着替えろヴィラン!!魔法少女なんてどうだ?   作:運命決定

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プリキュアとプリパラ見ながら仕上げました



文化祭ライブ

 

 

文化祭当日朝九時二十分

 

全員クラスTシャツを着て準備万端だ。だが……

 

「・・・遅いな」

 

俺は時計を見る。ライブ開始までもう時間がない。

 

「緑谷まだ帰ってこないのか?」

 

「買い物だろ?さすがに長くね?」

 

瀬呂と切島も首を傾げる。飯田が時計を見て眉をひそめた。

 

「途中で何かあったのだろうか・・・」

 

耳郎も落ち着かない様子で入口を見る。

 

「スマホ繋がんない?」

 

「スマホ寮のロビーに置いてある」

 

「は?」

 

「さっき俺見た」

 

「なんで置いてってんだよ」

 

空気が少しだけ重くなる。十分経ってもまだ来ない。探しに行こうとする者もいたが入れ違いになるかもしれないと引き止める。そもそもすぐ見つかる場所にはいないだろう。変だ……買い物だけでこんなに遅れるか?何かあったのは間違いない。理由は分からないが。

 

「緑谷抜きの配置考えとく・・・?」

 

「最悪それも有り得るわね」

 

控室の空気が完全に張り詰めていたその時だった。バンッ!!と控室の扉が勢いよく開く。

 

「ご、ごめん!買い物中に色々あって!!」

 

肩で息をしている緑谷だった。汚れた服、髪には土埃。

 

「ようやく緑谷が帰ってきたぞ!」

 

「スマホくらい持ってけ!」

 

「マジで焦ったぞ!」

 

「ほんとごめん!」

 

緑谷は頭を下げ続ける。その様子を、俺は少し離れた場所から見ていた。戦った?その考えが頭をよぎる。

緑谷は俺と目が合った瞬間だけ、ほんの少し困ったように笑った。何も言わない。聞くなと、そう言っているみたいだった。

 

「まぁいい」

 

俺は指を鳴らす。緑谷がクラスTシャツに着替えられた。

 

「衣替くん助かるよ!」

 

とりあえずこれで問題なくライブを始められる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は最後の一着をハンガーへ掛け、ゆっくり息を吐いた。ステージ袖は思っていたより落ち着いていた。一人一人の癖に合わせて作った二十着近い衣装が、ハンガーラックに順番通り並んでいた。

 

「衣替。」と声を掛けられる。振り向くと耳郎が立っていた。

 

「緊張してるか?」

 

「・・・してるよ。人前で歌うなんて初めてだし」

 

「そっか」

 

「でもさ」

 

耳郎は俺の隣まで来る。ハンガーラックへ並んだ衣装を眺めて、小さく笑った。

 

「前までさ、音楽って趣味で終わるもんだと思ってた」

 

「?」

 

「ヒーローになりたいなら、音楽は諦めるしかないって」

 

俺は首を傾げる。耳郎は並んだ衣装を見つめたまま続けた。

 

「でも、衣替見てたら違うんだなって思った」

 

「・・・?」

 

「あんた、ヒーロー目指しながら服まで作ってるじゃん。しかも趣味のレベルじゃない」

 

俺は服が好きだから作っていただけだ。ヒーローにもなりたいから訓練もしていただけ。

 

「だからさ・・・夢って一個じゃなくてもいいんだなって、両立してもいいんだなって・・・そう思えた」

 

少し照れ臭そうに笑う耳郎を見て、俺も自然と笑っていた。

 

「できるよ。両方好きなら」

 

「うん。だから今日は歌ってくる」

 

「いってらっしゃい」

 

「ありがと」

 

その一言だけ残して耳郎はステージへ向かって歩いていき、俺はその背中を見送った。服を作るのが好きだったから作った。それだけだったけど、もしその姿が誰かの背中を押せたなら。一か月ミシンを踏み続けた意味はそれだけでも十分だった。耳郎の背中が幕の向こうへ消える。

 

俺はハンガーラックへ視線を戻す。失敗できない。というより、失敗したら一か月分の睡眠不足が全部無駄になる。

 

「開演だ!」

 

幕の向こうから歓声が聞こえる。体育館が揺れるほどだった。

 

「うおおお!!」

「ヤオヨロズー!!」

「一年がんばれー!!」

 

俺は袖から少しだけ客席を覗く。すごい人数だが…見つけた。最前列で壊理ちゃんが通形先輩に抱えられて小さな身体でステージを見上げている。少し緊張しているみたいだった。

 

「大丈夫さ、きっと楽しい」

 

 

 

 

 

 

「行くぞゴラァ!」

 

 

 

 

 

そして最初の音は爆豪の怒鳴り声と大爆発。体育館中へ音が広がり空気が変わる。

 

「よろしくお願いしまぁす!」

 

歌い始めた耳郎の声は優しかった。それでも自然と耳へ届く。言葉ではなく想いだった。曲名は『Hero too』。……すごい。俺は思わず見入ってしまう。ステージ中央で歌う耳郎は、もう教室でイヤホンジャックをいじっていた少女じゃなかった。上鳴が笑いながらリズムを刻む。爆豪のドラムは力強い。常闇が土台を作る。八百万の鍵盤が優しく全体を包む。

 

ダンス隊も動いている。葉隠は可視化ブレスレットのおかげで全身が見える。客席から「アレ葉隠か!?」と声が聞こえた。芦戸も本当に楽しそうだ。飯田はロボットのようなキレのありすぎる動き。麗日は軽やかで柔らかい。蛙吹はしなやか。砂藤と障子は大きな身体を活かした迫力ある動き。緑谷は増強型の力強さと笑顔で壊理ちゃんにアピール。

 

誰一人手を抜いかず、楽しんでいた。

 

……あと少し。ステージでは耳郎の歌声が体育館を包み込んでいた。

 

そして一回目のサビに入る直前、俺は指を鳴らした。

 

パチン

 

次の瞬間、客席がどよめく。オレンジ色の学生らしさのあるクラスTシャツが一斉に光へ包まれる。客席が「えっ」と息を呑んだ次の瞬間には、ステージに立っていた全員の姿がまるで別人になっていた。

 

「えっ!?」

「うわっ!!」

「着替えた!!」

 

これが俺の見せ場。一か月かけて作った二十着。もちろん演出隊の分も。

 

まず一番目を奪われるのは、やっぱり耳郎だ。

 

主役なんだから当たり前だ。黒を基調にしながらも、紫を大胆に差し色へ使ったショートジャケット。インナーはへそが見えるショート丈。動くたびにチェーンが揺れて照明を反射する。スカートじゃなくショートパンツだから脚のラインが綺麗に見える。普段より少しだけ大人っぽく、それでいてロックらしさも忘れない。ボーカルが地味だったらライブは始まる前から負けだ。

 

その後ろでは爆豪が凶悪に笑っていた。

 

黒いノースリーブジャケットにオレンジのライン。余計な装飾はほとんどない。その代わり肩周りだけ少し大きく作って、ドラムを叩くたび身体が大きく見えるようにした。爆豪は服で飾るタイプじゃない。派手なのは演奏だけで十分だ。

 

上鳴は逆だ。

 

黒いパーカーをベースにしたフード付きデザイン。フードの裏地だけ黄色にしてあるから、動くたびにちらっと色が見える。胸元には稲妻を思わせる細いラインを何本も走らせた。ギターを肩へ掛けるとちょうど全部繋がって見えるよう計算してある。あいつは格好つけたがりだから、このくらい遊んだ方が似合う。

 

常闇はほとんど真っ黒。

 

でも真っ黒だからいい。マントを思わせる長い後ろ裾と、羽根を連想させるカット。照明が当たると黒の中へ紫が浮かび上がる生地を使った。派手じゃない。でも一番"らしい"衣装だと思う。

 

八百万はロングスカート。

 

演奏中に裾が広がるよう、生地をたっぷり使った。上半身はジャケットを細身にして、全体が上品に見えるようまとめた。八百万は格好良さより気品だ。

 

ダンス隊へ視線を移す。

 

芦戸は黒をベースにネオンピンクを大胆に入れた。左右非対称のジャケットにショートパンツ、蛍光色のラインが踊るたび残像みたいに流れる。あいつはステージの上で笑ってるだけで目立つんだから、衣装まで遠慮する必要なんてない。

 

緑谷は黒を基調にエメラルドグリーンを差し色にしたデザイン。肩から腕にかけて入ったラインが照明を受けるたび光り、胸元はヒーロースーツを思わせる切り替えが入っている。

 

飯田はスーツをライブ仕様にしたようなデザインだ。黒いロングジャケットに白いラインを一本だけ通して、メカニカルな印象を残したままスタイリッシュにまとめた。

 

麗日は黒とピンク。スカートは短めだけど可愛さより元気を優先したデザインで、ブーツも動きやすい高さにしてある。スカートの中はショートパンツで安心。

 

蛙吹は緑をアクセントにした細身の衣装。身体のラインは隠しすぎず、でも露出も控えめ。しなやかに踊る姿が一番映える。

 

葉隠は水色をメインカラーにした。透き通るガラス細工みたいなイメージで、肩から細いリボンが流れる。可視化ブレスレットのおかげで顔まで見えているから、笑顔も衣装の一部になる。

 

障子は完全に別物だ。六本腕全部を通せるよう袖を独立させ、上半身は黒いマスクを思わせる重厚なデザイン。下はシンプルな黒いパンツ。大柄な体格が映えるよう余計な飾りは付けなかった。

 

青山はもう笑うしかない。黒いロングコート全体へ金色の装飾を散りばめ、腹にはいつものレーザーベルト。緑谷に打ち上げられ、そのまま身体を回転させれば細かく放たれたレーザーが衣装のラインストーンへも反射して、本当にミラーボールみたいに体育館中へ光を撒き散らす。目立ちたがりのあいつにはこれくらいがちょうどいい。

 

峰田は紫を基調に丸いモチーフを散りばめた遊び心全開のデザイン。小さくても目立つ。動きやすくゆったりしたパンツ。

 

砂藤は力強さを感じる。イエローをアクセントにパワフルさを表現。厚めの素材でタフに。

 

演出隊の俺たち。

 

口田は茶色とカーキを合わせた落ち着いた衣装で岩の質感をイメージ。動物モチーフをさりげなく取り入れている。

 

轟は左右で赤と白を控えめに配色したアシンメトリー。どちらも派手さじゃなく本人の雰囲気を大事にした。

 

切島は胸から肩へ炎みたいな赤いラインを走らせて、ジャケットの裾は少し裂けたようなデザイン。男臭くて熱い、本人そのものだ。

 

瀬呂は腰へ黄色いベルトを巻いてテープのイメージを入れた。派手すぎず、それでも軽快に見えるよう細身に仕上げてある。

 

そして最後は俺。黒いライダースジャケット。紫の差し色。そしてゴールドのラインが走る白を基調としたコート。服飾デザイナー兼ヒーローらしい実用重視のデザイン。客席からはほとんど見えないがそれでいい。主役は俺じゃない。

 

この二十着全部が揃って、初めて"A組のライブ"になるんだから。

 

「「「うおおおおおお!!」」」

「すげぇ!!」

「衣装プロじゃん!?」

「着替えた!!」

「きれい・・・!」

 

ステージではダンス隊の隊形が変わる。芦戸が中央へ飛び出し、大きくターン。その動きに合わせ、障子が後ろで大きく腕を広げると六本の腕が照明を受け、一瞬だけ翼のように見えた。その前を葉隠が駆け抜ける。観客の目にも彼女のダンスが映る。「葉隠ちゃん可愛い!」客席からそんな声が飛んだ。葉隠は嬉しそうに両手を振る。

 

続いて峰田のハーレムパート。顔がかなりウザいドヤ顔。そしてロボットダンスしてる飯田の必死の形相に観客も吹き出す。

 

その勢いのまま二回目のサビに合わせ瀬呂と轟で氷の橋をかける。口田が鳩達を操りライトの向きを変え、八百万が腕からクラッカーを鳴らしカラフルなテープを紙吹雪が会場を舞った。

 

緑谷がミラーボールと化した青山を釣り上げた状態で天井近くを走り、切島は氷を削りながら氷の橋を駆けた。削られた氷が青山のレーザーに反射し幻想的な空間を生む。仕上げに俺は指を鳴らし、青山にホログラム素材のツバサを着せることで更にレーザーや照明を反射させ虹色に光り会場を魅了させる。

 

「うわぁぁぁ!」

「綺麗!」

 

天井一面が星空みたいになる。その光の中心で青山が両腕を広げる。

 

「まじでミラーボールじゃん!」

「すげぇぇぇぇ!」

「青山ーー!!」

 

青山は得意満面だ。今日は思う存分目立っていい。そのために俺が作った。

 

蛙水が舌で空中の麗日を操り、観客達を浮かせていく。こき下ろしに来ていた生徒たちも含め、客席は盛り大いに上がっていた。壊理ちゃんも……

 

「笑ってる・・・」

 

治崎の恐怖に囚われ笑えなかった少女が、満面の笑みを浮かべていた。通形先輩も横で泣きながら笑っている。緑谷の目にも届いていると信じよう。

 

耳郎は全力で、本当に楽しそうに歌い続ける。その横で上鳴が「最高じゃねぇか!」と笑う。

 

観客席から黄色い歓声が飛ぶ。俺は袖から衣装を眺めるんじゃない。着ている人間を見る。やっぱり服は誰かが着て初めて完成する。よし、想像通りだ。全員ちゃんと一番格好いい。これだ。上手い演奏とダンスだけじゃない。笑って、楽しんで、みんなで一つになる。それがA組のライブだ。

 

……あと一つ。最後の仕掛けが残っている。派手じゃないが、一番好きな仕掛けだ。そのために先生から特別な許可も得た。ついにラストのサビが来る。

 

 

 

「Yea I'll be!!」

 

 

 

 

俺は舞台袖で大きく息を吸い、右手を鳴らす。

 

パチン

 

ライブ衣装が光に包まれる。黒を基調にしたステージ衣装は一瞬でほどけるように消え、それぞれ見慣れたヒーローコスチュームへ姿を変えた。

 

「うおおおおおお!!」

 

体育館が揺れた。客席のどよめきが一拍遅れて歓声へ変わる。

 

「ヒーロースーツだ!」

「また着替えた!」

「すげぇぇぇ!!」

「ヒーローになった!!」

 

俺も思わず口元が緩む。これが最後の演出。この物語は俺たちがヒーローになる物語だからだ。

 

耳郎はヒーローコスチュームのまま歌い続ける。イヤホンジャックが照明を受けて揺れ、歌声はさっきまでよりも力強く体育館へ響いていく。

 

ダンス隊も止まらない。氷の橋の上で客席へ笑顔を向け踊り続ける。

 

全員が笑っている。一か月前、ただ文化祭を成功させたいという気持ちだけで始まった準備が、今この景色になっている。俺はその光景を袖から見つめ、小さく息を吐いた。……よかった。その一言しか出てこなかった。

 

 

演奏が終わりへ近付く。最後の音が体育館へ響き渡ると、割れんばかりの拍手と歓声に包まれた。

 

「アンコール!」

「最高だった!」

「ありがとうA組!」

 

拍手は鳴り止まない。耳郎は肩で息をしながら客席を見渡している。爆豪はドラムスティックを肩へ担ぎ、「やり切った」とでも言いたげに口元だけで笑う。上鳴は両手を大きく振り、ダンス隊のみんなも観客へ向かって何度も頭を下げていた。

 

俺は右手を軽く上げ、そして指を鳴らし全員のコスチュームをクラスTシャツに戻す。客席から「あっ」と声が漏れた。

 

耳郎は自分の胸元を見て笑った。

 

「最後はこれだよね」

 

「文化祭って感じ!」

 

芦戸が元気よく拳を突き上げる。瀬呂が切島の肩へ飛びつき、切島も豪快に笑う。

 

「大成功だな!」

 

爆豪が鼻で笑う。飯田は感極まったのか、眼鏡を押し上げながら拍手を続ける観客へ深々と頭を下げた。

 

「ありがとうございました!!」

 

その声に合わせるように、また拍手が大きくなる。

 

俺は、もう一度だけ指を鳴らした。

 

変わったのは最前列で通形先輩に抱えられて拍手をしていた壊理ちゃんだった。

 

「あれ・・・?」

 

壊理ちゃんが自分の服を見る。いつの間にか小さなオレンジ色のクラスTシャツへ変わっていた。胸にはみんなと同じ「1-A」。サイズだけが壊理ちゃんに合わせて小さく作られている。壊理ちゃんは目をぱちぱちさせたあと、恐る恐る裾を持ち上げた。

 

「みんなと・・・おそろい・・・?」

 

その小さな呟きが聞こえた。通形先輩は「やるねぇ衣替くん」と笑った。

 

俺は袖から肩を竦める。最初から作ってあった二十一着目。誰にも言わなかっただけだ。緑谷も気付いたらしい。客席の壊理ちゃんを見つけると、ぱっと表情を明るくした。

 

壊理ちゃんは笑顔だった。照れながらも胸の「1-A」の文字をそっと撫でた。

 

俺は袖からその光景を見届ける。

 

文化祭を成功させること。

 

みんなを笑顔にすること。

 

そのどっちも叶った。

 

服で笑顔を作ることはできる。

 

そのことを、この一日が教えてくれた。

 

 





うまく書けたでしょうか

衣装はイメージしてください

葉隠のヒーロースーツはちゃんと胴部も作成済みです(忘れてた)
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