物間と向かい合う。観客席は満員で全国放送、プロヒーロー達も見ている。普通なら真面目な試合になるのだろうが、俺達の場合は最初から少し違った。
「物間」
「何だ」
「個性はコピーなんだろ?」
「そうだが」
確認が取れたのでスマホを取り出して渡す。物間は怪訝そうな顔をしながら受け取った。
「俺のコレクションだ」
「コレクション?」
「服」
物間は嫌な顔をしていたがページを開いた瞬間にその顔が変わった。
俺のスマホには大量の服が登録されている。和装、洋装、軍服、礼服、アイドル衣装、王子様衣装、ゴスロリ、執事服、爆豪専用、その他諸々。その全部に保管場所の座標も記録されていた。
数秒無言でスクロールした後、物間がゆっくり顔を上げる。
「君」
「何」
「頭おかしいな」
失礼だな。だが悔しいが否定できない。
「座標も載ってる」
「載せるな」
「便利だから」
「便利じゃない」
だが物間はスマホを返さずむしろ真剣に見ている。
「試してみる?」
「何をだ」
「俺の個性」
物間の口元が……上がった。
B組の問題児とA組の問題児が理解し合った瞬間だった。
試合開始の合図が鳴った。普通ならここで戦うが物間は開始と同時に俺の個性をコピーした。
観客席がざわつきプレゼントマイクも叫ぶ。
『おおっとォ!? 開始早々コピー発動だァ!!』
物間が指を鳴らす。
白を基調にした王子様衣装
金刺繍
マント
宝石
完全に主人公だ。
会場が沸く。
物間がターンする
マントが翻る
こいつ分かっている。ならば俺も負けていられないと指を鳴らす。
黒と紫を基調にした貴公子衣装へ変わる。チアガールからの落差が凄かったらしく観客席から歓声が上がった。
『何だこの試合ィィィ!!』
プレゼントマイクが笑っている。俺達も少し楽しくなってきた。
物間が次に選んだのは白軍服、なら俺は黒軍服。
物間が王子なら俺は魔王。
物間が執事なら俺は当主。
物間が吸血鬼なら俺は貴族。
物間がアイドルなら俺もアイドル。
その度に歓声が上がる。
ポーズを決める
歓声
ターンする
歓声
指を鳴らす
歓声
気付けば会場全体が盛り上がっていた。
「戦えやァ!!」
爆豪がキレているが観客はもう戦闘を求めていなかった。
『次!』
『もっと見せろ!』
『王子もう一回!』
完全にファッションショーだった。物間も完全にノリノリで最初の敵意なんて消えていた。
今の物間はライバルだ。服飾ライバルである。
やがて物間が白い礼装へ変わり俺も黒い礼装へ変わる。
物間が片手を差し出す
俺も応じる
そして二人同時に振り返る
マントが翻る
会場が揺れるほど一番大きい歓声が響いた。
『決まったァァァ!! 本日のベストコーデだァァァ!!』
その歓声を聞いた瞬間、俺と物間は理解した。
決着の時だ。ミッドナイトもノってくれている。
「観客の反応で判定しますっ!」
会場がさらに盛り上がる中、俺と物間は最後の一着を選ぶ。
物間は純白の王子
俺は黒紫の貴公子
二人同時にポーズを決める。
歓声が爆発した。
物間側も凄いが……僅かに、本当に僅かに俺の方が大きかった。
「判定は衣替くんの勝利!!!」
物間は悔しそうな顔をしていたが笑っていた。俺も少し笑う。本当に良い試合だった。
なお試合内容について聞かれたら説明できる人間は多分誰もいない。
物間との着こなし対決に勝った俺だったが次で普通に負けた。
相手が爆豪だったからだ。相手はちゃんと勝ちに来ていて俺は何を着せようか考えていた。以上だ。
試合内容はこんな感じである。
『試合開始!』
「瞬殺だァ!!」
パチン
爆豪の服が変わる
ピンク
フリル
リボン
ステッキまであった
完全無欠の魔法少女だ。数万人の観客が止まる。
『・・・・・・』
『・・・・・・』
『・・・・・・』
『ナンデェェェェェェェェ!?』
プレゼントマイクは大爆笑。観客席も揺れていた。
『爆豪が魔法少女になったァァ!!』
『可愛くね!?』
「可愛くねぇわ!!」
『似合うのが腹立つ!!』
『写真撮れ!!』
「・・・」
「・・・」
「布切れ野郎ォォォォ!!」
大爆発でステッキが吹っ飛びリボンが燃える。力作なのにひどい。だが服装は戻らない。
「戻せコラァァァ!!」
「似合う」
「殺すぞォォォ!!」
『試合しろォ!!w』
その頃の相澤先生は爆笑してるプレゼントマイクの横で「またか……」と頭を抱えていたらしい。
爆豪が突撃して俺は避け、魔法少女のリボンを更に増やす
「やめろォォォ!!」
『頑張れ魔法少女!』
『負けるな魔法少女!』
『爆豪ちゃん!』
「誰が爆豪ちゃんだァァァ!!」
そして爆豪による憤怒の爆発の連撃に俺は普通に対応できず吹っ飛び、場外になった。
「衣替くん場外!」
『あっさり終わったァァァ!!』
勝者 爆豪勝己。しかし爆豪は勝った顔をしていなかった。たぶん魔法少女だったから。
『魔法少女勝った!』
『負けた方だろ!』
『いや勝者の方が負けてる!』
『試合は爆豪の勝利ィィ!!だが社会的には衣替の勝利かァァァ!?』
会場は拍手と爆笑に包まれ爆豪はずっと不機嫌だった。俺はやり切った顔をしていた。大満足である。
俺の体育祭は終わったので後は大人しく観戦していた。爆豪は相変わらず爆豪だし轟は強いし緑谷は痛そうだった。
結果は爆豪が一位、轟が二位、常闇と飯田が三位。飯田は家の事情で早退していたらしい。
そして問題の表彰式だが、なぜか爆豪が柱に拘束されていた。観客席もざわついているし俺もざわついている。プレゼントマイクなんて笑いながら実況していた。
『優勝者がァァァ!! 拘束されてるゥゥゥ!!』
見た目は完全に捕獲済みヴィランだったので流石にそのままはどうかと思った。そう、服が必要だな。
俺は指を鳴らす。
爆豪のジャージが毛皮と革鎧に変わる
肩当ても付く
腰には無数のベルト
巨大なマントまで付く
暴れながら拘束されている姿は完全に捕まったバーサーカーだった。
『似合う!』
『めちゃくちゃ似合う!』
『ゲームのボスじゃねぇか!』
プレゼントマイクも笑い過ぎている。
『優勝者バーサーカー爆誕だァァァ!!』
爆豪はさらに暴れるがバーサーカーなので問題ない。むしろ完成度が上がり続けているぞ。
次は二位の轟をせっかくだから少し雰囲気を変えることにしよう。
指を鳴らす。
白い外套
黒い詰襟
革手袋
レトロな帽子
どこか文学青年っぽい大正ロマン風の装いへ変わり、女子客がざわつく。
『映画にいそう!』
『写真撮りたい!』
轟は自分の服を見る。帽子を見る。また服を見る。特に文句は言わなかったので多分気に入ったのだと思う。
そして最後の常闇は悩まない。
黒いロングコート
銀の鎖
深紅の装飾
闇属性百パーセントのダークファッションへ変える。
常闇が静かに頷く。ダークシャドウも嬉しそうだ。俺も嬉しい。観客席も納得している。
『強い』
『絶対強い』
『ラスボス側だろ』
気付けば表彰台が凄いことになっていた。拘束されたバーサーカー、文学青年みたいな大正ロマン男子、闇属性全開のダークファッション。どう見てもヒーローの表彰式ではない。
プレゼントマイクが笑いながら言う。
『今年の体育祭優勝者達は本当にヒーロー科なのかァァァ!?』
観客席から大歓声が返ってくる。
爆豪は拘束されたまま暴れている
轟は普通に立っている
常闇は妙に馴染んでいる
良い表彰式だ。