魔法の才能ゼロの令嬢に最強ジジイが科学を教えたら?→A.めっちゃ無双する:【才無し侯爵令嬢と魔法ジジイの科学革命】 作:Koh_novel
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【第28話 老人二人、仲睦まじく】
観客席の上の方。
グリモワルドが、声を上げて笑った。
「あの奥の手を授けても単独一位にはなれんか!かっかっか!」
「グリモワルドか」
隣の隣の席から、白髪の老人が声をかけてきた。フェニックスが出た時点で立ち上がり、壁を砂に変えたその人物——ボルトラン・ヴァイスフェルト。
「久しいのぅ。主席宮廷魔法使い様が、直々にこんなところまで来てどうした。トップ自らスカウトか?」
「アリサはわしの弟子だ。弟子の試合を見に来ない方がおかしいだろう。それより、人嫌いのお前がなぜこんなところにいる。あの爆発娘はお前の弟子か何かか?」
「初めて、弟子なるものをとってみた」
「は……?完全に冗談のつもりだったんだが……。そして、どんな魔法を使ったんだ。あのお世辞にも才能があると言えない娘と、うちのアリサが引き分けなんて……」
「お前の弟子はずいぶん才能があるのぅ。あの歳で、色々維持したまま不完全とはいえフェニックスの顕現をやり切るとは。そこそこ以上のセンスを感じるわい」
「いや、お主の弟子、その才能あるわしの弟子と引き分けになっているんだが……」
「かっかっか!ま、師匠の差じゃな」
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「あと、あの爆裂魔法もどきはなんだ。ほとんど魔力を感じなかった。あれは従来の魔法とは違う————そう、まるでお前がたまにやるような」
ボルトランの声が、少しだけ真剣になった。
「かっかっか、そうじゃな。じゃが、特に不正はしておらんぞ」
「だろうな。お前はそんなことはせん」
ボルトランはそれ以上追及しなかった。——長い付き合いだ。グリモワルドの性格は知っている。ルールの穴はついても明確な不正はしないようなタイプの男だ。
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「——それと、勢いを和らげてくれて礼を言う」
「お主も壁を砂に変えておったじゃないか」
「あれだけで無事に済むとは限らないからな。礼は言っておく」
「相変わらずのクソ真面目じゃのう……」
老人二人の掛け合いは、まだまだ自然と続いていた。
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【第29話 医務室】
——まぶしい。
白い天井が見えた。身体が重い。全身が痛い。
——ここは。
ピリカは首を動かした。清潔なベッドの上だった。横に、もう一つベッドがある。
赤い髪が、白い枕の上に広がっていた。
アリサが、こちらを見ていた。
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「起きたのね」
「……うん。私、どれくらい寝てた?」
「さあ。私も少し前に目が覚めたばかり」
アリサの腕には包帯が巻かれていた。額にも、小さな傷の跡がある。
——私もだいぶ痛い。でも、動ける。身代わりのペンダントのおかげか。
ピリカはゆっくりと身体を起こして、ベッドの縁に腰掛けた。アリサも同じように起き上がり、向かい合う形で座った。
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「フェニックス、すごかった」
ピリカは、思ったことをそのまま口にした。
「超級魔法を学生で出すなんて、まるで宮廷魔法使い様の試合を見てるみたいだった」
アリサが、少し目を見開いた。それから、ふっと笑った。
「あなたこそ。決勝までの戦い方を見て絶対に近づかせないようにしていたのに、あんな規模の無詠唱爆裂魔法なんて。とんでもない奥の手を持っていたのね。それなのにファイアボールも撃てないなんて信じられない」
「あはは、やっぱり近づかせないようにしてたんだ」
「そうすれば勝てるって思ってたんだけどね。きっとここ最近はその奥の手の訓練に費やしたんでしょう? 私のフェニックスはまだまだ安定しないギリギリの切り札だったのに」
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「あーーー、うん、えっとね。ここ最近ずっと練習してたのはそうなんだけど、あれは爆裂魔法じゃないんだ」
「でも、あの見た目と威力は上級の爆裂魔法よね?」
「うーー、あーー……これ詳細を教えていいのかな……。宮廷魔法使いのグリモワルドって人が、今の私のお師匠様なんだけど……」
アリサの表情が、固まった。
「グリモワルド様——!? ソーラーレイ事件で東部戦線を終わらせた大英雄じゃない!?」
「え、え、そうなの? 考えてみればお師匠様のことって何も知らないかも……」
「あなたねぇ……! え、グリモワルド様に師事させていただいてるの!? あの誰とも関わらないので有名な」
「え、そうなの? たしかに常識ないし、変な人だし、口も悪いし、適当に試してくるし……」
「あなた、お師匠様のことだいぶ悪く言うわね……」
「で、でも事実だし……」
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「なにが事実じゃ、なにが」
後ろから声がした。
振り返ると、医務室の扉を開けて、グリモワルドが立っていた。
「あ、お師匠さま——!!」
ピリカは思わず背筋を伸ばした。
「あそこまで教えても世代一位にはなれんかったのう」
「す、すみません……」
「ああ、とくに責めてはない。相手がな、わしの思った以上に強かった。むしろよく引き分けまで持っていった。実力ではどう見ても負けとるからのう」
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アリサが背筋を伸ばしてグリモワルドの顔を、食い入るように見つめている。
——この人が、グリモワルド様。
歴史の教科書に載っている名前。東部戦線を単独で終わらせたとされる伝説の魔法使い。祖父のボルトランが、唯一「格上」と認めた人物。
——こんな、けだるそうな顔のおじいさんが……。
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もう一つの足音が近づいてきた。
「アリサ、よくやった」
白髪の老人が、医務室に入ってきた。
「お祖父様——! ありがとうございます。優勝できずにすみません……」
「いや、良い。審議は入るが、おそらく同率優勝になるだろう。お前のフェニックス、そこの——ピリカ嬢と言ったか。彼女の無詠唱爆裂魔法。どちらも魔法大会優勝として誰一人文句はないだろう」
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ピリカの目が、大きく見開かれた。
「え!? ボルトラン様ですよね!? 何十年もずっと宮廷魔法使い主席の!! すごい! ずっと憧れてます!! 好きです!! よかったらサインください!!!」
一気にまくし立てた。
アリサが額を押さえた。
「いきなり何言ってるのよ……」
「いきなり何言っとるんじゃおぬし……」
グリモワルドも同じようなことを言っていた。
「べ、べつにサインくらい構わんが……」
「ほんでお主はなんで少し照れて嬉しそうなんじゃ……」
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「あ、そうだ! お師匠様! アリサに水素爆発を教えてもいいですか?」
「ふむ」
グリモワルドが、赤髪の少女に目を向けた。
「アリサと言ったな。お主の才でよく分からないまま無闇にあれを使うと、街の一画が更地になりかねん」
「え……」
アリサが顔を引きつらせた。
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ボルトランが、静かに口を開いた。
「アリサよ。わしの元だけでなく、グリモワルドの元でもしっかり学んでこい。こいつ以上の魔法使いを、わしは生涯見たことがない。何の気の迷いか、なぜか教える気になっているらしい。今が貴重なチャンスだ」
アリサが、驚いた顔でボルトランを見た。
「お祖父様、いいんですか……?」
「ボルトラン、よいのか? 貴族に睨まれるぞ?」
「ふん。そんなもの気にする必要はない。それよりも——仮にもたった三ヶ月でピリカ嬢がアリサに並んできた。アリサはわしが手塩にかけて長年育ててきた珠玉の才だ。才能は十年に一人と考えている。だが、このままわしの元だけで育てていたとして、一年後どうなるか。考えたくもない」
「はっはっは、あと一年あれば余裕で完封じゃの」
「ならば、アリサも共に学ばせるのがよかろう。どうせお前、一人増えても変わらんくらい暇だろう?」
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「じゃ、後日うちに来るんじゃな。日程はピリカを通して決めろ」
「お前の弟子は、お前のマネージャーか何かなのか……?」
「でも、お師匠様、基本的に暇じゃ……?」
「カッコつかんことを、わざわざ言わなくてもよかろうに!」
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医務室に、笑い声が響いていた。
つい先ほどまで死力を尽くして決勝戦を戦ったとはとても思えない、和やかな空気だった。包帯を巻いた少女が二人と、しわくちゃの老人が二人。四人が、小さな医務室で笑っていた。