魔法の才能ゼロの令嬢に最強ジジイが科学を教えたら?→A.めっちゃ無双する:【才無し侯爵令嬢と魔法ジジイの科学革命】 作:Koh_novel
王都の大通りが、人で埋まっていた。
年に一度の王都魔法大会。学園の生徒たちが腕を競う場であると同時に、王都最大の祭りでもある。
大通りの両側に屋台がずらりと並んでいた。焼き肉の匂い、甘い果実酒の匂い、香辛料の匂いが混ざり合って、通りを歩くだけで胃袋が揺さぶられる。
子供がはしゃぎ、大人が笑い、楽器の音が遠くから聞こえてくる。
肌の色も服装もばらばらだった。王都の住民だけじゃない。他国からの観光客が大勢混ざっている。聞いたことのない言葉が飛び交い、見たことのない模様の衣装が行き交う。
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「相変わらず、この時期は外に出るもんじゃないのう……」
グリモワルドが、人混みをうんざりした顔で眺めていた。
「これから出場する選手の横で、すごいことを言いますね……」
「何か食うか? その辺の肉とか、果実酒とか」
「す、すみません、緊張からかちょっと気持ち悪くて……」
「お主、そんなんで大丈夫か……」
ピリカは胃のあたりを押さえた。昨日はよく眠れた。やれることはやったから、気持ちも落ち着いていた。——はずだった。朝起きて、今日が当日だと思った瞬間から、胃がきゅうっと縮んだ。
ちゃんと準備をしてきた。ちゃんと可能性がある。だからこそ、する緊張というものがあることをピリカ初めて知った。
「お主は意外と緊張するタイプなんじゃのう」
「……はい、そうみたいです」
「吐くなら今のうちに吐いとけよ。試合中に吐いたら目も当てられん」
「そ、そこまでじゃないですよ……たぶん」
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すれ違いざまに、大人たちの会話が聞こえた。
「今年の学生はどんな感じだ?」
「断然、一年のアリサ嬢だよ。あの歳で上級魔法を普通に使えるらしい」
「マジか。俺が学生の頃は中級で精一杯だったが……」
「なんでも歴代最高の才能と言われてるとか。今年の闘技場は当たり年だな」
酒を片手に品評している。毎年のことだった。今年の新酒を語るように、今年の学生を語る。それがこの祭りの楽しみ方だった。
——アリサの名前が、もう出ている。
ピリカは隣を歩くグリモワルドをちらりと見た。老人は何の反応もなく、退屈そうに欠伸をしていた。
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——小さい頃は毎年、この祭りには家族と来ていた。
お父様が先頭を歩いて、お母様がその隣で微笑んでいて、お兄様がピリカの手を引いてくれた。ローザが少し後ろから危なくないようについてきて、ピリカが屋台に駆け寄るたびに「お嬢様、お行儀が」と困った顔をした。
買ってもらった焼き菓子を食べながら、闘技場で試合を見て、帰りの馬車の中で「あの魔法すごかったね」と話した。
あの頃はまだ自分の魔法の才能を知らなかったから、無邪気にそんなことが言えた。
——あの頃は、観る側だった。
——今年は、出る側。
まだ信じられなかった。
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闘技場が見えてきた。
石造りの巨大な円形競技場。五千人を収容する観客席が、すり鉢状に広がっている。入口には学園の旗が掲げられ、風に揺れていた。
観客の列がもう長く伸びている。闘技場での魔法大会は、この祭りの花形だった。
「ほれ、着いたぞ。わしは観客席から見ておる」
「あ、お師匠様」
「ん?」
「……行ってきます」
「おう」
グリモワルドは軽く手を振って、観客席の方に歩いていった。
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選手控室に向かう通路。
他の出場者たちが、思い思いに準備をしていた。深呼吸をする者、詠唱の練習をする者、目を閉じて瞑想して集中する者。
——みんな、強そうだった。
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対戦表が壁に貼り出されていた。
名前を探した。——あった。
ピリカ・ベルフォード。一回戦、第三試合。
もう一つの名前を探して、視線を動かした。トーナメント表の反対側だった。
アリサ・ヴァイスフェルト。一回戦、第八試合。
——アリサと当たるとしたら、決勝だ。
お師匠様が言っていた。「あれで優勝しろ」と。
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外から、歓声が聞こえてきた。
一回戦の第一試合が始まったらしい。地鳴りのような歓声が、控室の壁を揺らしている。
ピリカは拳を握った。
——やるしかない。
今日は1hごとに、27話(魔法大会の決着)まで更新していきます〜〜!