魔法の才能ゼロの令嬢に最強ジジイが科学を教えたら?→A.めっちゃ無双する:【才無し侯爵令嬢と魔法ジジイの科学革命】 作:Koh_novel
二回戦。相手は大柄な男子だった。
ピリカの倍近くありそうな体格。腕が丸太みたいに太い。闘技場に出てきた瞬間、観客席がどよめいた。
「おいおい、あの手袋の嬢ちゃんの次の相手、でけぇな」
「さすがにあの体格を殴って倒すのは無理だろ」
「今度はちゃんと魔法で戦うんじゃないか?」
一回戦で、ピリカは妙な注目を浴びていた。あの華奢な身体で相手を殴り倒して勝った小柄な金髪の少女——魔法大会なのに魔法を一切使わなかった異端の出場者として、観客の間ではちょっとした話題になり始めていた。
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——一ヶ月前。
「誰もお主みたいな小柄で華奢な女子が走って殴ってくるとは思っとらん」
グリモワルドが、メリケンサックを手の中で弄びながら言った。
「ましてや殴ったところで、この間の女子のような相手じゃないと有効打にはなりえん。普通ならな」
「ですよね。というか、いくら金属の塊を手につけたからといって、実際に男の人を殴って戦闘不能にできる気がしないんですけど」
「そこでこの手袋とメリケンサックの出番じゃよ」
グリモワルドがメリケンサックを軽く振った。
バチバチバチ、と青白い火花が散った。乾いた音が連続して弾けて、空気が焦げる匂いがした。
「"雷を込めて"ぶん殴れ。肌が露出している箇所に当てれば、ほぼ全ての相手に有効打になる」
「雷って、どうやるんですか……」
「ほら、今教えとるじゃないか。あれと同じよ。あ、ちなみに手袋をせずに触れると——」
グリモワルドが言い終わる前に、ピリカの指先はもうメリケンサックに触れていた。
「あああああばばばばば——!!」
全身に電流が走った。歯の奥まで痺れた。視界が白く弾けて、膝から崩れ落ちた。
「……こうなる。と、言おうとしたんじゃがな」
「ぜぇ……ぜぇ……で、でも魔法大会でこんなやり方で勝つなんて……」
「ふん。負けるより百倍マシじゃ。弱者が勝ち方なんぞ選んでおる場合か」
——それは、そうだ。
「それはそうですね。私が間違ってました」
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審判の旗が振られた。
「——始め!」
相手が、低い声で詠唱を始めた。
「大地よ、我が意に従い——」
——アースバレット。初級魔法。短縮詠唱。
ピリカは詠唱を聞きながら、じりじりと距離を詰めていった。
——一回戦のことを知られてる。中級魔法を完全詠唱してくれたら楽だったのに。短縮詠唱、しかも初級。発動が早い。
地面から拳大の土塊が三つ、浮き上がった。
——来る。
土塊が一斉に飛んできた。ピリカは身を低くして、一つ目を下にかわした。二つ目が左に避けたピリカの右肩を掠めた。三つ目を、首を傾けてぎりぎりで避けた。
相手の口が動いていた。次の詠唱がもう始まっている。
「——穿て、大地の槍——」
——中級のアースランス。まだ時間がかかるが、おそらくは私の拳を受けながら詠唱を完成させてのカウンター狙い。
ピリカは最後の三歩を一気に詰めた。相手が腕を上げてガードした。太い腕。分厚い筋肉。
——関係ない。
右拳を、ガードの上から叩きつけた。
バチッ。
「アガッ——」
相手の身体が痙攣した。ガードが崩れた。膝が折れた。
がら空きになった顎に、左拳を横から叩き込んだ。
バチッ。
二度目の衝撃で、大柄な身体がどさりと倒れた。地面に突っ伏したまま、動かなくなった。
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観客席が沸いた。一回戦とは違う。驚きの色が濃かった。
「嘘だろ、あのデカいのが二発で……!?」
「殴ったとき、なんか光らなかったか?」
「魔法大会であんな戦い方、見たことねぇぞ……!」
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ピリカは息を整えながら、拳を開いた。
メリケンサックが、微かに帯電していた。青白い火花が、ちりちりと散っている。
——二回戦、勝ち。
観客席を見上げた。グリモワルドの姿は、遠すぎて見えなかった。
でも、きっとあの人は——"本当にうまくいきよった"と笑ってでもいるのだろう。