魔法の才能ゼロの令嬢に最強ジジイが科学を教えたら?→A.めっちゃ無双する:【才無し侯爵令嬢と魔法ジジイの科学革命】   作:Koh_novel

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第20話 変化

 模擬戦の翌週から、魔法実技の授業が少しだけ変わった。

 

 ——ピリカにとって。

 

 

 風魔法の実技。

 

 先生が手本を見せる。風の初級魔法を使い、十歩先の的を倒す。基本中の基本。

 

 生徒たちが順番にやっていく。大きな風を起こす者、的を吹き飛ばす者。それぞれの才能に応じた結果が出る。

 

 ピリカの番が来た。

 

 ——今までなら、何も起きなかった。ウィンドカッター、ウィンドブラスト。どんな初級の風魔法も、いくら詠唱しても発動しなかった。魔法には最低限必要な魔力量がある。ピリカの魔力は、その最低ラインにすら届かない。それが六年間の現実だった。

 

 ——でも。

 

 ——空気を押し退けるのに、魔力の規定量は関係ない。

 

 ピリカは掌をかざした。

 

 ——空気を押し退ける。

 

 ——真空の要領で。

 

 空気を押し退ければ、そこに向かって周りの空気が流れ込む。それが風になる。自分で風を「作る」のではなく、空気の流れを「起こす」。

 

 ぶわっ、と。

 

 的が倒れた。

 

 

「……え」

 

 ピリカ自身が驚いていた。

 

 ——倒れた。的が。私の風で。

 

 

 先生が目を丸くした。

 

「……ピリカさん、今の……」

 

「あ、はい。……倒れ、ました」

 

「…………ええ、倒れましたね」

 

 先生も困惑している。六年間、風魔法でまともな結果を出したことがない生徒が、急に的を倒した。

 

 

 次の授業。水魔法。

 

 水をコップの中に生成する。

 

 ——これは、できなかった。真空と関係がない。

 

 ——でも、もしかしたら、お師匠様に聞いたら何か方法があるのかもしれない。

 

 今のところ、コップは空のままだった。

 

 

 その次。土魔法。

 

 ——これも、できなかった。

 

 

 次の次。火魔法。

 

 ——言うまでもなく、できなかった。

 

 

 ——できるものと、できないものがある。

 

 ピリカは帰り道に考えた。

 

 ——風魔法はできた。空気を押し退けて流れを作る、真空の応用だから。

 

 ——水、土、火は相変わらずできない。魔法として発動するには、やっぱり魔力が足りない。

 

 ——でも、風は違った。風を「作る」んじゃなくて、空気を「押し退ける」。結果じゃなくて、途中の仕組みに手を加える。それなら、私の魔力でも届く。

 

 ——お師匠様が教えてくれたのは、そういうことだ。

 

 ——六年間ゼロだったものが、ゼロじゃなくなっていた。

 

 

 変化は、少しずつ周りにも広がっていった。

 

 

「ねぇ、ピリカって最近風魔法できるようになってない?」

 

「あー、この前の授業で的倒してたよね」

 

「でも他のは全然だったよ」

 

「風だけ? なんで急に?」

 

「さぁ……」

 

 

「魔力量って、伸びるものなの?」

 

「伸びないよ。生まれつきって習ったじゃん」

 

「じゃあなんで?」

 

「わかんない。でも、模擬戦でアリサのファイアボールも消してたよね」

 

「……あれ、結局なんだったんだろうね」

 

「ほんとにね」

 

 

 ——成績上位の生徒たちは、特段深く気にした様子はなかった。

 

 彼らにとっては、ピリカの風魔法など取るに足りない。的を倒した程度のことは、自分たちが入学初日にできたことだ。

 

 気にしていたのは——成績が低い生徒たち。

 

 

「ねぇ、ピリカってどうやって風魔法できるようになったの?」

 

 声をかけてきたのは、成績下位の女子生徒だった。風魔法がいつも弱くて、的を倒すのにいつも苦労している。

 

「え……」

 

「私、風魔法ずっと苦手で。ピリカが急にできるようになったの見て……なんか、コツとかあるのかなって」

 

 ピリカは少し考えた。

 

 ——真空の応用、とは言えない。お師匠様にも、方法は言わなくていいと言われている。

 

「……ごめんなさい、ちょっとうまく説明できなくて」

 

「そっか……。ごめんね、変なこと聞いて」

 

「ううん。でも——」

 

 ピリカは少しだけ笑った。

 

「——私も、ずっとできなかったから。気持ちはわかるよ」

 

 

 女子生徒が去った後、ピリカはふと思った。

 

 ——才能が低い人ほど、私のことが気になるんだ。

 

 ——「あの才無し侯爵ができたなら、自分もできるかもしれない」って。

 

 ——……希望、なのかな。

 

 ——でも、私がやってるのは、みんなと同じ方法じゃない。

 

 ——教えてあげられない。

 

 ——……ちょっとだけ、申し訳ない。

 

 

 そんな日々が続いた。

 

 ピリカは学園に通いながら、毎日グリモワルドの家で訓練を続けた。真空の精度を上げる。範囲を広げる。維持する時間を延ばす。

 

 走りながらでも真空を自分の前に維持できるようになった。

 

 ——少しずつ、少しずつ。

 

 

 ある日の帰り道。

 

 校門の掲示板に、新しい紙が貼り出されていた。

 

 生徒たちが集まっている。

 

 ピリカも覗き込んだ。

 

 

 ——学年別魔法大会。

 

 ——開催まで、あと一ヶ月。

 

 

 ピリカは掲示板を見上げた。

 

 ——お師匠様が言っていた。あれで優勝しろ、と。

 

 ——最初は冗談だと思った。

 

 ——でも、今なら。

 

 ——……ほんの少しだけ、想像できる。

 

 

 ——そういえば、今朝お師匠様が言っていた。「今日帰ったら一つ、新しいことを教えるぞ」と。

 

 ——なんだろう。

 

 ピリカは掲示板から目を離して、帰り道を歩き出した。

 




本日の更新はここまで!

6/14(日)は9:10から更新!!
魔法大会編に入っていって、一気に決勝戦(0話の回収)までいきますよ〜〜〜!!

めちゃめちゃ自信ある伏線回収を仕込んでいるので、
ぜひぜひブクマや評価いただけると、とっても嬉しいです〜!
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