魔法の才能ゼロの令嬢に最強ジジイが科学を教えたら?→A.めっちゃ無双する:【才無し侯爵令嬢と魔法ジジイの科学革命】 作:Koh_novel
書斎を出た。
廊下に出た瞬間——目の前に、ローザが立っていた。
直立不動。メイドの姿勢。——でも、顔が崩れていた。
涙が、止めどなく流れていた。両手を体の横にきちんと揃えたまま、ぼろぼろと泣いていた。
「ローザ、そこで聞いてたんだね」
「……」
「すっごい泣いてる」
「やっ、と——」
ローザの声が、震えて途切れた。
「やっど……お嬢様が、おがえりに、なられだので……」
メイドの言葉遣いが崩れていた。鼻声で、ぐしゃぐしゃで、それでも「お嬢様」だけは崩さなかった。
「ずっと見守っててくれたんだってね」
ローザが涙を拭った。拭いても拭いても、新しい涙が出てくる。それでも、メイドとして、ちゃんと話そうとしていた。
「お嬢様が屋敷を出られた日から——毎週、グリモワルド様のお家を遠くからお見守りしておりました」
ピリカの目が見開かれた。
「最初は……お嬢様はとぼとぼと歩いていらっしゃいました。背中が小さくて、今にも倒れてしまいそうで。何度も、駆け寄ろうとしました」
ローザの声が震えた。
「でも、旦那様からのお言いつけは、見守ることだけ。近づいてはならないと」
「……」
「それが——だんだんと、変わっていかれたのです」
ローザの目が、遠くを見た。
「ある日の報告書に、こう書きました。——『お嬢様は本日、グリモワルド様のお家に向かう途中、鼻歌を歌っておられました。曲名は不明ですが、お嬢様が歌っているのを確認したのは、これが初めてです』」
ピリカの息が詰まった。
「その次の週には、お嬢様が庭の練習場で転んで泥だらけになりながら笑っていらっしゃって。——その次は、グリモワルド様に何か言われて怒って言い返していらっしゃいました。とても元気に」
ローザは、泣きながら笑った。
「背筋が伸びて、歩く速さが変わって、目の色が変わって。最後には、走るようにグリモワルド様のお家に向かわれるようになりました。——それが本当に、本当に嬉しくて」
声が途切れた。ローザは一度、深く息を吸った。メイドの姿勢を正した。涙はまだ流れていたけれど、声だけは、ちゃんと整えた。
「私の役目は、お嬢様を遠くからお守りすることでした」
一拍。
「でも、今は——もう、近くに行ってもよろしいでしょうか」
ピリカの視界が、また滲んだ。
「ローザ!」
飛びついた。
ローザの体がびくりと震えた。——メイドとして、お嬢様に抱きしめられることなど、あってはならない。でも。
ローザの両手が、おずおずとピリカの背中に回った。そして——ぎゅっと、力を込めた。
二人で泣いた。
廊下に、二人分の泣き声が響いた。
しばらくして——ローザが涙を拭って、背筋を伸ばした。伸ばそうとした。——でも、まだ少し曲がっていた。
「お夕食の支度が、ございますので」
「うん。久しぶりに、楽しみにしてるね」
ローザは深くお辞儀をした。顔を上げた時には——目は赤かったけれど、いつものメイドの笑顔に戻っていた。
ここまでお読みいただきありがとうございました!!!
第2章、ほぼ完結になります!
ここから数話、エピローグ的な話を挟んで第3章。ピリカが「魔術の始祖」「魔道具の母」と呼ばれる存在になる話へ進んでいきます!
そして、ここまで読んでいただいた皆さんに、お願いがあります。
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