大事なイベントを忘れていました
本来文化祭は11月上旬ですがちょっと時空を歪ませてください
文化祭が終わって数日
放課後のA組寮ロビーでは、誰かが見つけてきた文化祭特集の冊子をきっかけに話題が自然とミスコンへ移っていた。芦戸がソファへ寝転がったまま笑う。
「結局さぁ、八百万のあれ反則じゃなかった?」
「分かる。あれは女子が憧れるタイプだった」
頷いた耳郎に、八百万は読んでいた本を閉じ少し困ったように笑う。
「反則と言われましても・・・」
「いやいや!最初に出てきた瞬間から『おぉ……』って空気になってたじゃん!」
「めっちゃ似合ってたよな〜」
上鳴と瀬呂も思い出したように笑う。
「最初は脚のラインが強調されてる『そういう衣装なんだ』って思ってたのにさ」
「途中でコート翻した瞬間、『そう来たか!』って客席ざわついてたし」
「そうそう!しかもその後のヤオモモのターンかっこよすぎ!」
八百万は照れくさそうに頬へ手を当てる。
「あれは衣替さんのおかげです。私は歩き方くらいしか・・・」
「いや、八百万だから似合った。服だけじゃ無理」
「ありがとうございます・・・」
俺の一言で八百万はさらに顔を赤くする。耳郎が肘で軽くつついてきた。
「あんた、たまにそういうことサラッと言うよね」
「事実だからな」
そのやり取りを見てみんなが笑う。飯田が腕を組みながら真面目な顔で話し始めた。
「俺は演出も見事だったと思う。歩くたびに花びらが舞い、創造の使い方としても非常に美しかった!」
「私もあれ好きだわ」
蛙吹と麗日も会話に混ざる。
「能力を見せつけるんじゃなくて、歩いているだけで景色が完成していく感じだったわ」
「花の道ができていくところ、本当に映画みたいやった!しかもあれ全部モモちゃんのアドリブしょ?」
「はい・・・歩いている途中で、もう少し華やかにした方がいいかと思いまして・・・」
「普通そんな余裕ないって!」
「俺なんかステージ出たら頭真っ白になる自信あるぞ」
「瀬呂と上鳴はその前に転びそう」
「否定できねぇ〜」
「オイラ脚見ようと思ってたのに気付いたら演出見てた・・・くそっ、普通に魅せられた!!」
「おぉ、あの峰田がエロ忘れちまったってやっぱ相当凄かったんじゃね!?」
「オイラの完敗だ!あ、でも波動先輩はエロかった!!!」
「わざわざ言う必要ねぇだろ!」
その返事に、またみんなが笑った。リビングには文化祭の思い出話と笑い声がいつまでも響き続けていた。
10月31日ハロウィン
夕食も終わり、寮のロビーはいつものように賑やかな時間を迎えていた。テレビでは特集番組が流れ、芦戸と上鳴が「渋谷すごいなー」と笑い、八百万は紅茶を淹れ、耳郎はソファで音楽を流している。
その中で俺だけが一人真剣な顔をしていた。カレンダーを見つめ小さく頷く。
「今日か・・・」
「何が?」
瀬呂が振り向く。俺はゆっくり全員を見回した。
「今日はハロウィンだな」
「そうだけど?」
「よし」
年に一度のイベントだ。ならば楽しまければ損だろう。
「お菓子をくれなきゃ・・・着替えさせちゃうぞ」
「絶対それ言いたかっただけだろ!」
「ハロウィンは仮装するイベントだろう」
「いやそうかもしれないけど!お前のはなんか違うから!」
耳郎も笑いを堪えきれない。
「なんで『トリック・オア・トリート』が『着替えさせちゃうぞ』になるのよ」
「俺だからな」
俺は真顔でそう言った。その一言でリビングは笑いに包まれる。
「ほらほら、お菓子ならあるぞ」
上鳴はポケットからチョコを取り出して渡してくる。俺は受け取ると満足そうに頷いた。
「ありがとう」
「よし、セーフ・・・」
上鳴が胸を撫で下ろしたその瞬間だった。
パチン
「え?」
上鳴の黒いパーカーはいつの間にか、狼男をイメージした衣装へ変わっていた。フードには狼の耳が付き、袖口には毛並みを模したファーがあしらわれている。
「えぇぇぇ!?なんで!?」
「サービスだ」
「サービスで着替えさせるな!」
爆笑が起きた。そこへ芦戸が自分から前へ出てくる。
「じゃあ私は?お菓子ない!」
「了解」
パチン
オレンジと黒を基調にした小悪魔風の衣装へ変わる。短いマントがふわりと揺れ、芦戸の角とも相性が良い。
「きゃー!」
芦戸は鏡代わりに窓へ映った自分を見て歓声を上げる。
「これ可愛い!」
「似合う」
俺も満足だった。瀬呂も前へ出る。
「俺も俺も!お菓子なし!」
パチン
全身が白いミイラ男。包帯ぐるぐる巻き。テープの個性だからそれっぽくした。
「なんでだよ!」
「雑魚敵」
「扱い軽っ!」
再び笑いが起こる。峰田はそっと壁際へ逃げようとしていた。
「俺はいい!ほんとにいい!」
だが俺は見逃さなかった。
「峰田お菓子くれ」
「ある!」
慌てて飴を渡す。俺は受け取り小さく頷いた。
「ありがとう」
峰田は安堵したが……
パチン
「え?」
次の瞬間、紫色の魔法使い衣装。とんがり帽子まで被せられていた。
「なんでぇぇぇ!?」
「似合うから」
「理由になってねぇ!」
その様子を見て爆豪が「アホばっかだな」と鼻で笑う。俺はゆっくり爆豪を見た。
「こっち見んな」
「お菓子は?」
「ねぇわ!」
「じゃあ」
パチン
次の瞬間、爆豪の全身は丸っこい巨大なかぼちゃの着ぐるみへ。頭にはヘタ、顔の部分だけ穴が開き、手足だけがぴょこんと出ている。
「ぶはっ!!」
「かぼちゃん!」
「似合う!」
「かわいい!」
爆豪はぷるぷる震えながら一言。
「・・・殺す」
そのまま着ぐるみ姿で全力疾走し、寮中が爆笑と悲鳴に包まれた。
数十分後には、半分以上がハロウィン衣装へ着替えさせられていた。
「次はB組だ」
「まだ行くの!?」
上鳴の叫びを背に、俺はそのままB組寮へ向かった。夜の道を歩く。入口で出迎えてくれたのは拳藤だった。
「衣替?どうした?」
「お菓子をくれなきゃ着替えさせちゃうぞ」
拳藤は一瞬きょとんとしたあと、声を出して笑った。
「何その脅し。はいよ」
ポケットからキャンディを一つ渡してくる。
「ありがと」
俺は受け取ると、何事もなかったように指を鳴らした。
パチン
「え?」
拳藤が目を瞬かせる。動きやすいパンツスタイルの赤ずきん風衣装へ変わっていた。フード付きの赤いマントにショートジャケット、ブーツまで揃っている。可愛らしさの中にも姉御らしい格好良さが残るデザイン。拳藤は思わず笑う。
「お菓子あげた意味ないじゃん!」
奥から物間が現れる。
「何だ騒がしい・・・」
「物間、お菓子くれ」
「もちろんあるとも!」
物間は得意げに高級そうなチョコを差し出した。
「A組とは違うというところを見せてあげよう!」
「ありがとう」
俺は受け取る。
パチン
物間の服が変わる。純白のヴァンパイア衣装。胸元には大きなフリル、そして長いマント。全体的に王子様のようなシルエットだ。
ロビーに居たB組が一斉に吹き出した。
「似合いすぎ!」
「何でそんなに違和感ないんだ!」
「いや待て!じゃあチョコを返せ!!」
「でも似合ってる」
俺の一言で、また笑いが起きた。次に目が止まったのは取蔭だった。
「ロックオンされちゃった」
「取蔭、お菓子くれ」
「持ってないよォ〜」
取蔭は腰へ手を当てた。
「じゃ、お願い」
俺は軽く指を鳴らす。
パチン
「おぉ・・・」
B組男子から感嘆の声が漏れた。
黒を基調とした魔女風ワンピース。裾は短めで、細長い脚のラインが綺麗に伸びている。腰には紫色の細いベルトが巻かれ、小さなほうきを模したチャームが揺れる。肩からは短いマントが流れ、頭には少しだけ傾けて被る三角帽子。どこか悪戯っぽく、大人びた雰囲気が取蔭によく似合っていた。
取蔭は帽子のつばへ指を添え、くるりと一回転する。
「へぇ〜可愛いじゃん!」
「似合う」
「ありがと〜」
取蔭は照れ笑いを浮かべる。次のターゲットは小森。
「私!?きのこの山ならあるノコ!」
「ありがとう」
パチン
現れたのは、キノコの妖精のような衣装だった。ベージュとクリーム色を基調にしたふんわりしたワンピース。スカートは幾重にも重なり、森の落ち葉のような色合いになっている。頭には丸いキノコを思わせるベレー帽。袖口には白いファーが付き、ブーツには小さなキノコ型の飾りまで揺れていた。
「かわいい・・・」
「これは小森にぴったり」
「本当に森の妖精みたいだ」
小森は自分の姿を見て少し嬉しそうだった。
「アイドルっぽい!」
その姿を見た黒色は、思わず息を止めた。普段から無表情に近い顔だったが、心の中では完全に見惚れているに違いない。
視線が合うと小森がにこっと笑う。黒色は一瞬固まったあと、小さく目を逸らした。
「・・・似合うよ」
それだけ言うのが精一杯だった。小森は嬉しそうに笑う。その笑顔を見た黒色は、さらに顔を背ける。
(まずい、可愛すぎる……)たぶんそう考えてる。俺でもわかった。そこに取蔭が容赦なくいじりに行く。
「あっ。へぇ~黒色分かりやすぅ〜」
「違う」
「何も言ってないけど?」
「違う!」
「青春だねぇ」
「違う・・・」
否定すればするほど説得力がなくなっていく。そんなやり取りを見ながら、俺は黒色へ狙いを定める。
「黒色、お菓子」
「・・・来たか」
黒色が無言でチョコを差し出すので俺は受け取り、小さく頷いた。
「ありがとう」
そして指を鳴らした。
闇のような衣装がふわりと舞う。その中から現れた黒色の姿に、B組全員が「おぉ」と声を上げた。
長く黒いロングコートのような死神装束。フードを深く被り、裾だけがぼろ布のように揺れる。鎌は持たないが、黒い手袋と細いチェーンだけをアクセントにする。普段の無口さも相まって雰囲気が抜群。
小森から「黒色本当に幽霊みたい……でも格好いいノコ」と言われて少し照れる。
「悪くない・・・」
「ふっ・・・着替えさせてよかった」
俺は満足し、小森と黒色の桃色空間を背にB組寮を後にした。
「失礼するよ!」
A組寮に戻り少し経つと、聞き慣れた大きな声と共にオールマイトが大きな紙袋を抱えて入ってきた。
「みんなハッピーハロウィン!私がお菓子を差し入れに来た!」
「オールマイト!ありがとうございます!」
緑谷が嬉しそうに駆け寄る。オールマイトはA組全員を見渡し、仮装姿に目を細める。
「ほう! みんな実に似合っている!」
俺はそんなオールマイトをじっと見つめていた。
「どうした衣替少年?」
「オールマイト・・・お菓子をくれなきゃ、着替えさせちゃうぞ」
一瞬、寮が静まり返る。
「もちろんだ!」
オールマイトは笑顔でキャンディを一つ差し出した。
「ありがとう」
一拍置いて、指を鳴らした。
パチン
淡い光がオールマイトを包むと、リビングの空気が凍った。オールマイトは、白を基調に赤と黒のストライプが入った殺人ピエロ風の衣装へ変わっていた。裾がギザギザに裂けたロングコートと大きく膨らんだ襟。所々赤いインクで汚れている。胸元には真っ赤なリボン。そして白塗りの仮面。
痩せた体格と高身長さも相まって、不気味さが何倍にも増している。
「・・・・・・・・」
誰も声を出せない中、最初に反応したのは耳郎だった。
「ひっ!!」
思わず常闇の後ろへ隠れる。
「ちょ、ちょっと待って!怖い怖い怖い!」
一方、本人は鏡代わりの窓を見ていた。
「おお!これはなかなか凝っている!」
くるりと一回転。
「ハッハッハッハ!悪役というのも新鮮だね!」
「ノリノリ!?」
上鳴が叫ぶ横で緑谷は頭を抱えた。
「違います!全然違いますよオールマイト!」
俺はというと今日の〆として大変満足だった。
「成功。ハッピーハロウィン」
オールマイトはそのまま時計を見る。
「では、私は夜の見回りへ━━━」
「「「ダメです!!!」」」
寮中の声が揃った。緑谷が真っ先に飛びつく。
「絶対ダメです!通報されますよ!」
「そうかね?」
オールマイトは首を傾げる。
「ハロウィンだし問題ないのでは?」
「問題しかありません!」
耳郎はまだ常闇の後ろから顔だけ出している。
「お願いだから着替えてください!心臓止まる!」
切島と瀬呂がオールマイトの腕を掴み、芦戸と麗日が前へ回り込み、緑谷が必死に説得する。
「衣替くん戻して!」
「・・・・一枚写真を」
「撮ってる場合かぁぁぁぁ!!」
緑谷の悲鳴と同時に、瀬呂たちの爆笑、そして「記念だから一枚くらいはいいだろ!」という切島の声が寮中へ響き渡る。
その夜、「もしオールマイトがヴィランだったら」という一枚の写真だけは、A組の思い出アルバムへしっかりと保存された。
こんなんただの服飾テロリストやないですかい……