魔法の才能ゼロの令嬢に最強ジジイが科学を教えたら?→A.めっちゃ無双する:【才無し侯爵令嬢と魔法ジジイの科学革命】 作:Koh_novel
夜遅く。馬車が一台、グリモワルドの家の前に止まった。
扉が開いて、ピリカが降りた。目の周りが真っ赤だった。鼻も赤い。泣き腫らした顔が、隠しようもなかった。
——でも、表情はすっきりしていた。憑き物が落ちたような、軽い顔をしていた。
続いて、フレデリックが降りた。
「ピリカを当家に来させるのがずいぶん遅くなりましたね」
玄関の明かりがついた。扉が開いて、グリモワルドが顔を出した。
「ふん、わしのせいじゃないわ。あんな簡単なこともすぐ決められん、学園のやつらに言え」
フレデリックが一瞬、目を見開いた。——それから、小さく笑った。
「……仰る通りですな」
「お師匠様!」
ピリカがじとっとした目でグリモワルドを見た。——お父様に向かって、その言い方。
「グリモワルド様」
フレデリックが一歩前に出て、軽く頭を下げた。
「改めて。娘がお世話になっております。これからも、どうかピリカをよろしくお願いいたします」
「任せておけ」
「それと、本日は——妻も大層喜んでおりました。あの魔道具には、驚きました。魔道具といえば攻撃魔法と思っていたんですが、あのようなものは初めてです」
「かっかっか。そうじゃろう、そうじゃろう。一緒に持たせたシャンプーも使うとな、髪がツヤッツヤになるぞ」
「それは……妻が聞いたら大変なことになりそうですな」
フレデリックは小さく微笑んで、馬車に戻った。
馬車が走り去るのを、ピリカは見送った。それから、家の中に入った。
⸻
「それで、どうじゃった?」
グリモワルドは椅子に座って、コーヒーカップを傾けた。いつも通りだった。
「その前にお師匠様」
ピリカが鞄を下ろした。
「一発、お殴りさせてくださいませんか」
「ええぞ」
グリモワルドがあっさり頬を差し出した。
⸻
ピリカは手袋を嵌めた。
メリケンサックを装着した。
メリケンサックに、バチバチと雷が帯電した。
グリモワルドは頬を差し出したまま、にやにやしていた。
——思いっきり、振りかぶった。
ガンッッ。
拳が止まった。頬の数ミリ手前で、見えない壁にぶつかった。
「……は?」
「圧縮した空気の壁じゃ。まぁまぁ硬いじゃろ」
「そんな話はしてないんですよ!!!」
もう一発。ガンッ。止まる。
もう一発。ガンッ。止まる。
右。左。右。右。左。全部止まる。角度を変えても、速度を変えても、フェイントを入れても、全部同じ場所で止まる。
「く、くっそ……全く届かない……」
「かっかっか! 貴族のご令嬢が、口調が崩れておるぞ」
「もう! 貴族じゃ! ないです!!!!!」
「ほう?」
渾身の一発を叩き込んだ。帯電したメリケンサックが空気の壁にぶつかって、バチッと火花が散った。
——びくともしなかった。
⸻
「はぁ……はぁ……」
ピリカは肩で息をしていた。メリケンサックを外して、手袋を脱いだ。
「それで。一応聞くが、和解はできたのか?」
グリモワルドが、何事もなかったかのように聞いた。頬を差し出したままの姿勢を戻して、コーヒーをすすっている。
「……はい」
ピリカは息を整えながら答えた。
「結果的に勘当は継続ですが、このまま——家族として関わっていくことになりそうです」
「それはよい! 貴族なんてなっても、いいことはないわ」
グリモワルドはカップを置いた。
⸻
「それと、お師匠様」
ピリカが、少し改まった声で言った。
「お師匠様が——退学に反対してくださったんですか?」
「……?」
グリモワルドが、きょとんとした顔をした。本当に、何のことかわからないという顔だった。
「お父様から聞きました。ボルトラン様と、お師匠様と、宮廷魔法使いの主席と次席が連名で、学園に退学撤回を申し入れたって」
「おお!」
グリモワルドが手を打った。
「あやつにわしの名前を使っていいか聞かれたのう! ええぞと言ったわ」
「……そ、そんなことだと思った」
ピリカは脱力した。——連名で反対した、と聞いた時の感動を返してほしい。
「というか、中身も聞いてなかったんですか?」
「聞いたかもしれんし、聞いてないかもしれん。覚えておらんわ」
「ひどい……」
「まぁ、当たり前のことじゃからな」
グリモワルドがコーヒーをすすった。
「お前を退学にする理由がないじゃろう。ファイアボールが撃てんからといって、魔法が使えんわけではない。——あんな試験、くだらんわ」
グリモワルドが、少しだけ遠い目をした。
「それと、あやつが動いたのは、もう一つ理由がある」
「……?」
「アリサじゃよ」
ピリカが目を丸くした。
「あやつの孫であるアリサが、お前と仲良くしておるじゃろう。——お前が退学になれば、せっかくできた友人がおらんくなる。あやつはそれを嫌ったんじゃ」
「……アリサのため、ですか」
「表向きは正論を言っておるだろうがな。"試験の趣旨に照らせば"とか、"学園の信用に関わる"とか。——じゃが、本音はそこじゃよ。孫の友人を守りたかっただけじゃ」
グリモワルドは、少しだけ懐かしそうな顔をした。
「昔からクソ真面目で、身内には甘いやつじゃ」
その声は、悪口のようでいて、どこか温かかった。
⸻
しばらく、沈黙が流れた。ピリカの荒い息と、グリモワルドがコーヒーを飲む音だけが響く。
「家族、仲良くな」
ぽつりと、グリモワルドが言った。
「……? はい。これからも仲良くやれると思います」
「よいことじゃ」
グリモワルドはそれだけ言って、コーヒーに口をつけた。いつもの、何でもない顔だった。
でも、数ヶ月一緒に過ごしたピリカには少しだけわかった。
たぶん、今まで見た中で一番機嫌がいい。それこそ⸻魔法大会で優勝した時よりも。
⸻
「さて」
グリモワルドがカップを置いた。
「ひとまず魔法大会優勝はした。家族との件も解決した。——これで
——お試し期間。
そういえば、弟子入りした日にそんなことを言われた。『ま、いくあてもないんじゃろ。最初のお試し期間ということで』——その流れで、『世代一位を目指して魔法大会で優勝』なんて言われて、正気を疑ったのだった。
「はい。……それで、終了すると、どうなるんですか?」
「うむ」
妙に、もったいぶった間だった。
「お主——
「…………え?」
「食費、家賃、雑費。自分で使う費用くらいは自分で稼いでこい」
「か、稼ぐって……!」
「猶予は半年じゃ」
「半年ぃ!?!?」
はい!これで第2章が完結です!
「アリサの弟子入り」「魔法と魔術」「グリモワルドの強さ」、そして「家族との和解」とだいぶ詰め込まれていた章でしたねぇ、、、。
次話から、いよいよ「魔術の始祖」「魔道具の母」となっていくストーリーが始まります!(すでに伏線はいっぱい仕込んでるけどね!( ̄▽ ̄)
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メアリー・スーの怪物さん、piroboさん、WARNING!さん、蜜木 甘さん、natuさん、こんぺいさんに高評価いただきました!
ありがとうございます( ; ; )
そしてお気に入りが1000人越えましたー!すごい!なんか急に増えました!
ありがたい、、、!
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明日以降も毎日更新(すでに25日連続!)を続けていくので引き続き、よろしくお願いしますm(_ _)m