魔法の才能ゼロの令嬢に、最強転生魔法ジジイが科学知識を教えたら? → A.めっちゃ無双する:【才無し侯爵令嬢と魔法ジジイの科学革命】   作:Koh_novel

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第11話 コーヒー

 髪を乾かして、居間に戻った。

 

 老人は椅子に座って、棚の中を眺めていた。何かを探しているようだった。

 

「おう、来たか。座れ」

 

 ピリカは向かいの椅子に座った。暖炉の火が揺れている。窓の外では、まだ雨が降っていた。

 

「何か温かいものでも飲も——しまったな、コップが一つしかない」

 

 老人が棚の上のコップを見て、呟いた。

 

 次の瞬間、老人の手の下に、土が集まってきた。

 

 どこから来たのかわからない。部屋の隅から、壁の隙間から、細かい砂のような粒が空中を流れてきて、老人の掌の上で渦を巻く。渦が固まっていく。円筒形になり、縁ができ、底ができ、数秒で——コップの形になった。

 

「……え」

 

 土色だったコップの表面が滑らかに整っていく。老人が指先で軽く弾くと、陶器のような硬い音がした。

 

「ま、待って——」

 

「コップが足りんかったからの」

 

「それはわかりますけど——」

 

 ピリカはコップを手に取った。滑らかで、軽い。さっきまで砂だったとは思えない。

 

「……今、どこから土が……」

 

「その辺から集めただけじゃ。あ、ちゃんと綺麗にはしとるぞ」

 

(……そこじゃない)

 

 

 老人が立ち上がって、壁際に歩いていった。壁から金属の管が突き出ている。浴室で見たのと同じ——取っ手のついた管。

 

 ピリカは椅子に座ったまま、疲れた目で呟いた。

 

「もしかして、そこからも水が出るんですか?」

 

「そうじゃよ?」

 

 老人が取っ手を捻った。

 

 キュッ。

 

 じゃー。

 

 管の先端から、水が流れ出した。

 

 (……なんなの、この家……)

 

 老人は特に気にした様子もなく、流れ出る水を宙に留めた。水が管から離れて、空中に球体を作る。ある程度の大きさになったところで取っ手を捻って水を止める。透明な水の球が、老人の手の横でゆらゆらと揺れていた。

 

「……なんか水が浮いてるんですけど」

 

 老人が少し水を見つめる。

 

 水の球から、湯気が立った。一瞬で沸騰している。

 

「——沸騰した!?」

 

 老人は答えなかった。老人の後ろの戸棚の扉がひとりでに開いた。中から、ガラスの瓶が浮き出してきた。蓋が空中で回って外れる。中から、薄い緑色の粒が宙に舞い出した。

 

「それ何の——」

 

 緑色の粒が空中で赤く光った。熱せられ焙煎されている。同時に、粒が回転しながらガリガリと音を立てて砕けていく。粒がみるみる細かくなって、褐色の粉になった。

 

「火と風と空間維持を同時に……?」

 

 沸いた湯の球と、空中の粉が、目の前——テーブルの上で合流した。混ざり合って、だんだんと球体が褐色になっていく。

 

 そのまま十数秒後、球体が液体と粉に分離した。褐色の液体——コーヒーは二つのコップに注がれていく。

 

 残った粉は小さな球に圧縮されて、部屋の隅のゴミ箱にまで飛んでいき、見えなくなった。

 

「…………」

 

「ほい」

 

 老人が、コップをピリカの前に押し出した。

 

「……は?」

 

「砂糖いるか?」

 

「今のこれ、なんなんですか!?」

 

「ん?——あ、もしかしてお主の歳じゃコーヒーは飲まんか?」

 

「そんなこと言ってません!!! コーヒーは飲みますけど——今のこれはなんなんですかって聞いてるんです!」

 

「何を言っとるんじゃ……?だからコーヒーじゃよ……?」

 

「…………」

 

 

 ピリカはコップを両手で持った。

 

 父が書斎で飲んでいた。ピリカが「飲みたい」とねだったら、一口だけ飲ませてくれた。苦くて、舌が痺れて、涙目になった。父が珍しく笑っていた。

 

 最近は、ローザが砂糖とミルクをたっぷり入れたものを眠気覚ましに作ってくれるようになった。甘くて温かい、ピリカのお気に入りだった。

 

「……砂糖とミルク、いただけますか」

 

「ミルクはないな。すまんの」

 

「……じゃあ、砂糖だけで」

 

 棚から小さな壺とスプーンが飛んできて机の上にふわりと着地した。ピリカはスプーンで砂糖をすくって、何度かコップに入れた。かき混ぜると、砂糖は溶けていった。

 

 そこでピリカは違和感に気づく。

 

「……ん?」

 

 ——熱くない。

 

 コップの表面が、全然熱くない。中身は湯気が出ているのに。

 

「あ、コップは熱くないが中身は熱いぞ。火傷に気をつけるんじゃ」

 

 ——コップが熱くないのに中身が熱い? そんなことあるわけ——

 

 口をつけた。

 

「あっっつ!!!」

 

「おまえさん、なんも話を聞いとらんのか……」

 

「な、なんでこれ、中身は熱いのにコップは熱くないんですか!!」

 

「真空断熱構造と言ってな」

 

「シンクウダンネツ……?」

 

 老人が片手を上げた。床から土が集まってきて、掌の上でコップの形を作った。今度はそのまま固まらず——縦にすぱりと割れた。断面が見える。外壁と内壁がある。その間に、薄い隙間。

 

「ほれ、見てみい。こういう構造になっとる」

 

 ピリカは断面を覗き込んだ。

 

「……壁が、二重になってる……?」

 

「そうじゃ。で、この隙間には空気がない。何もない。空っぽじゃ」

 

「空っぽ……?」

 

「空気がなければ、熱は伝わりようがない。中身がどんなに熱くても、外は冷たいままじゃ」

 

「…………」

 

 ピリカは首を傾げた。言葉はわかる。でも、意味がわからない。

 

「……空気がないと、熱が伝わらない……?」

 

「そうじゃ」

 

「……なんで、ですか?」

 

「ふむ。そこからか」

 

 老人は顎を撫でた。

 

「——まぁ、今は『そういうもの』とだけ覚えておけ。理屈はおいおいじゃ」

 

「……はい」

 

「……ていうか、片手間の並行魔法でこんなもの作るって、おじいちゃん本当に何者なんですか……」

 




並行で高度な魔法を使いまくって、結果ただコーヒーを淹れるとか、ロマンですよね、、!
ここ書きたくて序盤書いてたのはめっちゃあります。

AIイメージを作成したので、もしよかったら見てみてくださいー

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