仮免試験当日
朝のバスは珍しく少し静かだ。みんな緊張している。落ちるわけにはいかないからな。
国立多古場競技場に到着し降りる。
バスを降りた瞬間視界に飛び込んできたのは大量の制服。……多いな、人も多いけど制服の情報量がすごい。全国から集まっているだけあって、学校ごとにかなり違う。色々見える。ネクタイが太い学校、スカート丈が特徴的な学校、ブレザーのラインが独特な学校、面白い。学校ごとの思想が服に出る。
周りが何か騒いでいたが半分聞いていなかった。気になる制服があったから。袖のカッティングが独特だな、あれは可動域を確保してるのか?いいな……肩周りの設計を━━━━━
「衣替お前聞いてたか?」
「半分」
「絶対聞いてないよな!?」
聞いてないかも。制服を見ていたから。
「士傑の夜嵐イナサって奴がでかい声で騒いでたろ!よくスルーできるな!?」
瀬呂のいつも通りなツッコミはそこまで緊張してないということなんだろう。いいことだ。
「衣替絶対制服観察してたっしょ」
「してた」
耳郎に呆れられた。こっちは緊張してそうだ。
「こんな時でもブレないのは羨ましいわ・・・」
むしろこういう時しか見られないだろう。全国の制服、資料価値が高い。
相澤先生が女性ヒーローに絡まれてる。Ms.ジョークというらしく彼女もまた教師のようで、生徒たちが後ろからやってきた。
先頭は爽やかな雰囲気の男子、真堂。一見笑っているが何か企んでるな。狡賢いタイプだろう。と思ってたら爆豪が見抜いた…!爆豪、お前も目覚めたのか…服飾心理学に……
「目覚めてねェ」
目覚めてそう。
「おい!コスチュームに着替えてから説明会だぞ。時間を無駄にするな」
中は視界いっぱいに受験生がいる。ざっと見ても千人近い。密度が高いな、コスチュームが観察しずらい。
雄英A組も自然と少し固まって歩く。
ヒーロー公安委員会の目良という人が説明を始めた。いかにも眠そうな顔をしている。1540人による勝ち抜けか。しかもスピード重視の先着100人のみ通過……5割どころではない。俺には少し難易度が高そうだ。
ルールは単純、3つのターゲットを装着し3つ全てにボールを当てられたらアウト。2人倒せばクリアか。
「他人のターゲットを破壊、もしくは消失させた場合も失格です」
何故か俺に向けられた言葉のような気がする。意識してターゲットを残し着替えさせるか、何も考えず、ターゲットは見えなくなってしまうが上に重ね着させれば済む話だ。問題は無いな。
説明が終わると部屋が展開した。
すご。なぜ?
全員各地に向かって走り出した。
緑谷が素早く周囲を見回して口を開いた。
「みんな!あまり離れず固まって動こう!雄英は個性が割れてるから絶対狙われる。分散すると各個撃破される可能性が高い」
「その通りだ! まずは集団行動で状況を見極めるべきだろう!」
だが爆豪は「遠足じゃねえんだよ」と吐き捨て離脱。切島と上鳴も着いていった。
轟も「大所帯じゃ力を発揮できない」と別方向へ。
轟はいつも通り落ち着いていたから心配いらないだろう。爆豪も強いし。
開始ブザーが鳴って第一次試験開始。
全員が身構えるが…………誰も来なかった。
俺たち以外に1500人以上もの受験生がいるのに誰も仕掛けてこない。
雄英A組を中心に、大勢が遠巻きにこちらを見ていた。岩の陰、柱の裏、隙間から、顔を覗かせ隠れながら様子を伺っている。
「え」
「なんだこれ」
緑谷も違和感を覚えたらしい。周囲を警戒したまま視線を巡らせている。
離れた場所から声が聞こえた。
「・・・まだだ」
「近づくな」
「衣替いるぞ」
「魔法少女にされる」
別方向からも
「男子から行くな」
「女子なら平気か?」
「いや平気じゃないわ」
「フリフリは無理」
また別方向
「絶対嫌だ」
「俺まだ彼女いないのに」
「人生終わる」
「衣替が警戒されてる!?」
「そっちかー!」
「めっちゃ有名だなオイ!!」
「悪名高い・・・!」
最後の常闇にはちょっと傷付いた。緑谷はずっと真面目な顔で分析していた。
「雄英全体というより衣替くんへの恐怖が強いね・・・」
しかし、周囲を見て思うが隠れている位置が丸分かりだな。別に全身を視認出来ていなくても俺は位置さえわかれば着替えさせることが出来る。
これ、逆にチャンスじゃないか?温めていた必殺技を試す……
「俺も離れる」
「危ないよ! 今一番狙われてるの衣替くんだよ!」
「だから向こうも動けてない」
俺がいるだけで牽制になっている。このままじゃ先着100人が埋まってしまう。ならば待つよりこっちから行くべきだ。
緑谷は一瞬考え込み、すぐ何かを思いついた顔になる。
「葉隠さん!」
「え?」
「衣替くんについていって! 透明だから相手には衣替くん一人に見える!」
なるほど、悪くない。
「オッケー!」
「お願い!」
決まりだ。俺は前へ出る。見えないけど葉隠も隣にいる。手袋とブーツは脱いだらしい。
「来た!」
「衣替動いた!」
「やばい!」
逃げ腰になる他校生たちに俺は指を鳴らした。
パチン
一瞬で数十人の服が重ね着される。フリル、レース、リボン。パステルカラーのスカートがふわりと広がり、膝上までのソックスに編み上げブーツ、胸元には大きな宝石風ブローチ。頭には猫耳、うさ耳、羽飾りまでついている。
あちこちで魔法少女が爆誕した。
「ぎゃあああ!?」
「うわあああ!!」
「やめろぉぉぉぉ!」
「あんまりだぁぁぁ!!」
男も女も関係なく、全員が完璧な魔法少女仕様だった。ざわめきが一気に悲鳴に変わる。その隙に衣替は涼しい顔で周囲を見渡した。
「うん、悪くない」
風に揺れる自分の前髪を払って、にっこり笑う。やっと試せた《魔法少女地獄絵図》。満足だ。
パニックで隠れてた他校生が一斉に飛び出す。俺は靴をローラーに変えて走り出した。とりあえず葉隠の分も含めて4人、速攻で倒すのが目標。
一人目はまだ魔法少女衣装になった自分を見て硬直していた。視線が自分のスカートに落ちていて完全に反応が遅れているところを背後から一気に距離を詰め、振り向くより先に回し蹴りを重量型の軍靴で側頭部に入れた。そのまま倒れ込む相手に接近し、魔法少女を解除。手に持ったボールを首、右手首、左手首へ連続で押し当てる。
二人目は焦ってボールを投げてきたが、軌道が雑だった。少し身をずらして避け、そのまま低く潜り込り足を払い、魔法少女解除。派手に転んだところを葉隠がボールでターゲット3箇所をタッチ。
三人目は少しマシだった。すぐ後退して距離を取ろうとしたが、その瞬間見えない何かに足を取られてバランスを崩した。葉隠が見えないまま膝裏を蹴ったらしい。前のめりになった相手の腹にヒールで前蹴りを入れ、気絶させとく。
四人目はようやくまともに対応してきた。距離を保ちながらこちらを警戒している。だが視線が泳いでいた。何度も服に意識が向いている。フリル、リボン、レース。魔法少女衣装が精神的に効きすぎて集中しきれていないようだ。視界の隅で「アレいくよ!」と葉隠の声がした。相手の視線は自然と葉隠の方向へ。俺はというとサングラスを装着した。かなり光をカットするタイプ。
「集光屈折ハイチーズ!!」
葉隠が光り輝く。編み出した必殺技らしい…まるで閃光弾だな。俺は踏み込み、目を潰された相手の肩口へヒールを叩き込む。鈍い音が響いて相手が崩れたところへ魔法少女を解除しボールを3箇所に押し当てる。
気絶させておいた三人目のターゲットを葉隠がボールでタッチし、アナウンスが鳴る。
『おっと2名通過!この調子でドンドン行きましょうー』
「やったー!」
すぐ隣で葉隠の声が弾んだ。見えないけどたぶん飛び跳ねてる。これで俺と葉隠はクリア………思ったよりあっさり終わったな、A組のみんなは大丈夫だろうか。と少し息を吐いたその時、少し離れた場所から拍手が聞こえた。
ぱち、ぱち、ぱち。
視線を向けると知らない人だった。
「士傑の人だよ!!バス降りてから見たでしょ!?」
そうだったか?そうだったかもしれない。
「ケミィだよー」
ふわっとした笑顔。でもやっぱり妙だ。ただ見ていただけじゃない。ずっとこっちを観察していたみたいな目をしている。楽しそうに、面白いものでも見てるように口元を緩めていた。
「すごいねえ」
目が合うとニヤッと笑った。その笑い方を見た瞬間、背筋が妙にざわついた。何か引っかかるな。初対面のはずなのに妙に馴れ馴れしい。まるで会ったことあるかのような、そんな違和感が消えなかった。
「もしかしてイレイザー言ってないの?雄英潰しのこと」
「言う必要が無い。・・・・今年は特にな」