魔法の才能ゼロの令嬢に最強ジジイが科学を教えたら?→A.めっちゃ無双する:【才無し侯爵令嬢と魔法ジジイの科学革命】 作:Koh_novel
右足が満足に動かない。アリサのファイアボールがまだいくつか宙を漂っている。数本あるファイアランスがいつ飛んでくるかわからない。
——準備は、最低限は進んだ。というか、これ以上は間に合わなくなる。あと必要なのは、着火するための火だけだ。
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——二週間前のことを思い出す。
グリモワルドの家の裏庭。ピリカは手のひらに意識を集中させていた。
「火を作るのは何度やってもうまくいかんのう」
「そうなんですよね……。もしかしたら試験のせいで苦手意識がついちゃってるのかもしれません。なので、こうやってやれば——————」
「なるほど。ま、これ以上着火に割く練習時間はない。それでいこうかの」
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——あの時に決めた方法で、やる。
ピリカは口を開いた。
「紅蓮の炎よ、我が手に集え——」
初級魔法ファイアボールの完全詠唱。何百回と繰り返した詠唱。
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観客席がざわめいた。
「おい、あの子、初めて試合で詠唱してるぞ」
「初級魔法の詠唱? この状況で?」
「超級魔法に対して初級魔法って……何してるんだ?」
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「燃え盛りて球となれ——」
——何回練習したかわからない。この詠唱だけは、どんな状況でも、絶対に間違えない。
「渦巻く火球が、この手の前に——」
——あの練習は、無駄じゃなかった、それをここで証明する。
——私がファイアボールをうまく扱えなかったことも、それでも諦めなかったことも。
——全ては、いま、この時のためだったのかもしれない。
「——ファイアボール」
掌の上に、ぽっと小さな小さな炎が灯った。
こんな試合中なのに、いつも通りの小さな炎に思わず笑ってしまう。
指先ほどの、弱々しい炎。何百回練習しても、これ以上大きくならなかった火。ファイアボールにすら全く届かない、ちっぽけな光。
——だけど。これで十分。
ピリカは無意識に微笑んでいた。
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アリサの詠唱が、終わりに近づいていた。
脂汗を浮かべて、息を切らせている。ファイアボールとファイアランスを維持しながらの超級魔法。
——あぁ、なんて眩ゆい才能なんだろう。私なんて、結局ファイアボール1個も作れなかったのにな。
「これが、今回用意した私の切り札です。——高威力で、避けられない、追尾する炎の魔法!」
アリサの背後に、一気に炎が集まった。
巨大な炎の鳥が、爆ぜるように顕現した。揺らぐ炎の翼が大きく開き、熱波が放射状に闘技場を薙いだ。周囲の雨が蒸発し、白い蒸気が渦を巻く。
——フェニックス。
超級魔法。到底学生が出せるはずのない魔法。それを、この少女は出した。
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観客席の上方。グリモワルドが目を細めた。
「あーー……まだまだ不完全な顕現ではあるが、ありゃさすがに真空の壁程度じゃ到底消せんのう……」
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フェニックスが、ピリカに向かって飛んだ。
巨大な炎の鳥が、翼を広げたまま突っ込んでくる。熱が肌を灼く。雨が蒸発して、視界が白く煙る。
逃げ場はない。
——でも、逃げる必要はない。
ピリカは、自分の出した小さな炎を見た。弱々しく揺れている、すぐにでも雨粒に消されそうな頼りない光。
でも、"どんな雨の日でもこの炎はすぐには消えなかった"。それは私が一番よく知ってる。
「これが私の——奥の手」
ピリカは微笑みながら、すっと上空を指差した。小さな炎が指先を離れて、ゆらゆらと宙に漂っていく。あまりにも弱々しい火。初級魔法にすら全く届かない出力。
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アリサが叫んだ。
「その弱々しい炎は何——!? いったいどこに向けて撃って——————」
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小さな火が、二人の頭上に昇っていった。
正面からフェニックスが迫る。
——その時
カッッ!!!
白い閃光が、闘技場を焼いた。
ボッッ!!!!!!
遅れて、上から降ってくる巨大な爆風が、全ての空気を端から押し潰していく。
小さな火が、密かに雨を電気分解して集め続けた奥の手——大量の"水素"と"酸素"に引火した。
"水素爆発"
迫ってきていたフェニックスが、巨大な爆風に呑まれて地面に押し潰された。
あまりの爆風に、アリサの身体が水平に吹き飛ぶのが見えた——と同時に、自分の身体も同じく爆風に呑まれ、水平に吹き飛んでいった。
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関係者席の最上段。
グリモワルドが、人差し指をすっと振った。
吹き飛んでいく二人の速度が、ふっと半分に緩まった。
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グリモワルドの隣の隣の席。
いつの間にか立っていた白髪で長身の男が大きく杖を振った。
闘技場の壁が——砂に変わった。
そのすぐ後に、二人の身体が、砂の壁に突っ込んだ。崩れた砂が二人を包み、衝撃を吸い取った。
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ピリカの意識が、遠くなっていく。
——くそぅ、やっぱり制御が甘すぎて自分まで……
砂の中に半分埋もれたまま、視界がぼやけていた。身体が動かない。
——あ、アリサは。
首だけ動かした。反対側の壁際で、赤髪の少女が同じように砂に埋もれていた。動かない。
——引き分け、かな。
意識が、落ちた。
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「無詠唱で爆裂魔法だと!?」
「なんだあの爆発のデカさは!?」
「だが、ほとんど魔力は感じなかったぞ!?」
「そんなはずがあるか、あの威力だぞ!!」
「どうか…酷いお怪我の無いようご無事で……」
「身代わりのペンダントがあってもあの威力——医療班を呼べ!」
「すっげぇな……俺も訓練すれば撃てるのか……?」
闘技場は騒然としていた。雨の中、観客が立ち上がって叫んでいる。
審判が駆け寄った。医療班が走り出す。雨が強くなり、爆発の白い煙が流されていく。
闘技場の中央には、誰も立っていなかった。
二人とも、砂の中で倒れていた。
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審判の声が、闘技場に響いた。
「両者、戦闘不能! 決勝——引き分け!」
一拍の沈黙。
そして——五千人の大歓声が、雨を押し返すように闘技場を満たした。
【作者からの本気のお願い】
ここまでお読みいただきありがとうございました!!!
「楽しかった!」「続きが気になる!」と少しでも思ってくださった方は、ぜひ本作をブクマ、高評価いただけると嬉しいです!(ハーメルンって評価が平均なので1つ低評価つくとかなりきついですよね...)
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あと、個人でAIアニメも作成中です。ぜひ!(Xの固定にて、まだ試作の2分程度ですが)
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明日からは
魔法大会の決勝後、エピローグ的な話をいくつか挟んで次章へ進んで行きます〜〜!