魔法の才能ゼロの令嬢に、最強転生魔法ジジイが科学知識を教えたら? → A.めっちゃ無双する:【才無し侯爵令嬢と魔法ジジイの科学革命】 作:Koh_novel
雨が降っていた。
王都魔法大会、決勝戦。五千人を収容する大闘技場の石段は満席で、雨除けの魔法障壁の向こう側に、薄灰色の空が広がっている。
闘技場の中央に、二人の少女が立っていた。
一人は魔法学園でも歴代最高と謳われる才能の持ち主。
すらりとした体躯に赤い長髪。脂汗をかき、息を切らせながらも、長い詠唱を続けている。
もう一人は"才無し侯爵"と揶揄される小柄な少女だった。
金髪のボブに、ぼろぼろの制服を泥で汚し、荒い息をついている。右足を引きずっていた。
⸻
「……才無し侯爵、まだ立ってるぞ」
「嘘だろ、あの才無しがここまで粘るとか……」
観客席の学生たちがざわついていた。
⸻
闘技場の中。
小柄な少女は、正面を見つめていた。
このままじゃジリ貧だった。右足はさっきのファイアランスの直撃で、もはやまともに動かない。
——結局、未完成のまま来ちゃった。でも、もうこれしかない。
小柄な少女が、詠唱を始めた。
「——紅蓮の炎よ、我が手に集え——」
⸻
「……は?」
「……初級魔法ファイアボールの詠唱?」
観客席がざわついた。赤い髪の少女も、一瞬だけ眉をひそめた。
⸻
「——渦巻く火球が、この手の前に——」
掌の先に、ぽっ、と小さな火が灯った。
初級のファイアボールにすらなれない、指先ほどの炎。
小柄な少女が、その火を——上空に向けて、弾いた。
「これが私の、奥の手」
小さな火が、ゆらゆらと宙を登っていく。あまりにも弱々しい。初級魔法にすら全く届かない出力。
⸻
同時に——赤い髪の少女の詠唱が、完成した。
超級魔法——フェニックス。
巨大な炎の鳥が、爆ぜるように顕現した。
大きな翼が開き、熱波が闘技場を薙いだ。周囲の雨が蒸発し、白い蒸気が渦を巻く。
フェニックスが、小柄な少女に向かって飛んだ。
⸻
正面からフェニックスが迫る。
上空に、私の放った弱々しい炎が登っていった。
その時⸻カッッ!!!
白い閃光が、闘技場を焼いた。
ボッッ!!!!!!
遅れて巨大な爆風が、空気を引き裂いた。
こちらに迫ってきていたフェニックスが、爆風に呑まれて押し潰された。
爆風で、赤髪の少女の身体が吹き飛ぶのが見えたと同時に、私自身も吹き飛んだ。
二人の身体が、地面と水平になり飛んでいき、両者ともに壁に激突した。
⸻
会場が、一瞬だけ静まり返った。
そして——爆発した。
「——なっ!? 無詠唱の爆裂魔法だと!?」
「なんだあの爆発のデカさは!?!?」
「だが、魔力をほとんど感じなかったぞ!?」
「そんなはずがあるか! あの威力だぞ!!!」
「身代わりのペンダントがあっても危険だ、医療班を呼べ!」
審判が駆け寄った。医療班が走り出す。雨が強くなり、爆発の白い煙が流されていく。
闘技場の中央には、誰も立っていなかった。
二人とも、砂の中で倒れていた。
⸻
審判の声が、闘技場に響いた。
「両者、戦闘不能! 決勝——引き分け!」
一拍の沈黙。
そして——五千人の歓声が、雨を押し返すように闘技場を満たした。
⸻
観客席の最上段。
老人は、闘技場の中で動かない小柄な少女をしばらく眺めていた。
そして——かっかっかと、笑った。
「あそこまで教えても、世代一位にはなれんかったか」
もう一度、笑った。
「かっかっか」
⸻
——この日の決勝が、最初のきっかけだった。
——これは、「才無し侯爵」と呼ばれた一人の小柄な少女が、やがて「魔術の始祖」「魔道具の母」と呼ばれるようになっていく——その物語。
本日26/6/13(土)、一気に1〜17話。
明日26/6/14(日)、27話の第一部クライマックスまで投稿予定。
投稿初日ですが、すでに54話までストックがあり、27話以降は毎日投稿予定です〜