障害物競走が終わってみれば三十八位だったのでギリギリすぎた。物間と遊ばなければもう少し上だった気もするが、物間も楽しそうだったので結果オーライだと思うことにしよう。本人は遠くから殺意の籠もった目でこちらを見ているのでもしかしたら楽しくはなかったのかもしれない。
そんなことを考えているうちに次の競技説明が始まる。騎馬戦か。順位ごとのポイント説明が始まり、一位のポイントが発表された瞬間に会場がどよめいた。
一千万ポイント
そして当然、その一千万ポイントを持つ人物へ全員の視線が集まる。
まさかの緑谷
かなり意外だ。あの爆豪と轟をどうやって抑えたんだ?緑谷も周囲を見回している。
全員が緑谷を見ている。爆豪なんて今にも襲い掛かりそうな顔をしているな。
仕方ない、少し可哀想だったのでなんとかしてあげよう。
一千万ポイントを持ち、全校生徒から狙われ、逃げ回る存在。
それはもう魔王ではないだろうか?
そう考えたら今の緑谷は少し物足りないな。せっかく魔王なのにただのジャージでは威厳がない…俺は親切心から指を鳴らした。
次の瞬間、緑谷のジャージが消え、黒い鎧とマントと王冠が現れる。
かなり良い出来だ。
観客席がざわつきプレゼントマイクもざわつく。
『何だァァァ!? 一千万ポイント保持者が突然ラスボスになったァァァ!!』
会場が笑いに包まれる
緑谷は固まる
自分を見る。もう一度見る。どう見ても魔王だった。
「衣替君……」
何を言いたいのかは分かるが理屈は通っているぞ。一千万ポイントを持つラスボスだから魔王である。
観客席からも魔王だ!という声が聞こえるので多分俺は間違っていない。
さて騎馬戦のチーム編成だ。
だが緑谷の周囲には誰も来ない。一千万ポイントだからな、近付いた瞬間に全校生徒から狙われる。
そんな緑谷の元へ麗日が向かい続いて常闇も向かう。なるほど、今の緑谷は魔王なので常闇との相性が異常に良い。もう側近その一みたいな雰囲気まで出ているし。
二人が何か話していると今度はこっちを見る。
「衣替君来て!」
かなり切実だったし断る理由もないので近付く。魔王には部下が必要である。そう答えたら緑谷に本気で嫌そうな顔をされたが。
こうしてチームが完成する。
魔王緑谷
側近常闇
参謀っぽい麗日
服屋の俺
かなり魔王軍だった。
その時遠くから聞き覚えのある叫び声が響く。
「衣替装ぉぉぉぉぉぉ!!」
物凄い勢いで走ってくる物間はまだ姫だった。完全に忘れていた。
プレゼントマイクは笑っている。
『B組の物間ァ!! 何故か姫の姿で乱入だァァ!!』
「何故かじゃない!」
物間が元気にツッコむ
「戻せ!」
少し考えたが今戻す理由もないので断った。すると物間は俺を指差しながら叫ぶ。
「一千万ポイントなんてどうでもいい! 僕は衣替装を潰す!!」
緑谷は自分の一千万ポイント鉢巻と物間を交互に見ている。
「僕の価値って何なの……」
観客席から頑張れ魔王という声が飛んでいる。完全に魔王だ。
その後、物間はB組に回収されていったが最後まで姫だった。
騎馬戦開始直前になると各チームも完成する。爆豪チームは相変わらず殺意が高い。轟チームは強そうだ。そして物間チームだけ全員俺を見ている。
やがて開始のカウントダウンが始まる。
観客席が盛り上がる
緑谷は一拳を握り締める
麗日は少し緊張している
常闇は妙に格好いい
俺はというと魔王に何か足りない気がしていた。そうだ魔王には豪華なマントが必要だった。開始直前に指を鳴らす。
マントがさらに豪華になる
肩当ても大きくなる
王冠も光る
プレゼントマイクが笑い始める。
『魔王進化ァァァ!!』
観客席も大盛り上がりだった。緑谷はもう何も言わないので諦めたらしい。
そして開始のブザーが鳴る
全チームが一斉に動き出し当然ほとんどのチームは一千万ポイントへ向かう。
緑谷が悲鳴を上げる
麗日が慌てる
常闇が迎撃態勢に入る
そして物間チームだけは違った。一直線にこちらへ向かってくる。一千万ポイントは見ていない。
魔王も見ておらずただ俺だけを見ている。
怖かったのは少しだけ死柄木を思い出したからだ。
騎馬戦が始まったばかりなのに物間の執念だけは既に決勝戦みたいだった。
騎馬戦が始まった瞬間に会場全体が動き出した。ほとんどのチームは魔王へ向かっている。つまり緑谷へ向かっている。本人は既に泣きそうだったが一千万ポイントなので仕方ない。世の中には責任というものがある。俺達も逃げ続ける。
その時、爆豪が凄い勢いで飛んでくる。
速い
怖い
目も怖い
いつも通りか
観客席からも歓声が上がる。
『爆豪だ!!』
『速ぇ!!』
『もう来た!』
プレゼントマイクも叫ぶ。
『早い早い早いィ!! 爆豪チームが魔王軍へ一直線だァァ!!』
なるほど、魔王がいるなら勇者も必要だったな。世界観的に。俺は指を鳴らす。
白銀の鎧
赤いマント
金の装飾
腰には聖剣っぽい飾り
爆豪は勇者になった。
会場がどよめく
観客席が沸く
プレゼントマイクも笑っている
『何だァァァ!? 爆豪が勇者になったァァァ!!』
『勇者だ!』
『似合う!』
『めっちゃ勇者!』
観客の反応も良かった。
俺も満足している。かなり完成度が高い。だが爆豪本人は満足していなかったようだ。
「布切れ野郎ォォォォ!!」
怒られた。なぜ?理不尽だ。勇者なのだから喜ぶべきだと思う。
上鳴が腹を抱えて笑い、瀬呂も笑い、切島は似合い過ぎだろと言っている。本人だけがなぜか納得していない。
今度は反対側から巨大な氷が広がる。轟か、こちらも速い。なぜ真顔なのかわからないが。
勇者がいる
魔王もいる
なら魔法使いも必要か
俺は指を鳴らす。
パチンと音が鳴った瞬間、轟のジャージが黒いローブへ変わる。
星柄の帽子
長い杖
そして猫耳
非常に重要なので二回言う
猫耳だった
観客席が一瞬静まり返り、次の瞬間大爆笑。
『猫耳!?』
『可愛い!』
『似合う!』
プレゼントマイクまで耐えられなかった。
『何だその猫耳魔法使いィィィ!! 雄英が異世界編に突入し始めてるぞォォォ!!』
轟は静かに頭へ手を伸ばす
猫耳を触る
もう一度触る
やはり猫耳だった
真顔のままなので余計に面白い
勇者が猫耳魔法使いを見ると吹き出した。
「爆豪」
「なんだ」
「笑ったな」
「笑ってねぇ」
轟も爆豪を見るとどう見ても勇者。数秒後轟も吹き出した。お互い様じゃないか。
観客席がさらに沸く
もはや騎馬戦ではなくファンタジーだった。その頃には緑谷も諦めていたと思う。魔王だし勇者もいるし猫耳魔法使いもいる。もう何を言っても無駄だと理解したらしい。
そして物間だけはずっと俺を見ている。本当に怖かった。だって姫の格好だし。
「衣替装ォォォ!!」
また叫んでいる。
『姫まだいるぞ!』
『可哀想!』
確かにほんの少し可哀想な気もしたが今は騎馬戦で忙しい。後回しでいいだろう。
そんなことを考えていると、勇者と猫耳魔法使いがほぼ同時にこちらへ突っ込んできた。
どうやら本格的に魔王討伐が始まるらしい。
緑谷は悲鳴を上げていた。気持ちは分かるぞ。
勇者と猫耳魔法使いが同時に突っ込んでくる。字面だけ見るとかなり意味不明だ。
爆豪は爆破を使いながら一直線に迫るし轟は氷で進路を塞いでくる。二人とも真面目に騎馬戦をしているな。服装以外は。
「来た来た来た!」
緑谷が慌てている。魔王なので正しい反応だな。観客席から大歓声が上がる。プレゼントマイクも興奮していた。
『勇者爆豪と猫耳魔法使い轟が魔王へ突撃ィィ!! 完全に最終決戦だァァ!!』
観客も完全に乗っかっていた。
『魔王逃げろー!』
『勇者頑張れ!』
『猫耳可愛い!』
最後の声だけ少し方向性が違った気がするが轟は聞こえていない振りをしている。そんなことを考えている間にも距離は縮まる。
このままだと普通に鉢巻を取られるな。魔王には最後まで魔王でいてもらいたいので俺は指を鳴らした。
爆豪の勇者装備が進化する。
マントが長くなる
肩当ても増える
胸当ても豪華になる
完全版だな。
「何しやがったァ!!」
『勇者レベルアップした!』
『ラスボス戦前の最終装備だ!』
プレゼントマイクも笑っている。
『勇者進化ァァァ!!』
その隙に俺らは逃げるが今度は轟が氷を放つ。そこで俺は再び指を鳴らす。
猫耳魔法使いが進化する。
ローブが豪華になる
杖が大きくなる
帽子の星が増える
そして猫耳も少し大きくなる
『おおー!』
観客席が沸く中轟は静かに空を見上げた。あれは何かを諦めた顔だった。気持ちは分かるぞ。
その時真横から物凄い勢いで物間チームが飛び込んでくる。
「衣替装ォォォォ!!」
忘れていた、姫だった。
プレゼントマイクが笑い過ぎて実況できていない。観客席も爆笑している。
物間だけが真剣だった。いや真剣な姫だった。かなり絵面が酷いな。物間は俺だけを狙って突っ込んでくるし本当に私怨だ。一千万ポイントを無視しているということは魔王を無視している。つまり騎馬戦の目的も若干無視している。
「僕は君を許さない!」
「そう…」
「反応薄いな!?」
その直後、勇者爆豪と猫耳魔法使い轟が正面衝突する。凄い音がして物間も巻き込まれてる。ついでに別のチームも巻き込まれるので騎馬戦は完全に大混戦になった。
鉢巻が飛ぶ
悲鳴が飛ぶ
笑い声も飛ぶ
そして気付けば制限時間が近付いていた。
残り一分
会場の空気が変わりどのチームも最後の追い込みに入る。俺も少しだけ頑張るか、服の方を。
ラスト一分で爆豪の勇者装備をさらに豪華にし、轟の猫耳を少しふわふわにした。
観客席は大盛り上がりだったが本人達は盛り下がっていた。そんな中、物間だけは最後まで俺を追い回していた。途中で誰かの鉢巻を奪っていたので競技自体はちゃんとやっていたらしい。
そして終了ブザーが鳴り騎馬戦は終了した。
全員が疲れている。俺も疲れたな。主に服を考えるのに。
大型モニターへ順位が表示される。
緑谷チーム
爆豪チーム
轟チーム
物間チーム
予選通過。
観客席が沸き、物間も姫のまま少し嬉しそうだった。
「やったな」
「戻せ!!」
そして次はいよいよ個人戦トーナメント
全国放送で一対一、つまり服を見せる機会が大量にある。楽しみでしかない。一方で観客席の多くは別のことを考えていたらしい。
『次は誰が着替えさせられるんだ』
気付けばそんな期待をされるようになっていた。俺はちゃんとヒーロー科の生徒であるのに。
ごめん心操くん
君は、ヒーローになれる
緑谷魔王化で地味にオールマイトへダメージ