魔法の才能ゼロの令嬢に最強ジジイが科学を教えたら?→A.めっちゃ無双する:【才無し侯爵令嬢と魔法ジジイの科学革命】   作:Koh_novel

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第53話 お土産

 食事が終わり、居間に移った。

 

 暖炉に火が入っていた。柔らかい光が部屋を満たしている。母がソファに座り、父が肘掛け椅子に腰を下ろした。アーサーは暖炉の前に立って、火を弄っている。

 

 ピリカはソファの端に座った。——この居間も、昔と変わっていなかった。

 

「あ、そういえば」

 

 ピリカが鞄に手を伸ばした。

 

「お土産、持ってきたんだった。お母様に」

 

 布包みを開いた。ドライヤーとシャンプーの瓶が出てきた。

 

「これ、お師匠様が作った魔道具で。ここを握って、このスイッチを押すと——」

 

 ピリカがドライヤーを持ち上げて、スイッチを押した。ぶぅん、と温かい風が出た。

 

「こうやって、髪を乾かしたり、整えたりできるの」

 

「へぇ、そうやって使うのね!」

 

 母が目を輝かせた。ドライヤーを受け取って、くるくると手の中で回した。

 

「はい、ローザ!やってみて!」

 

 振り返りざまに、ローザにドライヤーを渡した。

 

「あ——」

 

 ピリカが声を上げた。

 

「はい、奥様」

 

 ローザが受け取った。スイッチに指をかけて——

 

 カチッ。

 

 ぶぅーーーん。

 

 温かい風が、ローザの手元から吹いた。

 

 ピリカの動きが、止まった。

 

「……あれ」

 

「? 何か使い方がおかしいでしょうか?」

 

 ローザが不思議そうに首を傾げた。ドライヤーは、ローザの手の中で当たり前のように動いていた。

 

 ピリカの頭の中で、何かが弾けた。

 

 ——ローザは平民だ。魔力量は、貴族とは比べものにならないほど少ない。ピリカよりも断然少ないくらいだ。

 

 ——それなのに、動いている。

 

 ——普通の魔道具は、攻撃魔法の代わりだ。ファイアボールを撃つ杖、氷の槍を飛ばす杖。戦いのための道具で、使う人にも相応の魔力が要る。

 

 ——温かい風を出すだけの魔道具なんて、見たことがない。こんな小さな魔法を、わざわざ道具に落とし込んだ人なんて、たぶん、お師匠様が初めてだ。

 

 ——小さな魔法だから、こんなにわずかな魔力で動かせるんだ。私でも——それこそローザでも。

 

 視線がドライヤーからローザへ動いた。そして窓の外へ。

 

 ——これ、ローザだけじゃない。

 

 ——きっと、誰でも使えるんじゃ……

 

 

「なにこれ! すごい!!」

 

 母の歓声で、ピリカは我に返った。

 

 ローザが母の髪にドライヤーを当てている。温風で毛先がふわりと持ち上がった。母は鏡を見ながら、目をきらきらさせていた。

 

「ちょっと、これ、巻けるんじゃない? パーティの時にいつも専門の魔法使いにお願いしてたやつ、これでできちゃわない!? ローザ! 今やって!!」

 

「はい、奥様。コテをお持ちしますね」

 

 母がローザの腕を引いて、居間を出ていった。扉の向こうから「こっちよこっち、鏡のある部屋で!」という声が聞こえた。

 

 残された三人が顔を見合わせた。

 

「……すごい勢いで行っちゃったね」

 

「母様は昔からああだ」

 

 アーサーが苦笑した。父は何も言わなかったが、口元が緩んでいた。

 

 

 十分後。

 

 居間の扉が開いた。

 

「じゃーん!」

 

 母が両手を広げて、得意げに入ってきた。髪型が変わっていた。普段と違う巻き方で、柔らかいウェーブがかかっている。後ろからローザが控えめについてきた。

 

「あなた、どう?」

 

 母が父を見た。

 

 父は——ぼうっと見惚れていた。完全に固まっている。

 

「あら、何も言ってくれないの?」

 

 母がにやにやしている。

 

「……き、綺麗だ」

 

「あら。いつもは綺麗じゃないってこと?」

 

「い、いつも綺麗だが、その髪型も新鮮で……とても、良い」

 

「あらあら。とっても褒められちゃったわ」

 

 母がご機嫌で髪を撫でた。父は耳の先まで赤くなって、グラスに口をつけた。中身がもう空なのにも気づいていなかった。

 

 

 食卓の端で、兄と妹がこそこそ話していた。

 

「お父様、本当にお母様のこと好きだよな」

 

「……私、知らなかったかも」

 

「え、まじかよ。なんで」

 

「なんか、今までお父様のことを、無口で、強くてちょっと怖い当主様、みたいに見ていた気がする」

 

 アーサーが呆れたように笑った。

 

「あの人、ずっとあんな感じだぞ? 今日もあったけどさ、口下手で、母様のことを溺愛してて、ちゃんと家族のことが好きで——っていう」

 

「……そうなのかも、しれないね」

 

 ピリカは微笑んだ。

 

 食卓の向こうで、母がまだ父をからかっている。父は困った顔をしているのに、嬉しそうだった。ローザが後ろで静かに微笑んでいた。

 

 ——知らなかった。うちって、こんなに温かかったんだ。

 




zeruさんに10評価、pluto43さん、金属の水瓶と羊さんに高評価いただきました!!
(金属の水瓶と羊さん、毎日高評価いただいてありがとうございますm(_ _)m!
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