主人公くん女装しすぎかも
レディースもメンズも平等に愛してるだけなんだけど
雄英高校A組学生寮。通称、ハイツアライアンスの前でA組は妙にざわついていた。まぁ今日から本格的に寮生活が始まるからな。夏休みの途中でこんなことになるなんて、少し前までは誰も想像していなかったはずだ。俺もその一人だ。というか築3日の見た目じゃないこの寮。
寮の前にはA組全員が集まっていた。ちゃんと相澤先生もいて良かった。
「でっけぇー!!」
「マンションじゃん!」
「テンション上がるー!」
上鳴も芦戸も元気だ。葉隠もぴょんぴょんしている。
「みんなでお泊まりみたいだねー!」
「遊びに来たんじゃねぇぞ」
相澤先生の一言で少し静かになる。でも完全には静かにならない。無理だと思う。
「とりあえず1年A組が無事にまた集まれて何よりだ。これから寮について軽く説明する。あと当面は合宿で取る予定だった仮免取得に向けて動いていく」
切島が周囲を見渡す。轟はいつも通り静かだ。緑谷は少し緊張しているように見える。飯田は既に仕切りモードに入っていた。
「諸君!本日から共同生活だ!規律ある行動を心がけ━━」
「うるせぇ」
「なっ・・・!」
「朝から声でけぇんだよメガネ」
「これはクラスの秩序のためであってだな━━」
いつもの流れに少し安心する。この騒がしさは、A組っぽい。
寮に入るとまぁまぁな広さ。
「1棟1クラス。右が女子、左が男子と分かれてる。ただし一階は共同スペースだ。食堂や風呂、洗濯などはここで行う」
「中庭もあんじゃん」
「広キレー!!」
「豪邸やないかい!」
「麗日くん!?」
「部屋割りはこちらで決めてある。とりあえず今日は各自部屋を作れ」
そうだまだ部屋作りが残っていた。俺の部屋は5階か…………遠い………………
「明日また今後の動きを説明する。以上、解散」
「「「「はい!」」」」
相澤先生がいなくなって数秒後、芦戸が言う。
「・・・で、部屋見せ合いとかする?」
「やる?」
「楽しそうだな!」
「親睦を深めるのは良いことだ!」
するのか?俺は構わないが困るやつも居そうだが。
さて部屋作りといこう。作業スペース作ってミシンも置いて、服の整理もしなくては……
荷解きが終わる頃にはすっかり夜だった。本当なら風呂に入ってさっさと寝るべき時間だと思う。明日からたぶん訓練再開だし、神野以降ずっと気が張っていたせいで全員なんだかんだ疲れているはずだ。精神的にも体力的にも、今日はもう休んだ方がいい。
……まあ、A組にそんな常識が通じるなら苦労しない。
「部屋見せ合いしようぜ!」
上鳴の一言で空気が決まった。決まるのが早い。芦戸が即座に乗り、葉隠が面白そうに笑い、切島も「いいじゃねえか!」と賛成し、気づけば全員その流れになっていた。止める人間がいない。
こうして夜の部屋披露会が始まった。
ちなみに爆豪だけは部屋に入ってから一向に出てこない。切島が様子を見に行って戻ってきたが「寝てる」とのこと。早いな。まだ九時前だぞ。でも誰も笑わなかった。神野で一番振り回されたのは間違いなく爆豪だし、疲れてるのも当然だ。俺もちょっと自覚があるし。ちょっとだけ。
最初は緑谷の部屋。壁にオールマイト、棚にオールマイト、机にオールマイト、ベッド横にもオールマイト。ポスター、フィギュア、雑誌、写真、サイン、グッズ。視界の九割がオールマイト。
「オールマイト多っ!」
「いや待ってまだいる!」
「ここにも!」
「違うんだよ全部ポーズとかデザインが━━━」
緑谷が早口で何か解説を始めたけど、誰も半分も聞いていなかった。
次は常闇。とにかく暗い。照明が少ないし色味も黒、紫、深紅で統一されている。剣、ドクロ、蝋燭風ライト。なんというか、予想を一切裏切らない部屋だった。
「中二病だ」
「出ていけ!」
次は青山。本当に眩しい。照明が反射しているのかと思ったら違った。鏡だ。壁、棚、机、いろんな場所に鏡がある。多い。多すぎる。どこを見ても青山が映る。右にも青山、左にも青山。
「増えるな」
「ボクは一人さ☆」
峰田の部屋は誰も入らなかった。本人は必死に呼んでいたが。
「おい!! なんでだよ!!」
「なんとなく」
全員スルーした。これは仕方ない。
飯田の部屋は本が多かった。そこは分かるが問題はそこじゃない。眼鏡が多い。予備とかそういうレベルじゃない。
「眼鏡多すぎない?」
「訓練での破損に備えてだ!」
上鳴の部屋は、本人をそのまま部屋にしたような空間だった。ダーツにバスケットボールに間接照明、とにかくチャラい。テーマが散らかっているようで、なぜか上鳴っぽさだけは完璧に出ていた。
「チャラ」
「語彙力!」
口田の部屋に入った瞬間、全てが終わった。うさぎがいた。
女子陣が一斉にしゃがみ込む。
「かわいいいい!」
「ふわふわ!」
「え、待って、可愛い!」
切島の部屋は暑苦しかった。サンドバッグ、ダンベル、筋トレ器具、壁には《大漁》《必勝》。妙に実家感がある。
「暑苦しい」
「男らしいだろ!?」
「昭和っぽい」
「昭和って言うな!」
障子の部屋は逆に驚くほど何もなかった。布団、テーブル、座布団。終わり。広い部屋なのに物がなさすぎる。
「物欲ないの?」
「昔からな」
「仙人みたいだな」
瀬呂の部屋では全員ちょっと驚いた。普通にオシャレだった。アジアンテイストで統一されていて、観葉植物やハンモックまである。居心地がかなりいい。
「モテる男の部屋だ」
「ギャップの男、瀬呂くんです」
轟の部屋を開けた瞬間、全員同じ顔になった。和室だ。畳、襖、座布団。どう見ても和室だな。
「寮だよなここ」
「落ち着く」
砂藤の部屋からは甘い匂いがした。オーブンが動いている。
「ケーキ焼いてんの!?」
主に女子陣のテンションが爆上がりした。披露会が終わったら仕上げるらしい。
そして男子最後は俺の部屋。
全体の色味は黒、白、紫で統一。作業机、ノートPC、タブレット、資料、ファッション誌。大型の作業机には裁ちばさみ、糸、針、メジャー、チャコペン、金具類が綺麗に並んでいる。壁際にはミシンが二台。トルソー※1が三体。ラックには大量の服。壁にはデザイン画、アクセサリー案、ブーツ設計図まで貼ってある完全な洋裁部屋。
「すごい!衣替くんは思った以上に本格的に服を作っていたんだ!!だからこそ場面に応じた━━━━━━」
「職人じゃん」
「ミシン二台!?」
「用途が違う」
「分からん」
分からないらしい。まあそうだろう。耳郎がある一点で止まった。
「あ」
全員の視線がそっちへ向く。ラックの端に一着の魔法少女衣装が掛かっていた。胸元に大きく書かれた文字は『まじかる♡かっちゃん』
「なんで?」
耳郎が真顔で聞いた。
「必要だから」
俺も真顔で対抗した。服に罪はないので何もおかしくない。
「ちょっと楽しみだなー!」
「上鳴の分も用意しとくよ」
スンッと無表情になった上鳴は無言で部屋を出ていった。他のみんなも俺と目を合わせないように出ていく。悲しい。
そこで芦戸がパンッと手を叩いた。
「はい男子部屋終了! 次、女子部屋!」
女子フロアへ移動する男子陣は、なぜか少しだけ緊張していた。女子の部屋って、なんというか、踏み込んじゃいけない空間感があるらしい。俺は別に気にしないがこのまま入るのは違う気がした。
指を鳴らす。
白とラベンダーを基調にしたガーリー系コーデ。ゆるめのニットに、スカート風レイヤード、細身ブーツ(ちゃんと綺麗)。リボンや小物まで綺麗にまとまっている。
かなり少女っぽい、俺。
「衣替くん!? 何故だ!?」
「何が?」
「何がじゃない!」
飯田が珍しくツッコミ役になっている。
「なぜその格好になったんだ!?」
「女子エリアに入るから配慮」
「ええええええええ!?」
「かわいいいい!!」
「何その服!?」
「待って待って待って、めっちゃ似合う!!」
元気女子ズに一気に囲まれた。
「衣替くんかわいーーー!!」
「近いぞ、葉隠」
かなりうるさい。
最初は耳郎。部屋に入ると楽器だらけだった。ギター、ベース、キーボード、スピーカー。しかも全部ちゃんと使い込まれている。モノクロと赤ベースでまとまっていてオシャレだ。
「ロッキンガールだったんだね!」
「かっけぇ」
耳郎は照れくさそうに肩を竦めた。
次は葉隠。部屋全体がピンクでふわふわしていた。ぬいぐるみ、小物、クッション、全部可愛い方向に全振りしている。そして壁には大量のA組の写真が貼られていた。可視化ブレスレットのおかげで葉隠本人もちゃんと写っている。
「いっぱい撮ったんだー!」
楽しそうで何よりだ。
次は芦戸。派手。赤、ピンク、黒。とにかく元気。部屋まで本人そのものだった。
「芦戸って感じだな」
「でしょー!」
次は麗日。すごく普通だった。綺麗に整っていて生活感がある。変に飾りすぎてもいない。でもその普通さが逆に妙にリアルだった。
「なんか落ち着く」
「ほんま?」
「生活感があるな」
「そこ!?」
次は蛙吹。扉を開けた瞬間、湿度が高い。加湿器、観葉植物、水辺っぽいインテリア。そしてカエル。クッションもカエル、小物もカエル。
「湿度すご」
「落ち着くわ」
最後は八百万。全員ちょっと豪華な部屋を想像していたと思う。確かに豪華な家具ではあったが、とにかくベッドがでかい。部屋の面積をかなり占領している。
「部屋が思ったより小さくて・・・」
いや違うと思う。ベッドが大きすぎるだけだと思う。
こうして女子部屋も一通り見終わった。時間もかなり遅い。普通ならここで解散だと思う。
だが俺たちは部屋披露会がひと段落した頃、砂藤の部屋へ。そういえばケーキを焼いていたんだった、と全員が同時に思い出したらしく、自然と足がそっちへ向いた。
部屋に入ると、砂藤が仕上げのクリームを塗り始めた。手つきが綺麗で動きに無駄がない。クリームが均一に広がっていく様子は、見ていて妙に気持ちいい。
「すげぇ」
「プロみたい」
「趣味だけどな」
砂藤は淡々としていたけど、かなり慣れているのは一目で分かった。ナッペも上手いし、手際がいい。見ているうちに、ケーキがどんどん綺麗になっていく。
砂藤が不意にスマホをこちらへ向けた。
「衣替!」
「何?」
「こういうの作れるか?」
画面に映っていたのは、かなり凝ったスイーツ。チョコレート細工、飴細工、花の装飾。もはやケーキというより芸術品だった。
思わず少し見入る。かなり綺麗だ。でも構造を見れば分かる。素材の特性、厚み、重なり方、支え方。頭の中で工程を分解していく……いける。
「作れると思う」
「マジか!」
「ちょっとやる」
材料をもらってテーブルに向かう。みんな見ているが気にならない。こういう細かい作業は好きだ。アクセサリー制作にかなり近い。必要なのは手先の精度と全体のバランス感覚。
チョコを薄く伸ばし、冷やし、形を作り、重ね、整える。少し歪んだら修正する。集中すると周りの音が遠くなる感覚がある。手だけが勝手に動いていく感じだ。どれくらい経ったか分からないけど気付けば手が止まっていた。
「できた」
全員が一斉に覗き込む。
「え、すご」
「ええ!? 初めてでこれ!?」
かなり綺麗にできたと思う。花モチーフのチョコ細工で、立体感もあるしバランスも悪くない。我ながら初回にしてはかなり上出来。
砂藤が無言でそれを見つめている。少し気になって顔を見ると、砂藤はぽつりと言った。
「・・・衣替お前パティシエ向いてる」
「確かに!」
「器用すぎでしょ!」
「手先どうなってんの!?」
みんな好き放題言っている。でも悪くない気分だ。褒められるのは普通に嬉しい。
そのままケーキの仕上げに入る。生クリームを整え、フルーツを乗せて、最後に俺が作ったチョコ細工を中央へ置く。完成……かなり綺麗だ。
「おいしそー!」
「早く食べたい!」
女子陣が目を輝かせる。葉隠がフォークを持ち芦戸も完全に食べる気満々だった。
ふと気持ちが沈んだ。……食べるのか。せっかくここまで綺麗にできたのに。芸術品みたいに仕上がったのに。これから切り分けられて、崩れて、なくなる。かなりもったいない。どうやら顔に出ていたらしく砂藤が気付いた。
「どうした?」
「・・・食べるのもったいない」
砂藤がしばらく俺を見て、それから真顔で言った。
「衣替」
「何」
「やっぱパティシエ向いてないわ」
「ぶはっ!」
「そっちか!」
「確かに!」
笑い声が響く中俺だけ納得していなかった。
でも結局、その数分後には女子陣を中心に綺麗に食べられた。
俺の複雑な心境の視線は全員に無視された。
日常回を増やしたいですね