魔法の才能ゼロの令嬢に最強ジジイが科学を教えたら?→A.めっちゃ無双する:【才無し侯爵令嬢と魔法ジジイの科学革命】 作:Koh_novel
白い天井。
保健室の匂い。消毒液と、清潔なシーツ。
——私、負けた……? いや、魔法で負けたわけじゃない?でも、流石に気絶したから——私の負け、か。
アリサは目を開けた。
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頬が痛い。左頬。殴られた場所。じんじんと熱い。
身体を起こした。保健室のベッドに寝かされていた。カーテンが閉められている。窓の外は夕暮れ。——結構長い間、気を失っていたらしい。
——ピリカに、殴られて気絶した。
アリサは膝の上で拳を握った。
——悔しい、とか、恥ずかしい、とか——そういう感情は、不思議とあまりなかった。
——それよりも。
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——何が起きたのか、知りたい。
アリサは目を閉じた。記憶を辿る。
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——まず、前提を整理する。
——私はファイアボールを撃った。最初は手加減の一発。次に無詠唱で三方向から同時に。最後にファイアランス。
——ファイアボールは消された。ファイアランスは——消えなかった。
——ピリカが何かをした。それでファイアボールが消えた。これは間違いない。
——でも、何を?
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——一つずつ考える。
——ファイアボールの発動自体は妨害されていなかった。私の手元で炎は正常に生まれた。射出も正常だった。前に飛んだ。
——つまり、発動と射出は問題ない。
——消えたのは、ピリカの手前。飛んでいって、ピリカに届く直前で——揺らいで、消えた。
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——消え方に違いはあったか?
アリサは眉を寄せた。
——最初のファイアボール。手加減した一発。これはすぐに消えた。ピリカの手前に届いた瞬間、ほとんど一瞬で。
——次。無詠唱の三方向同時。正面と左は消えた。だが、右のファイアボールだけ消えきらなかった。小さくなりながらもピリカの近くまで届いた。ピリカは避けた。
——つまり——処理しきれない方向がある。
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——右だけ消えなかったのは、なぜ?
アリサは記憶を絞り出した。
——ピリカは右手をかざしていた。
——右利き。
——もし、ピリカが何らかの魔法で「壁」のようなものを作っているとしたら。
——右手を起点にしている場合、ピリカの左手側——つまりアリサから見て右側——は壁がやや弱い、ということになる。
——利き手の感覚でイメージを作っているなら、反対側の精度が少し甘くなるのは自然だ。
——イメージで強度や精度が変わるということは——あれは、やはり魔法の一種。
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——そして、ファイアランス。
アリサは目を開けた。
——ファイアランスは——消えなかった。
——わずかに揺らいだ。端が削れた。でも、貫通した。ピリカは避けるしかなかった。
——つまり、あの「壁」には限界がある。ファイアボールは消せても、中級魔法の火力は消しきれない。
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——ピリカが魔法を使った。目に見えない、何かの魔法を。
——それがファイアボールを消した。
——でも、詠唱はなかった。少なくとも聞こえなかった。
——詠唱なしで、あれだけのことを? ファイアボールすら発動できなかったピリカが?
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——整理する。わかっていることだけ並べる。
——ピリカは何らかの魔法で、自分の前方に「壁」のようなものを作った。
——その壁に触れると、ファイアボールは消える。
——三方向から同時に撃ち込むと、利き手と反対側が弱い。壁の精度は均一ではない。
——そして——ファイアランスは消えなかった。壁の強度には明確な限界がある。
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——ということは。
アリサの目が鋭くなった。
——中級以上の火力があれば、壁は突破できる。これは確認済み。
——問題は、ピリカが避けたこと。
——ファイアランスは真っ直ぐ飛ぶ。速いけれど、軌道は一直線。横に跳べば避けられる。実際、避けられた。
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アリサはベッドの上で、考えを巡らせた。
——もし魔法大会にピリカが出るとして。
——ファイアボールは消される。でもファイアランス以上なら通る。
——ただし、直線の魔法は避けられる。さっきのパンチ一発で気絶した通り、近づかれたら終わり。私は殴り合いの訓練なんか積んでいない。
——つまり、必要なのは——避けられない速さか量、もしくは追尾する魔法。
——撃ったら最後、逃げられない一撃。
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——……。
アリサは天井を見上げた。
——……あれ?
——……でも。
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——あのピリカが。
——ファイアボールさえ作れなかった、ピリカが。
——たった二週間で、一体何をしたの。
——いつ、どうやって。
——何を学んだの。
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——知りたい。
——でも、今は。
——勝つことだけ考える。
——知るのは、勝った後。
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アリサはベッドから降りた。
頬がまだ痛む。鏡を見た。少し腫れている。
アリサは保健室を出た。
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アリサは気づいていなかった。
今まで戦うことを意識すらしなかった相手を、自分が「次」を想定して分析していることに。
"才無し侯爵"が、学年一位の頭の中に、"警戒すべき相手"として、初めて居場所を得た夜だった。