着替えろヴィラン!!魔法少女なんてどうだ?   作:うめけ

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職場体験中は主人公が服飾心理学を学びレベルアップするパートなので真面目です





ベストジーニストは服飾探偵だった……?

 

職場体験初日

 

俺は朝から少し緊張していた。相手はベストジーニスト。服のプロであり繊維のプロであり服好き界の頂点みたいな人だ。

 

事務所へ着くと本人が待っていた。テレビで見るよりもオーラが凄い。

 

「初めまして衣替くん」

 

「初めまして」

 

挨拶を終えるとジーニストは俺を見た。いや違う、服を見ている。全身を一瞬だけ見て頷く。

 

「昨夜は二時過ぎに寝たね」

 

「えっ」

 

「朝食はパン」

 

「えっ」

 

「服の手入れは丁寧だが靴は少し雑」

 

「えっ」

 

こわ…ヒーローというより妖怪ではないのかこの人は。

 

「服は多くを語る」

 

格好良いことを言っているがやってることは怖い。

 

そのままパトロールへ出ることになった。街を歩きながらジーニストはずっと人の服を見てる。スーツ姿の会社員を見て残業続きだと言い当てたり、買い物帰りの主婦を見て裁縫が得意だと言い当てたりしている。俺にはさっぱり分からない。

 

「ドレスコード」

 

初めてコードネームで呼ばれてちょっと嬉しい。

 

「前方の男性を見てごらん」

 

スーツ姿の男がいる。

 

「どう見える?」

 

「会社員」

 

「それは誰でも分かる」

 

その時、悲鳴が聞こえる。男がバッグを抱えて走っていた。ひったくりか。

 

「ドレスコード。どうする?」

 

どうやらジーニストなりの試験はもう始まっているようだ。ちゃんと真面目に考えるとしよう。

 

俺は男を見る。運動靴、軽装、逃走向き。ならば、と指を鳴らすと靴がローラースケートへ変わり、男は盛大に転倒しゴミ箱へ突撃した。

 

確保され周囲が拍手する。完璧だったはずだ。

 

「六十点」

 

「えっ」

 

「転ぶ方向を考慮していない」

 

なるほど、確かに車道へ飛び出していたら危険だった。俺が反省しているとジーニストは頷く。

 

「発想は良い」

 

おぉ、少し嬉しい。

 

午後になると今度はスーパー強盗が発生した。ナイフを持ったヴィランが女性を人質にしている。警察も到着していたが動けない。

 

「ドレスコード」

 

また試験のようだ。

 

人質を見る。女性、怪我なし、細身、動ける…指を鳴らすと女性が全身鎧になる。ガシャーン、と人質が重さでふらつく。

 

ヴィランが固まる

警察も固まる

俺も少し固まる

 

その隙にジーニストが繊維を操り一瞬で犯人を拘束した。やはりヴィランが服を着ていれば即拘束出来るのは強すぎるな。

 

事件終了後、人質から一言「重いです…」と言われてしまった。

 

「五十五点」

 

「下がった」

 

「防御は完璧だが動けない」

 

帰り道俺は少し落ち込んでいた。ローラースケートも駄目。全身鎧も駄目。真面目に取り組んで結構自信があったのに……

 

「ドレスコード。君は服が好きだ」

 

「好きです」

 

「だが服を着せたいだけになっている」

 

図星で耳が痛い。

 

「服は相手を守るためにある」

 

「はい」

 

「相手を止めるためにもある」

 

「はい」

 

「そして相手を知るためにもある」

 

その言葉の意味はまだよく分からなかったが、翌日から始まった訓練で嫌というほど理解することになる。

 

 

 

 

 

ジーニストはヴィランの写真を机いっぱいに並べて言う。

 

「個性は見るな」

 

「え?」

 

「顔も見るな」

 

「え?」

 

「服だけ見ろ」

 

冗談かと思ったがジーニストは本気のようだ。仕方ないので見る。

 

ジャケット

シャツ

ズボン

見る

ひたすら見る

 

「どうだね」

 

「服着てます」

 

「そうだね」

 

ジーニストが一枚、革ジャンの男を取り上げる。

 

「この男は何をする」

 

「ヴィランです」

 

「そうだね」

 

その後も延々と続く。

 

靴の減り方

袖の擦れ

裾の汚れ

補修跡

 

最初は何も分からなかったが、何十枚も見ているうちに少しだけ違いが見えてくる。

 

「あ」

 

「気付いたかね」

 

「この人右利き」

 

ジーニストが頷く。初めて褒められて少し嬉しい。

 

午後は街を巡回し試験。

 

前を歩く男性を見て何が分かるか答えるが、難しい。だが昨日よりは分かる。

 

「あの人よく走る」

 

「何故」

 

「靴が」

 

「うむ」

 

「あの人は裁縫が趣味」

 

「何故」

 

「袖の補修が」

 

「うむ」

 

少しずつだが見えるようになっていた。服を見ているだけなのに人が見えてくる。不思議な気分になってきた。

 

その時銀行から男が飛び出してくる。バッグとマスク、銀行強盗だ。男は走るがジーニストは動かない。

 

また試験だ、俺は服を見る。スーツと革靴で走りにそうだが逃げる気満々…

 

なら、と指を鳴らす。

 

革靴がハイヒールになり転びそうになるが踏ん張る。速度が激減して予想以上にいいかも。

 

その隙にジーニストが拘束し確保。今回は怒られなかった。

 

「八十点」

 

「上がった」

 

「何故ハイヒールを選んだ」

 

「転ばせるために」

 

「違う」

 

「走れなくするためですか」

 

「それもある。彼は転ぶことを恐れて速度を落とした」

 

なるほど、服は身体だけじゃなく心も動かす。少し分かってきた気がした。

 

その日の帰り道ジーニストが言う。

 

「ドレスコード。君は服を着せるね」

 

「はい」

 

「では相手が一番着たくない服は何だと思う?」

 

思い浮かべるのは魔法少女、チアガール、メイド、色々浮かぶ。

 

「違う」

 

「違うんですか」

 

「相手による。明日からはそこを学ぶ」

 

どうやら次の授業らしく少し楽しみだ。今まで面白い服を選んでいたが、本当に嫌がる服とは何なのか少し気になった。

 

 

 

 

 

職場体験も半分ほど過ぎていた頃には、ジーニストが何を見ているのかようやく少しだけ分かり始めていた。

 

机の上にはまた大量の写真が並んでいたが俺はもう驚かない。

 

「ドレスコード。彼らに最も嫌な服を選びなさい」

 

「はい」

 

ジーニストが写真を並べる

 

強面の男

筋肉質な男

高級スーツの男

金髪でチャラそうな男

 

俺は少し考え一枚目を指差した。

 

「魔法少女」

 

「理由は」

 

「嫌がりそう」

 

「七十点」

 

思ったより高かったが満点ではない。ジーニストが写真を見る。

 

「彼は威圧感を武器にしている」

 

「はい」

 

「つまり可愛らしい服で威圧感を奪う」

 

なるほど正解だったらしい。

 

二枚目筋肉質。

 

「メイド服」

 

「六十点」

 

三枚目高級スーツ。今までの俺なら王子様とかにしていた。

 

ジーニストの授業を思い出しながら服を見、人を見、そして答える。

 

「安いジャージ」

 

「九十五点」

 

ジーニストが頷いたのでちょっと嬉しい。

 

「彼が嫌なのは可愛い服ではない」

 

「はい」

 

「積み上げたプライドを壊されることだ」

 

なるほど、服は相手によって意味が変わる。そこが面白い。

 

 

 

 

午後は実践。商店街を巡回する。

 

のんびり歩いていると悲鳴が聞こえたので振り返ると、男が子供を抱えて逃げていた。ジーニストは動かない。

 

また試験だ。全部試験だな。俺は走る男を見て、子供を見る。そして指を鳴らす。

 

抱えられていた子供が巨大なペンギン着ぐるみになり男の腕からすっぽ抜ける。重くて持ちにくくしたから。

 

男が混乱した隙にジーニストが拘束し事件終了。子供は大喜びだった。

 

「ペンギン!」

 

「ペンギンだね」

 

気に入ってくれたようだ。今回は八十五点だったし順調である。

 

 

 

 

夕方事務所へ戻る。

 

ジーニストが紅茶を飲みながら言う。

 

「ドレスコード。君は変わってきた」

 

少し嬉しい。

 

「最初は服しか見ていなかった」

 

耳が痛い。

 

「今は服の向こうを見ている」

 

確かに、以前ならヴィランを見たら面白い服を選んでいたが今は違う。何を嫌がるか、何が必要かをまず考える。少しだけ成長したのかもしれないな。

 

ジーニストが写真を一枚差し出してくる。

 

「最後の課題だ」

 

そこには大型ヴィランの写真が写っていた。逃走常習犯で捕獲難度も高くかなり危険らしい。

 

「明日は彼を追う」

 

俺は写真の、服を見る。

 

ボロボロのパーカー

擦り切れた靴

妙に丁寧な補修跡

 

その瞬間、初めて少しだけ分かった気がした。この人は服を大事にしている、と。

 

「見えてきたようだね」

 

どうやら最終試験が始まるらしい。職場体験ももうすぐ終わる。服を見るだけだったはずなのに、いつの間にか人を見る訓練になっていた。

 

 

 

 

翌日 俺とジーニストは写真のヴィランを追っていた。

 

派手で強力な個性がある訳でもない、ただ逃げるのが上手く捕まらないだけで有名なヴィランだった。

 

「何故この人なんですか」

 

「最後の課題だからだ」

 

 

 

やがて昼過ぎに通報が入る。商店街に男が現れたようだ。ヴィランは警察を見るなり走り出すが本当に速いな、かなり。

 

見ると写真で見た服そのままだった。

 

ボロボロのパーカー

擦り切れた靴

補修跡

全部同じ

 

「ドレスコード」

 

試験だ。俺はヴィランを見る、いや服を見る。今までの俺なら魔法少女にしていた。チアガールかもしれないが、だが今回は違った

 

あの服を見れば分かる。この男は服を大事にしている。なら嫌がる服は何かの答えは簡単だった。

 

指を鳴らす

 

パチン

 

ヴィランが立ち止まり走るのをやめた。俺もジーニストも止ままる。

 

ヴィランは自分の服を見ていた。ボロボロのパーカーが消えて代わりに現れたのは新品だった。

 

同じ色

同じ形

同じデザイン

だが新品

傷一つ無い

補修跡も無い

擦れも無い

色褪せも無い

 

買ったばかりみたいな状態だった。

 

ヴィランが固まっているが俺は少し緊張していた。外したかもしれないからだ。

 

だが次の瞬間、ヴィランが怒鳴った。

 

「戻せ」

 

かなり怒っているな…当たったらしい。

 

「戻せ!」

 

「何で?」

 

「これは違う!」

 

さらに怒り、警察も困惑している。

 

ヴィランがパーカーを掴む。

 

「これじゃないんだよ!」

 

声が少し震えていた。

 

「母ちゃんが直したんだ!」

 

商店街が静かになる

俺も黙る

ジーニストも黙る

ヴィランは続ける

 

「破れた時も」

 

「汚れた時も」

 

「何回も縫ってくれたんだ」

 

服を抱き締めていた

新品の方を

違う方を

 

「これじゃないんだ」

 

今にも泣きそうだった。俺は指を鳴らす。

 

新品の服が消えボロボロのパーカーが戻る。補修跡も擦れも全部戻る。

 

ヴィランが少しだけ安心した顔をした。

 

その瞬間ジーニストが繊維を飛ばし拘束 、確保。

 

ヴィランは抵抗せずパーカーをずっと見ていた。

 

パトカーへ乗る直前一度だけ振り返り「ありがとう」と小さく言われ、俺は何も言えなかった。

 

 

 

事件が終わり帰り道、ジーニストが言う。

 

「ドレスコード。何故新品にした」

 

「あの人が一番嫌がる服だからです」

 

ジーニストは「正解だ」と頷いてくれた。

 

「君は服を見るようになった」

 

空を見上げながら続ける。

 

「服は布ではない。その人の人生だ」

 

「はい」

 

体育祭の頃なら分からなかったと思うが今なら少し分かる。

 

服を見れば人が見える。服を変えれば心も変わる。服は思ったより凄いものだった。

 

 

 

事務所へ戻るとジーニストが一枚の書類を渡してくる。職場体験終了証だ。

 

「お疲れ様。ドレスコード」

 

初めて名前で呼ばれた気がして、少し嬉しかった。

 

「ありがとうございました」

 

頭を下げる。ジーニストも頷く。

 

 

 

 

職場体験は終わった。

 

俺は少し成長した。

 

多分

 

魔法少女にする回数は減らないけど。

 

 

 

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