Q. 魔法の才能ゼロの令嬢に最強ジジイが科学を教えたら?→A.めっちゃ無双する:【才無し侯爵令嬢と魔法ジジイの科学革命】   作:Koh_novel

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第43話 いつかの未来——近代魔術史について

 ——これは、ずいぶん先の未来の話。

 

「——というわけで、今日は『近代魔術史』の最も重要なターニングポイントについて話しましょう」

 

 歴史の教師がそう言って、黒板に大きく二文字を書いた。——「魔術」。

 

「皆さんが今、当たり前に使っているこれですね。空気中の水分を集めて水にする。熱を移動させて部屋やモノを冷やしたり温めたりする。声の振動を電気に変えて銅線で遠くに届ける。——すべて魔術です。でも——これが『誰にでも使えるもの』になったのは、実はそんなに昔の話じゃないんですよ」

 

 生徒の一人が首をかしげた。

 

「えっ、昔は違ったんですか?」

 

「ええ。今から数百年前まで、人が世界に働きかける手段は『魔法』と呼ばれていました。魔術じゃなくて、魔法」

 

 教師は黒板の隣に「魔法」と書き足した。

 

 

「魔法というのは、ものすごく雑に言えば『詠唱すれば定められた事象が起きる』技術でした。火の詠唱をすれば火が、風の詠唱をすれば風が。世界の方が、術者のイメージを汲み取って勝手に実現してくれる——そういう仕組みだったんです」

 

「えっ、それめちゃくちゃ便利じゃないですか?」

 

「便利なんですけどね。一つだけ致命的な問題があって——才能のある人しか使えなかったんです」

 

 教室が少しざわついた。

 

 

「当時の言葉で『魔力量』というものがありました。これが多い人は強力な魔法が使える、少ない人は何もできない。生まれつきの量で、努力ではほぼ増えない。だから魔法は、貴族やごく一部の生まれつき恵まれた人間だけのものでした」

 

「不公平ですね……」

 

「そうなんです。そしてここに、一人の女性が現れます」

 

 教師は黒板に名前を書いた。——ピリカ・ベルフォード。

 

 

「ピリカ・ベルフォードが世に出てきたのは、ある魔法大会からでした。今では『魔術の始祖』『魔道具の母』として広く知られている彼女ですが——」

 

 教師は少し間を置いて、悪戯っぽく笑った。

 

「当時の魔法体系では、彼女は魔法をほとんど使えず『才無し侯爵』なんて呼ばれていた記録が残っています」

 

「ええーー!?」「うそーー!」「ひどい……」

 

「そうなんですよ。これは酷すぎて、あまり教科書には載ってない話ですけどね」

 

 教師がくすりと笑った。

 

「でも、ここからが面白いんです。彼女は『魔力がないなら、魔法に頼らない方法を考えればいい』と発想した。世界に願うんじゃなくて、自分で仕組みを組み立てる——という方向に舵を切ったんですね」

 

 

「仕組み、ですか?」

 

「ええ。たとえば皆さん、水素と酸素を混ぜて火花を飛ばすと、こうなりますよね——」

 

 教師が教卓の引き出しから小さな風船を取り出し、魔術でふわりと宙に浮かべた。それから、風船に向かって軽くデコピンの構え——パチンッと弾いた指先からチリッと小さな火花が飛んで、風船に到達した瞬間。

 

————ボンッ。

 

 乾いた破裂音と、一瞬の青白い光。生徒たちが小さく笑って盛り上がる。

 

 

「はい。これ、皆さんは『水素と酸素が反応して水になる、その時に熱が出る』って習いますよね。当たり前の知識です。でもね——これは当時の人たちにとっては、まったく未知の現象だったんです」

 

「えっ、こんな簡単なことが?」

 

「簡単に見えるのは、皆さんがもう答えを知っているからですよ」

 

 教師は微笑んだ。

 

「水素、酸素、化学反応——今では学校で当たり前に習うことですが、ピリカの時代には全く知られていなかった」

 

 

 教師は黒板に小さく図を描いていった。

 

「彼女がやったのは、こういうことです。『爆発しろ』と願うんじゃなくて、『水を水素と酸素に分けて、そこに火花を飛ばせば爆発する』と組み立てる。願いの代わりに、手順を踏む。結果じゃなくて、過程を指定する。これが——」

 

 教師が黒板の「魔法」と「魔術」の間に、大きく矢印を引いた。

 

 

「——魔法の終わりであり、魔術の始まりです」

 

 

 教室が静かになった。

 

 

「魔法は、世界に願って結果をもらう技術でした。だから、世界に願いを聞き届けてもらえるだけの『魔力』が必要だった。一方、魔術は、世界の仕組みそのものを利用する技術です。だから魔力の代わりに——知識があればいい」

 

「だから……誰でも使えるようになった?」

 

「そういうことです。ピリカ・ベルフォードという一人の女性が、『才無し』であったからこそ、結果的には魔法を一部の人間の特権から、人類全員の道具に変えた。これが、私たちが今こうして当たり前に魔術を使える理由なんです」

 

 

 しばらくの沈黙のあと、生徒の一人がぽつりと尋ねた。

 

「先生、その人……一人で全部やったんですか?」

 

 

 教師は少し笑って、黒板にもう一つ名前を書き足した。

 

 ——グリモワルド・ヴァイツェンフェルト。

 

「いいえ。彼女の師にあたる人物がいました。当時、"最強の魔法使い"と呼ばれていた——グリモワルド・ヴァイツェンフェルト。皮肉なことに、魔術という新時代を切り開いたピリカの背後には、旧時代の魔法を極めきった、一人の老人がいたんです」

 

 教師は黒板を見つめて、少し遠い目をした。

 

 

 黒板に並んだ二つの名前。

 

 グリモワルド・ヴァイツェンフェルト。

 ピリカ・ベルフォード。

 

 

「あ、そうそう。この二人にはセットで呼び名がありまして——私はこれがけっこう気に入ってるんですけど」

 

 教師は黒板の二つの名前の下に、すっと線を引いた。

 

 

————"最強最後の魔法使い"と、"最弱最初の魔術使い"

 

 

 キーンコーンカーンコーン。

 

「——おっと。今日はここまでにしましょうか」

 

 教師は苦笑して、チョークを置いた。

 教室がざわめいている。

 

「では、次回は——この二人の話から始めましょう」

 

 

 ——さて、時は戻る。将来歴史の教科書に載る二人が、ドラゴンの待つ森へ向けて空を飛んだ朝の話へ。

 

 




miwさん、けぷひぇんさん、shion2608さんより高評価、ムッシーさんから評価10いただきましたっ!!!!
作品を読んで時間を使ってくださり高評価まで、本当にありがとうございます、、、( ; ; )


【作者からの裏話】
実は本作品、最初のタイトルは【"最強最後の魔法使い"と、"最弱最初の魔術使い"】でした。

・最強↔︎最弱
・最後↔︎最初
・魔法使い↔︎魔術使い
の対比と、色々含まれていたりします。

ただ全然どんな作品か伝わらんなぁ。。。と思って、泣く泣く現状に変更しました。
今回それを出せて、ひとまず半分くらいは満足です!笑
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