日常
風呂回
訓練終わり夜
この時間の寮はわりと平和だ。
ロビーで談笑する者、部屋で勉強する者、筋トレする者。過ごし方はそれぞれだが、一日の終わり特有のゆるい空気がある。
そして男子の何人かは一階の風呂に集まっていた。
シャワーを済ませて湯船に浸かると思わず息が漏れた。疲れた身体に染みる。今日は切島、上鳴、瀬呂、緑谷、飯田、爆豪、それから俺がいた。まあ爆豪は喋らないが。
湯船に浸かりながら、なんとなく全員を眺める。切島は相変わらず元気だし、上鳴と瀬呂はどうでもいい話で盛り上がっている。飯田は風呂でも姿勢がいい。緑谷はリラックスしているようで、どこか考え事してる顔だ。
ふとずっと引っかかっていたことを思い出した。前から気になっていた。ついに我慢できなくなってしまった。
「緑谷」
「え?」
緑谷もみんなも何となくこっちを見る。
「前から思ってたんだけど、Tシャツなんであんなにダサいの?」
「き、衣替くん!?」
「急だなオイ!?」
「白地に黒文字で“Tシャツ”って書いてあるやつ。あと“ドレスシャツ”。この前“シーツ”も見た」
「あ、あれは別に普通でしょ!?」
少なくとも俺の基準では普通ではない。
「普通じゃない」
上鳴と瀬呂はもう耐えられなかった。
「いや俺も思ってた!!」
「俺も!」
「えっ!?」
「言われてみると確かに変かもな・・・」
「切島くん!?な、なんで!?シンプルで着やすいよ!?」
俺は冷静に分析。
「まずデザインが意味不明。服にTシャツって書いてあるが、見れば分かる」
「それな!!」
「情報が一個も増えてねぇ!」
「でも、シンプルでいいじゃん!文字Tって普通にあるし!」
「文字Tはある。でも“Tシャツ”は攻めすぎ」
「たしかに!直球すぎるな!!」
飯田まで乗るんだ。緑谷が助けを求めるように周りを見て爆豪で止まる。爆豪はずっと無言だった。麦茶でも飲みそうな顔で風呂に入っている。
「か、かっちゃんはどう思う?」
「・・・・・・・・昔から思ってた」
ちゃんと答えるのか。全員が注目する。
「クソダセェ」
風呂場が爆発した。上鳴が笑いすぎて沈みかけ瀬呂が水面を叩いて切島も耐えきれない。
「そ、そんな・・・」
「文字しか書いてねぇのにその文字がダセェ・・・逆に才能だろ」
かなりひどい。緑谷も半泣きになってしまった。
「じゃ、じゃあ衣替くんならどんなの着せるのさ!」
俺は緑谷を見る。
緑
真面目
不器用
ヒーローオタク
頭の中でイメージを組みすぐ答えが出た。
「黒ベース」
「差し色で深緑」
「シルエットは少しゆるめ」
「胸元にワンポイント」
「英字はなし」
「ロゴも控えめ」
「素材はコットン強め」
緑谷は静かに聞いていた。
「・・・かっこいいかも」
「でしょ」
当然だろう。
「あと絶対に文字は入れない。特に日本語」
「そんなに・・・?」
「そんなに」
爆豪がぼそっと緑谷を見ながら言った。
「いや、“クソナード”って書いとけ」
「嫌だよ!!」
今日の風呂はいつもよりうるさかった。
風呂から上がって脱衣所で身体を拭いている時だった。
先に服を着終わった爆豪がいつもの無愛想な顔でドアの方へ向かっていた。
その横で上鳴が固まってる。
タオル一枚で。顔色が悪い。
「・・・やべ」
かなり分かりやすいタイプのやつ。瀬呂も気づく。
「どうした?」
「いやー・・・その・・・着替えを忘れた」
「・・・」
「・・・」
「マジかよ!」
「上鳴君何故だ!?」
「訓練で疲れてて!着てた服も洗濯しちまった!」
「どうするの上鳴くん・・・」
上鳴の部屋は三階で、今いるのは一階の男子風呂。途中にはロビーがあるので確実に人目につく。
「全裸で取りに行けやアホ面」
「鬼か!!」
「知らねェよ忘れたテメェが悪ぃ」
上鳴が半泣きで周囲を見回すが切島は笑ってるし瀬呂も助ける気配なし。飯田は「規律が」とか言ってて緑谷はオロオロ。
そして上鳴の視線が俺で止まった。
「衣替様!!」
上鳴本気の土下座が炸裂した。
「個性で何か服を着せてください!!」
脱衣所に響く土下座音。すごい勢いだ。人が本気で土下座する様を初めて見た。ちょっと感動。
「部屋着いたらすぐ返しますんで!お願いします!!」
……確かに個性で着せれば解決する。ただ。普通に着せても面白くないよな……ちょっと遊ぶか。
「いいよ」
「マジで!?ありがと衣替!!」
俺は静かに指を鳴らした。
パチン
上鳴の服が変わるが誰も何も言わない。上鳴が違和感に気づいて自分を見ると
「・・・え?」
白いふわふわ素材
肩には大きな羽
背中にも羽
頭には天使の輪
胸元には金文字《ANGEL》
下はやたら短い白いショートパンツ
全体的に妙にキラキラしている
完全に天使。
切島が最初に崩れた。
「ぶはっ!!」
瀬呂が壁に手をついて笑い始める。緑谷は口を押さえて震えていた。飯田が眼鏡をずらした。
「なんだその服は!?」
「エンジェルコーデ」
「・・・なんで?」
「もっと普通のあっただろ!!w」
もちろんあるがこっちの方が面白い。
「行けやアホ面」
「この格好で!?」
「嫌なら全裸で行け」
完全に詰んだ上鳴は絶望顔で震えながら立ち上がる。
「くっ・・・行ってくる・・・」
誰も止める理由もないので上鳴が半泣きで脱衣所を飛び出した。
数秒後ロビーから悲鳴が聞こえた。
「えっ!?」
「なにあれ!?」
「上鳴くん!?」
女子の声だな。
「あはははは!!」
「何その格好!!」
「待って写真!!」
「撮るなああああ!!」
脱衣所の中はもう笑いを耐えられなかった。爆豪でさえ鼻で笑ってた。
俺は少し満足する。かなり似合ってたし。
数分後、着替えを抱えた上鳴が戻ってきたが顔が真っ赤だった。目元も少し潤んでいる。
「衣替・・・」
「なに?」
「一生忘れねぇからな・・・」
「そんなに嬉しかった?」
「逆だよ!!」
ギャグだと上鳴、瀬呂、芦戸、葉隠、耳郎あたりが優秀すぎていっぱい出ちゃいます