魔法の才能ゼロの令嬢に最強ジジイが科学を教えたら?→A.めっちゃ無双する:【才無し侯爵令嬢と魔法ジジイの科学革命】 作:Koh_novel
グリモワルドがコップをテーブルに置いた。
「……面白いことを言うのう」
低い声だった。さっきまでの気楽な調子とは、少し違う。
「炎を防げるか、と聞いたな」
「はい」
「結論から言えば——防げる」
ピリカの目が見開かれた。
「ただし、理由が違う」
「……理由が違う?」
「お主は今、『熱が伝わらないから炎も防げる』と考えたじゃろ」
「……はい」
「それは半分正しくて、半分間違っとる」
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グリモワルドが片手を上げた。指先に、小さな炎が灯った。ゆらゆらと揺れる、オレンジ色の火。
「炎というのはな——燃えるために空気が必要なんじゃ」
「……空気が?」
「そうじゃ。正確には、空気の中に含まれる『ある成分』が必要なんじゃが——まぁ、今はざっくり空気と思っておけ」
グリモワルドがもう片方の手を、炎の横にかざした。
「つまり——炎の周りから空気をなくしてやれば」
ふっ、と。
炎が消えた。息を吹きかけたのではない。手をかざしただけ。
「——炎は、燃え続けられない」
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ピリカはその指先を凝視していた。
「……空気がないと、炎は消える……」
「そうじゃ。真空断熱が熱を遮るのは、空気がないから熱が『伝わらない』。炎を防ぐのは、空気がないから炎が『燃えられない』。似ておるが、仕組みは違う」
「……」
「お主の発想自体は悪くない。真空が炎に効く、というところまで辿り着いたのは上出来じゃ。じゃが、理屈を間違えたまま進むと、後で躓く。——きちんと覚えておけ」
「……はい」
ピリカはコップを置いて、背筋を伸ばした。
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「お師匠様」
「ん?」
「真空の魔法——教えてください」
グリモワルドがコーヒーを啜りながら、こちらを見た。
「ほう?」
老人の目が細くなった。値踏みするような、でも楽しそうな目。
「どうして炎にこだわる。それを言ってからなら良いぞ」
「……理由は、二つあります」
ピリカは膝の上で拳を握った。
「一つは——学園に、歴代最高の才能と言われている人がいます。同い年の。その人の得意魔法が、炎なんです」
「ほう」
「もう一つは——」
ピリカは少しだけ俯いた。
「——私が、結局最後まで使えなかった魔法が、ファイアボールだったから。……ちょっぴり、悔しいので」
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グリモワルドが、ふふ、と少し笑った。
「ふむ、やる気は大事じゃな。そしたら最初は"真空"からいこうか」
「あ、ありがとうございます……!」
「どうせなら実戦で試そうかのう。その歴代最高とかいうのと戦う機会はないのか?」
「授業での模擬戦なら……二週間後くらいに。私から申し込めば、たぶんやれます。私と同じで、向こうもいつも組む相手に困っているので」
「なぜ二人とも、組む相手に困っとるんじゃ?」
「向こうは……強すぎて、到底誰も敵わないからです」
「ふむ。お主は?」
「……弱すぎて、練習にならないからです」
「かっかっか! これは悪いことを聞いた」
「笑い事じゃないんですけど……」
⸻
グリモワルドがコップを置いた。
「ま、ひとまず二週間後の模擬戦で、そいつと戦ってみることじゃ。それまでに仕上げるぞ」
「……二週間で、ですか?」
「なに、真空なんて簡単じゃ。すぐ終わる」
「本当ですか……?」
「わしが教えるんじゃぞ。嘘は言わん」
ピリカは半信半疑だった。でも——この老人が言うと、なんだか本当にできそうな気がした。昨日から、この人の「普通」は全部とんでもないことだったけれど。
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——その日の夜。
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「お主、本当にセンスないんじゃのう……。こんな簡単な動作がうまくいかないとは……」
「お師匠様の教え方も悪いですよ!!! 空気というものがあるから押し除けるように、ひゅっとか、ぎゅーっとか——全然わからないです!」
「む、でもわしそれでできるからな……」
「この天才め……」