魔法の才能ゼロの令嬢に最強ジジイが科学を教えたら?→A.めっちゃ無双する:【才無し侯爵令嬢と魔法ジジイの科学革命】 作:Koh_novel
三回戦の相手は、火属性の使い手だった。
小柄な男性。髪を逆立てて、目つきが鋭い。闘技場に出てきた瞬間から、挑発的な笑みを浮かべていた。
「お前が噂の殴るだけの嬢ちゃんか。ほんとに小せぇんだな」
ピリカは答えなかった。手袋の上からメリケンサックを握り直した。
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「——始め!」
審判の旗が振られた瞬間、相手の手のひらに炎が灯った。
——無詠唱のファイアボール。
火球が三つ、同時に飛んできた。
ピリカは走った。真っ直ぐに。
火球が迫る。顔と身体に当たる——はずだった。
ピリカの前で、三つの炎が同時にふっと消えた。音もなく。煙も残さず。
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「は——?」
相手の顔が、固まった。
観客席からもどよめきが上がった。
「ファイアボールを消したのか!?」
「あの嬢ちゃん、殴り以外にもやれたのか!!」
「なんだ今の!? 何をした!?」
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——真空。
お師匠様に叩き込まれた技術。炎の前方に真空の壁を作る。酸素がなければ、炎は燃えない。
ファイアボール程度なら、正面から受ければ余裕で消せる。何度も何度も訓練した。もう身体が覚えている。
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相手の目が見開かれた。だが、すぐに歯を食いしばった。
「なら、これはどうだ——!」
短い詠唱。相手の手に、細長い炎の槍が形成されていく。
——ファイアランス。短縮詠唱。さっきより断然、火力が高い。
炎の槍が、一直線にピリカへ向かって射出された。
——来る。
ピリカは足を止めた。走りながらでは制御が甘くなる。両手を前に出して、意識を集中させた。
——真空を、厚く。前に。ここに全部集める。
ファイアランスが真空の壁に突っ込んだ。炎が揺らいだ。縮んで、縮んで、ほんのピリカの手のひらの前で——消えた。
ぎりぎりだった。手が震えている。集中を一瞬でも緩めたら、貫通されていた。
——でも、消せた。
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相手が、呆然としていた。
ファイアランスまで消されるとは、思っていなかったのだろう。口が半開きになって、手が下がっていた。
——今。
ピリカは残りの距離を一気に詰めた。三歩。二歩。
右拳を振りかぶった。相手が我に返って、反射的に両手を突き出した。——拳を受け止めようとしたのだろう。
メリケンサックが指先に触れた。
バチッ。
「ぁ——」
相手の身体が硬直した。目が見開かれたまま、指先から腕、肩、全身へと痙攣が走った。膝が折れて、そのまま前のめりに倒れた。
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「あの嬢ちゃん、マジでまた殴って勝ちやがった……!まじでおもしれぇ!!」
「いや、そこじゃないだろ! ファイアランスを消したぞ!?」
「無詠唱の消失魔法か……?だがあれは相当高度な魔法のはずだが……」
「殴りだけじゃなかったのか、あいつ……」
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控室に戻って、壁にもたれた。
膝が笑っていた。三回戦が、一番きつかった。ファイアランスを消すのに、かなりの集中力を持っていかれた。
——でも。
火魔法の使い手と当たれたのは、ラッキーだった。
真空でファイアボールを消す。ファイアランスも、集中すれば消せる。実戦で確認できた。
——アリサとの戦いの、良いリハーサルになった。
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対戦表を見上げた。
トーナメント表の反対側。アリサ・ヴァイスフェルトの名前の横に、勝ちの印が三つ並んでいた。
——当たり前のように、順当に勝ち上がっている。
そして、トーナメント表の頂点には、もう二つの名前しか残っていなかった。
ピリカ・ベルフォード。
アリサ・ヴァイスフェルト。
——次は、明日。
——決勝戦だ。