魔法の才能ゼロの令嬢に最強ジジイが科学を教えたら?→A.めっちゃ無双する:【才無し侯爵令嬢と魔法ジジイの科学革命】   作:Koh_novel

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第18話 分析

 白い天井。

 

 保健室の匂い。消毒液と、清潔なシーツ。

 

 ——私、負けた……? いや、魔法で負けたわけじゃない?でも、流石に気絶したから——私の負け、か。

 

 アリサは目を開けた。

 

 

 頬が痛い。左頬。殴られた場所。じんじんと熱い。

 

 身体を起こした。保健室のベッドに寝かされていた。カーテンが閉められている。窓の外は夕暮れ。——結構長い間、気を失っていたらしい。

 

 ——ピリカに、殴られて気絶した。

 

 アリサは膝の上で拳を握った。

 

 ——悔しい、とか、恥ずかしい、とか——そういう感情は、不思議とあまりなかった。

 

 ——それよりも。

 

 

 ——何が起きたのか、知りたい。

 

 アリサは目を閉じた。記憶を辿る。

 

 

 ——まず、前提を整理する。

 

 ——私はファイアボールを撃った。最初は手加減の一発。次に無詠唱で三方向から同時に。最後にファイアランス。

 

 ——ファイアボールは消された。ファイアランスは——消えなかった。

 

 ——ピリカが何かをした。それでファイアボールが消えた。これは間違いない。

 

 ——でも、何を?

 

 

 ——一つずつ考える。

 

 ——ファイアボールの発動自体は妨害されていなかった。私の手元で炎は正常に生まれた。射出も正常だった。前に飛んだ。

 

 ——つまり、発動と射出は問題ない。

 

 ——消えたのは、ピリカの手前。飛んでいって、ピリカに届く直前で——揺らいで、消えた。

 

 

 ——消え方に違いはあったか?

 

 アリサは眉を寄せた。

 

 ——最初のファイアボール。手加減した一発。これはすぐに消えた。ピリカの手前に届いた瞬間、ほとんど一瞬で。

 

 ——次。無詠唱の三方向同時。正面と左は消えた。だが、右のファイアボールだけ消えきらなかった。小さくなりながらもピリカの近くまで届いた。ピリカは避けた。

 

 ——つまり——処理しきれない方向がある。

 

 

 ——右だけ消えなかったのは、なぜ?

 

 アリサは記憶を絞り出した。

 

 ——ピリカは右手をかざしていた。

 

 ——右利き。

 

 ——もし、ピリカが何らかの魔法で「壁」のようなものを作っているとしたら。

 

 ——右手を起点にしている場合、ピリカの左手側——つまりアリサから見て右側——は壁がやや弱い、ということになる。

 

 ——利き手の感覚でイメージを作っているなら、反対側の精度が少し甘くなるのは自然だ。

 

 ——イメージで強度や精度が変わるということは——あれは、やはり魔法の一種。

 

 

 ——そして、ファイアランス。

 

 アリサは目を開けた。

 

 ——ファイアランスは——消えなかった。

 

 ——わずかに揺らいだ。端が削れた。でも、貫通した。ピリカは避けるしかなかった。

 

 ——つまり、あの「壁」には限界がある。ファイアボールは消せても、中級魔法の火力は消しきれない。

 

 

 ——ピリカが魔法を使った。目に見えない、何かの魔法を。

 

 ——それがファイアボールを消した。

 

 ——でも、詠唱はなかった。少なくとも聞こえなかった。

 

 ——詠唱なしで、あれだけのことを? ファイアボールすら発動できなかったピリカが?

 

 

 ——整理する。わかっていることだけ並べる。

 

 ——ピリカは何らかの魔法で、自分の前方に「壁」のようなものを作った。

 

 ——その壁に触れると、ファイアボールは消える。

 

 ——三方向から同時に撃ち込むと、利き手と反対側が弱い。壁の精度は均一ではない。

 

 ——そして——ファイアランスは消えなかった。壁の強度には明確な限界がある。

 

 

 ——ということは。

 

 アリサの目が鋭くなった。

 

 ——中級以上の火力があれば、壁は突破できる。これは確認済み。

 

 ——問題は、ピリカが避けたこと。

 

 ——ファイアランスは真っ直ぐ飛ぶ。速いけれど、軌道は一直線。横に跳べば避けられる。実際、避けられた。

 

 

 アリサはベッドの上で、考えを巡らせた。

 

 ——もし魔法大会にピリカが出るとして。

 

 ——ファイアボールは消される。でもファイアランス以上なら通る。

 

 ——ただし、直線の魔法は避けられる。さっきのパンチ一発で気絶した通り、近づかれたら終わり。私は殴り合いの訓練なんか積んでいない。

 

 ——つまり、必要なのは——避けられない速さか量、もしくは追尾する魔法。

 

 ——撃ったら最後、逃げられない一撃。

 

 

 ——……。

 

 アリサは天井を見上げた。

 

 ——……あれ?

 

 ——……でも。

 

 

 ——あのピリカが。

 

 ——ファイアボールさえ作れなかった、ピリカが。

 

 ——たった二週間で、一体何をしたの。

 

 ——いつ、どうやって。

 

 ——何を学んだの。

 

 

 ——知りたい。

 

 ——でも、今は。

 

 ——勝つことだけ考える。

 

 ——知るのは、勝った後。

 

 

 アリサはベッドから降りた。

 

 頬がまだ痛む。鏡を見た。少し腫れている。

 

 アリサは保健室を出た。

 

 

 アリサは気づいていなかった。

 

 今まで戦うことを意識すらしなかった相手を、自分が「次」を想定して分析していることに。

 

 "才無し侯爵"が、学年一位の頭の中に、"警戒すべき相手"として、初めて居場所を得た夜だった。

 

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