魔法の才能ゼロの令嬢に最強ジジイが科学を教えたら?→A.めっちゃ無双する:【才無し侯爵令嬢と魔法ジジイの科学革命】 作:Koh_novel
食堂に、四人分の食器が並んでいた。
ピリカはその光景を見て、一瞬だけ足が止まった。——四人分。自分の席がある。当たり前のことなのに、胸の奥がきゅっと締まった。
「ピリカ、こっちよ」
母が椅子を引いた。いつもの席。窓際の、いつもの場所。
座った。テーブルの高さも、椅子の座り心地も、覚えていた。
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料理が運ばれてきた。ローザが給仕をしている。目の周りがまだ少し赤いが、手つきはいつも通り完璧だった。
温かいスープの匂いが立ち昇った。パンが切り分けられ、肉が盛り付けられた。
——久しぶりの、家の味だ。
「いただきます」
四人の声が揃った。
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「だいたい俺は最初から反対だったんだ」
アーサーがフォークを置いた。
「すぐにでも連れ戻せばよかった」
「だが、それでは魔法大会で勝てないと、グリモワルド様と相談して——」
「それはたしかにそうだったかも」
ピリカがスープを一口飲んでから言った。
「半ば現実逃避みたいに訓練に没頭して、それでも運が味方してギリギリの引き分けだったし」
「それでもだ!」
アーサーの声が大きくなった。父が咳払いをした。アーサーは少しだけ声を落としたが、目の真剣さは変わらなかった。
「妹が一人で、あんな——」
「でもあれで優勝したおかげで、ピリカの立場もだいぶ変わるわよね」
母が穏やかに言った。アーサーの言葉を遮るでもなく、自然に流れを変えた。
「退学の取り消しもあったし」
ピリカの手が止まった。スプーンがスープ皿の中で傾いた。
「……退学の、取り消し……?」
「ああ。ん?——グリモワルド様から聞いていないのか」
父がグラスを置いた。少し驚いた顔をしていた。
「何も……聞いてないです」
「そうか。昨日、当家にも学園から正式な知らせが届いた。——お前の退学は、撤回されたそうだ」
「魔法大会の後、学園の中でもしばらく議論になったらしい。ファイアボールの試験で不合格だった以上、落第のままだという声と——魔法大会で優勝した実績があるのだから、落第を撤回すべきだという声に分かれたそうだ」
「……」
「最終的には、ボルトラン様が動いてくださった」
父がナプキンで口元を拭った。
「ボルトラン様はこう仰ったそうだ。——"あの試験は、魔力量が少ない生徒を退学にするためのものではない。魔法を使えない生徒を退学にするための試験だ。ならば、無詠唱の爆裂魔法を使えるあの娘は、十分にあの学校にいる資格があるだろう"と」
「……ボルトラン様が……」
「それだけではない。"魔法大会の優勝者を退学にするのは、学園に見る目がなかったと喧伝するようなものだ"とも。——学園側も、それには頷くしかなかったようだな」
ピリカは黙って聞いていた。手が、小さく震えていた。
「そして、ボルトラン様、グリモワルド様、宮廷魔法使いの首席と次席が連名で、退学に反対したそうだ」
「……お師匠様、も……?」
ピリカの声が掠れた。
「ああ。——お前は、もう学園に戻れる。もっとも、戻るかどうかはお前が決めることだが」
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食卓が、静かになった。
ピリカはスプーンを置いて、膝の上で拳を握った。
——退学が、取り消し。
——あの日、「不合格」と言い渡されて、訓練場を出た。振り返らなかった。誰にも見られないように、壁に手をついて、泣くのをこらえた。
——それが、なくなった。
「……ファイアボールは、まだ撃てないんですけどね」
ピリカは少し笑った。目尻に、光るものがあった。
「撃てずとも、お前はもう十二分に証明した」
父が、静かに言った。
「……ありがとうございます。ボルトラン様と、お師匠様にも。お礼を言わないと」
母がピリカの肩にそっと手を置いた。アーサーは黙って、パンをちぎっていた。——目元が、少し赤かった。
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ひとしきり話した。
魔法大会のこと。グリモワルド様の家での暮らしのこと。アリサという妹弟子ができたこと。魔術というものの面白さ。訓練の日々。
話は尽きなかった。何年分もの空白を埋めるように、ピリカは話し、家族は聞いた。
⸻
「そういえば」
母がふと、フォークを止めた。
「ピリカ、この家には帰ってくるの?」
食卓が、一瞬だけ静かになった。
ピリカは父を見た。父もピリカを見た。目が合った。
「——やめておいた方がいいだろう」
「——やめておいた方がいいと思う」
同時だった。
母が目を丸くした。アーサーもフォークを止めた。
父がピリカに目で促した。——お前から話せ、という顔だった。
「一応この間、計測もしたんだけど……私の魔力量が増えて勝ったわけじゃないの。戻ってきても、結局迷惑をかけることになる」
「同様の理由で、貴族の中にいてはピリカの幸せにも繋がらんだろう」
父が静かに続けた。
「やっぱりそうかぁ……」
母の声が、少しだけ小さくなった。
「寂しいわね」
「それでもたまには来るだろ?」
アーサーがピリカを見た。
「それはもちろん!」
ピリカが即答した。迷いなく、はっきりと。
母の顔がぱっと明るくなった。
「本当に? いつでも?」
「いつでも!」
「まぁ! じゃあ次はいつ来るの? 来週? 再来週?」
「お、お母様、まだ今日も終わってないですけど……」
「そんなの関係ないわよ! ね、次の予定は——」
父が小さくため息をついた。でも、口元が緩んでいた。
昨日のお願いで、takeruさんに10評価、トイレンさん、ルルシシさん、二次元さん、生成り色さん、金属の水瓶と羊さんに高評価いただきました!!!
そしてお気に入り900件突破です!
ありがたすぎます!!!!( ; ; )
頑張って面白い物語をちゃんと書いて進めていきますー!