魔法の才能ゼロの令嬢に最強ジジイが科学を教えたら?→A.めっちゃ無双する:【才無し侯爵令嬢と魔法ジジイの科学革命】   作:Koh_novel

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第24話 三回戦

 三回戦の相手は、火属性の使い手だった。

 

 小柄な男性。髪を逆立てて、目つきが鋭い。闘技場に出てきた瞬間から、挑発的な笑みを浮かべていた。

 

「お前が噂の殴るだけの嬢ちゃんか。ほんとに小せぇんだな」

 

 ピリカは答えなかった。手袋の上からメリケンサックを握り直した。

 

 

「——始め!」

 

 審判の旗が振られた瞬間、相手の手のひらに炎が灯った。

 

 ——無詠唱のファイアボール。

 

 火球が三つ、同時に飛んできた。

 

 ピリカは走った。真っ直ぐに。

 

 火球が迫る。顔と身体に当たる——はずだった。

 

 ピリカの前で、三つの炎が同時にふっと消えた。音もなく。煙も残さず。

 

 

「は——?」

 

 相手の顔が、固まった。

 

 観客席からもどよめきが上がった。

 

「ファイアボールを消したのか!?」

 

「あの嬢ちゃん、殴り以外にもやれたのか!!」

 

「なんだ今の!? 何をした!?」

 

 

 ——真空。

 

 お師匠様に叩き込まれた技術。炎の前方に真空の壁を作る。酸素がなければ、炎は燃えない。

 

 ファイアボール程度なら、正面から受ければ余裕で消せる。何度も何度も訓練した。もう身体が覚えている。

 

 

 相手の目が見開かれた。だが、すぐに歯を食いしばった。

 

「なら、これはどうだ——!」

 

 短い詠唱。相手の手に、細長い炎の槍が形成されていく。

 

 ——ファイアランス。短縮詠唱。さっきより断然、火力が高い。

 

 炎の槍が、一直線にピリカへ向かって射出された。

 

 ——来る。

 

 ピリカは足を止めた。走りながらでは制御が甘くなる。両手を前に出して、意識を集中させた。

 

 ——真空を、厚く。前に。ここに全部集める。

 

 ファイアランスが真空の壁に突っ込んだ。炎が揺らいだ。縮んで、縮んで、ほんのピリカの手のひらの前で——消えた。

 

 ぎりぎりだった。手が震えている。集中を一瞬でも緩めたら、貫通されていた。

 

 ——でも、消せた。

 

 

 相手が、呆然としていた。

 

 ファイアランスまで消されるとは、思っていなかったのだろう。口が半開きになって、手が下がっていた。

 

 ——今。

 

 ピリカは残りの距離を一気に詰めた。三歩。二歩。

 

 右拳を振りかぶった。相手が我に返って、反射的に両手を突き出した。——拳を受け止めようとしたのだろう。

 

 メリケンサックが指先に触れた。

 

 バチッ。

 

「ぁ——」

 

 相手の身体が硬直した。目が見開かれたまま、指先から腕、肩、全身へと痙攣が走った。膝が折れて、そのまま前のめりに倒れた。

 

 

「あの嬢ちゃん、マジでまた殴って勝ちやがった……!まじでおもしれぇ!!」

 

「いや、そこじゃないだろ! ファイアランスを消したぞ!?」

 

「無詠唱の消失魔法か……?だがあれは相当高度な魔法のはずだが……」

 

「殴りだけじゃなかったのか、あいつ……」

 

 

 控室に戻って、壁にもたれた。

 

 膝が笑っていた。三回戦が、一番きつかった。ファイアランスを消すのに、かなりの集中力を持っていかれた。

 

 ——でも。

 

 火魔法の使い手と当たれたのは、ラッキーだった。

 

 真空でファイアボールを消す。ファイアランスも、集中すれば消せる。実戦で確認できた。

 

 ——アリサとの戦いの、良いリハーサルになった。

 

 

 対戦表を見上げた。

 

 トーナメント表の反対側。アリサ・ヴァイスフェルトの名前の横に、勝ちの印が三つ並んでいた。

 

 ——当たり前のように、順当に勝ち上がっている。

 

 そして、トーナメント表の頂点には、もう二つの名前しか残っていなかった。

 

 ピリカ・ベルフォード。

 

 アリサ・ヴァイスフェルト。

 

 ——次は、明日。

 

 ——決勝戦だ。

 

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