義者っぽい。
「スピナーだ」
こっちもクールそうだが、ステインのような格好……自分探し中といったところか。一番まともそうではあるが。
大柄なサングラスオカマが手を振った。
「マグネよ。よろしくね坊や達」
まぁ高校生だから坊やは間違ってはいない。たぶん自分を貫いて生きたいタイプ。
「俺はトゥワイス!違う!いや合ってる!間違えた!間違えてねぇ!」
俺はトゥワイスを観察する。そして思い浮かんだ言葉は
「大変そう」
「だろ?」
かなり。根の悪いヤツには見えない。
「おじさんはMr.コンプレス。よろしく」
綺麗に一礼。派手好きでノリは良さそう。マシな部類。
自己紹介が終わり何となく知り合いが増えた気がした。もちろん敵だが。
「で?名乗り終わったから何だってンだ」
それもそうだ。爆豪もイラつくのは仕方ない。俺達は拉致されているし自己紹介で解決する状況ではない。
改めてヴィラン連合の面々を見る。全員服の方向性がバラバラだ。組織なのに統一感がないな。
「死柄木」
「あ?」
「やっぱり一回全員まとめてコーディネートした方がいいと思う」
「・・・・・・・」
しばらくしてから、心の底から疲れたような声が響く。
「何で拉致された側がファッション会議始めるんだよ・・・」
「まず死柄木」
「聞いてねぇ」
「首の手はそのまま活かす。全体を黒で統一すると手しか目立たないから灰色と白を混ぜる。長いコートは必須。ボロボロじゃなく仕立ての良いもの。袖は長め。靴は革靴じゃなくブーツ。髪色が淡いから赤は差し色程度。全体を病的に見せる方向じゃなく終末の王様方向」
「・・・ちょっと分かるのが腹立つな」
「次荼毘。絶対ロングコート。青い炎を引き立てるために黒一色は駄目。深い紺と黒。傷跡を隠すんじゃなく見せる。軍服系も似合う。ベルト多め。手袋あり。あと無精髭あったら絶対似合う」
「何で具体的なんだ」
「似合うから」
「そうか」
「次スピナー。爬虫類系だから革ジャンは確定。だけど安い革ジャンじゃ駄目。バイク乗りというより旅人。マフラー追加。手袋追加。刀は見せる。色は緑より茶色と黒。あとブーツ」
「・・・」
「次トゥワイス」
「来たな!来てしまった!」
「スーツ」
「おお」
「でも普通のスーツじゃない。ヒーローっぽくしない。探偵。帽子あり。コートあり。マスクは残す。色は黒じゃなくベージュ」
「聞いたか!聞いた!俺格好良いぞ!元から格好良い!」
「次マグネ」
「おっ」
「ロック系。赤。革。大きなピアス。派手だけど上品。怖そうなのに面倒見良さそうに見える服」
「似合いそうな感じはするわね?」
「次トガ」
トガが目を輝かせる。
「今の服も良い。でももっと動きやすい方がいい。可愛いと危険が共存する感じの赤と黒。短いジャケットにブーツとリボン。あと隠しポケット大量」
「好きです!」
「あとマスクは駄目。顔が見えた方が可愛い」
「・・・」
「・・・」
「トガが黙った」
「レアだな」
「次コンプレス。今でも完成度高い」
「ほう」
コンプレスが帽子を触る。少し嬉しそう。
「でももっと舞台役者寄り。紫。金。白。シルクハット大型化。マント追加。怪盗感強化」
コンプレスが感心したように頷く。真面目に聞いてた。
「なるほどなるほど」
「最後黒霧」
黒霧も少しだけ興味を示した。
「執事。以上」
「終わりかよ!?」
「完成されてる」
「ありがとうございます」
「何なんだよこれ」
死柄木は頭を抱えている。誘拐した、拘束した、個性も封じた、逃げられない。なのに気付けばヴィラン連合全員がファッション講評を受けていたんだからな。訳分からないよな。爆豪は隣で目を閉じる。
「俺もう帰りてェ」
そんな感じで診断会は進んでいった。気付けばBARの空気はだいぶ変わっていた。死柄木も途中から反論する気力を失っている。荼毘は面倒そうに聞いている。トガは楽しそう。トゥワイスは途中からメモを取り始めた。なぜか爆豪だけが一番不機嫌だった。
「お前ェら何仲良くなってンだ」
俺も冷静になると少しおかしい気がしてきた。俺達は拉致されていて向こうはヴィラン。普通ならもっと緊迫した空気になるはずだ。なのに今はファッション談義になっている。
しばらくして
BARには微妙な空気が流れていた。死柄木はカウンターにじっと座り、黒霧は警戒してる。そして爆豪はお姫様。
「・・・」
「なあ、そのドレス暑くね?寒いだろ!」
「うるせぇ」
「暑いのか!暑くないのか!」
「普通に気になるわね」
「確かに生地良さそうだしな」
「そこじゃねぇだろ」
スピナーに荼毘がツッコむ。なぜか話題がドレスになる。
「回ってみてくれ」
「殺すぞ」
「ティアラ重いですか?」
「知らねぇ」
「付けてみたいです」
「やらん」
「ください」
「やらん」
「そういやなんで姫なんだ?」
「そういえばそうですね!カァイイです!」
「殺すぞ」
「褒めてるんです!」
「殺すぞ」
評価はお気に召さなかったらしい。マグネも腕を組みながら眺めてる。
「意外と似合うじゃない」
「死ね」
「言葉が荒いわねぇ」
死柄木までこっちを見始める。
「・・・なぁ、何で姫なんだ?」
結局そこだった。爆豪の額に青筋が浮きまくっている。埒が明かないし説明するとしよう。
「ヴィラン連合の目的が爆豪だって聞いた」
「それで?」
「攫われる対象、つまりお姫様」
「意味が分かンねェ」
「お前・・・ヴィラン連合が姫を攫ったみたいになってんじゃねぇか」
珍しく死柄木は楽しそうに言った。
「確かに!笑えねぇ!笑える!」
トガは完全にツボに入ったらしく机を叩いている。マグネも笑っている。荼毘は呆れてる。
「俺達が何のために苦労して拉致したと思ってるんだ・・・」
その結果が姫ドレスの爆豪か、冷静に考えるとかなり絵面がひどいな。
「帰りてぇ・・・」
爆豪がもう三十回ぐらい言ってる。俺も帰れるなら帰りたいよ。
「帰れるぞ!帰れねぇよ!」
その時BARのテレビからニュースが流れた。
『雄英高校林間合宿襲撃事件について続報です』
全員が視線を向ける。
『生徒2名とプロヒーロー1名が行方不明となっています』
プロヒーロー……誰だ……もしかしてプッシーキャッツの誰かか……?でもBARには居なさそうだな……。聞いても教えてくれるわけないし。俺と爆豪の写真が映る。
「有名人だな」
「嬉しくねぇ」
『安否が心配されています』
画面が切り替わると街頭インタビューだった。
『爆豪君についてどう思いますか?』
『怖いけど強そう』
普通だ。
『衣替君についてどう思いますか?』
『服選び上手そう』
「ヒーローじゃねぇな」
「服屋だな」
「服屋ですね」
世間の俺への印象は服屋か。まぁ間違ってないかもな。
「間違っとるわ」
爆豪、こんな状況でも俺の心を読むのか。
BARの中は妙な空気になっていた。死柄木が首を掻きながら話始めた。
「そろそろ本題に入るぞ」
「本題?」
「勧誘だ」
そもそも拉致された理由はそれだったんだ。俺はすっかり忘れていた。爆豪は忘れていなかったらしい。
「断る」
死柄木が言い終わる前に断っていた。判断が早い。
「まだ話してねぇだろ」
「断る」
「最後まで聞け」
「断る」
会話になっていない。死柄木はため息を吐いた。
「お前はヒーロー社会に不満がある」
「ねぇよ」
「ある」
「ねぇ」
「体育祭」
「関係ねぇ」
「周囲の評価」
「関係ねぇ」
全部否定されて死柄木は黙る。俺でも分かった。勧誘失敗してるな。
「お前はどうだ」
急にこっち向くじゃん。
「俺?」
「そうだ」
「服飾科ない?」
「ない」
「じゃあ無理。服作れないし」
「基準そこなのか」
「大事だよ」
「私は賛成です!衣替くん加入!」
「もういい。絶対面倒なことになる」
「既になってるだろ」
荼毘の呟きにその場にいた全員が少し納得した。
その間にもテレビではニュースが映っている。林間合宿襲撃、雄英高校、ヴィラン連合、どの局も同じ内容を流している。
すると急に画面が切り替わった。雄英の記者会見のようだ。根津校長と相澤先生とブラドキング三人が並んでいる。記者達の質問は厳しい。
「責任はどう取るのか」
「生徒を守れなかった理由は」
俺は相澤先生を見た。絶対寝てないな。爆豪は無言で画面を見ていた。いつもみたいに怒鳴らずただじっと見ている。
「不思議なもんだよなぁ。ヒーローが責められてる。現代ヒーローってのは硬っ苦しいとは思わないか」
「知らねぇ」
「はぁ・・・」
「雄英は終わってねぇ」
「まだそう思うのか」
「当たり前だろ」
爆豪の返事は迷いがなかった。
「俺はヒーローになる。何があってもだ!」
死柄木は何も言わなかった。たぶんここで理解したんだと思う。勧誘は完全に失敗だと。
その時ドアがノックされた。
「どーも、ピザーラ神野店ですー」
空気が変わった気がした。
次の瞬間、BARの壁が吹き飛んだ。
そして現れたのは
━━━━━オールマイトだった。
ヒロアカ舞台100回ぐらい観てるとオールフォーワンの声子安武人でもアリだなと思えてくる