魔法の才能ゼロの令嬢に最強ジジイが科学を教えたら?→A.めっちゃ無双する:【才無し侯爵令嬢と魔法ジジイの科学革命】   作:Koh_novel

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第56話 Fランク冒険者ピリカ

 翌日の朝。

 

「お金、稼ぎます! 冒険者登録、いってきます!」

 

 ピリカは玄関で、ぐっと拳を握った。鞄には手袋とメリケンサック。準備は万全だった。

 

 ——冒険者。

 

 物語で読んだことがある。ギルドの壁いっぱいに貼られた依頼書。魔物を狩って、報酬をもらって、少しずつ強く、有名になっていく。

 

 ……なにそれ。ちょっと、楽しみかもしれない。

 

「やる気満々じゃの……。いってらっしゃい」

 

 グリモワルドはコーヒーをすすりながら、ひらひらと手を振った。

 

 

 王都、冒険者ギルド。

 

 ピリカは受付で登録用紙を受け取った。名前、年齢、それから——職業欄。

 

 少しだけ迷って、それから誇りを込めて書いた。

 

 『魔法使い』

 

「魔法使いの方ですね。では、魔力測定をお願いします」

 

「……はい?」

 

「……? どうかされました? 魔法使いの方は、まず魔力測定をして、規定量の魔力を確認できましたら教官が実技を拝見して——それで暫定のランクが決まります。皆さんそうですよ。……ご存じありませんでした?」

 

 ——魔力測定。

 

 その四文字に、嫌な思い出しかないピリカだった。

 

 恐る恐る、水晶に手を置いた。

 

 ……ぽんやり。

 

 水晶の中で、米粒ほどの光が、ふよふよと揺れた。

 

「…………」

 

「…………」

 

 受付のお姉さんが、とても優しい顔になった。

 

 ——あれは知っている。学園の先生たちが私を見るときの顔だ。

 

「これは——Fランク、ですね」

 

「ま、待ってください! 私、戦う手段はあるんです! これ!」

 

 ピリカは鞄からメリケンサックを取り出して、どんと受付台に置いた。

 

「……?」

 

 受付のお姉さんが固まった。隣の列の屈強な冒険者たちも、覗き込んでくる。

 

「なんだそれ」

 

「武器……か?」

 

「嬢ちゃん、その華奢な身体で殴り合いは流石に無理があるぞ……?」

 

「ち、違くて! いえ違わないんですけど! これに雷を纏わせて——」

 

「おう、そうかそうか。雷か。そりゃすごい」

 

「夢があっていいなあ。嬢ちゃん、魔物は危ねぇぞ、絶対一人で行くなよ。無茶はすんなよ」

 

 冒険者たちは、ふっと目元をゆるめて、自分の列に戻っていった。

 

 ——生暖かい。

 

 あの目は知っている。背伸びをする子供を見守る、大人の目だ。

 

「ち、違うんです! ほんとに大会でこれで優勝——あ、同率優勝して……!」

 

「ふふ、元気があっていいですね。——Fランクの方が受けられる依頼は、こちらになります」

 

 話は流された。示された壁の端っこには、ひかえめな張り紙が並んでいた。

 

 雑草抜き。どぶさらい。宴会の給仕係。迷い犬探し。

 

「…………」

 

 魔物の『ま』の字もなかった。

 

 

 数時間後。

 

 扉の音に、グリモワルドが顔を上げた。

 

「おお、思ったより早かったのう。もう登録して討伐まで終わ——」

 

 とぼとぼと、ピリカが入ってきた。

 

「——いや、なんじゃその顔は。えらく元気がないのう。どうした」

 

「……Fランクでした」

 

「ほう」

 

「職業欄に『魔法使い』って書いたら、魔力測定されてしまい……」

 

「かっかっか! それはお主が悪いわ!」

 

「ですよねええええ!」

 

 ピリカはテーブルに突っ伏した。

 

「かっかっか……。——ん? ところで、Fランクってなんじゃ?」

 

「…………」

 

 ピリカは突っ伏したまま、ゆっくり顔だけ上げた。

 

「……ランク、ご存じないんですか。冒険者の。FからSまである……」

 

「わしが知るわけなかろう」

 

 それもそうだった。この人は冒険者に世話になる側ではなく、国に直接呼ばれる側だ。むしろ呼ばれても行かない側だ。

 

「一番下です。『子供ができるお手伝い程度はできます』っていう認定です。受けられる依頼は、雑草抜きとか、どぶさらいとか、給仕係とか……」

 

「ほうほう」

 

「魔物討伐なんて影も形もないです。せめてもと思ってメリケンサックを見せたら、受付の人にも周りの冒険者にも『何それ?』って顔されるし……。大会ではあんなに活躍したのに……」

 

「わっはっは! そりゃ知らんじゃろうなあ!」

 

「笑いごとじゃないんですよ!」

 

 グリモワルドはひとしきり笑ってから、ふと真顔になった。

 

「ちなみに、じゃ。その雑用とやらをこなしておると、ランクは上がっていくのか?」

 

「いえ、特には。……昇格には試験があって、普段の仕事とはまた別です。1000回草むしりしても、魔物と戦えるようにはならないので」

 

「たしかに! 言われてみればそりゃそうじゃな!!」

 

「だから笑いごとじゃないんですってば! これで『魔物を狩って稼ぐ』が完全に消えたんですから!」

 

 

「ふむ」

 

 グリモワルドはコップを置いた。

 

「ま、よいではないか。稼ぎ方など、別に魔物狩りだけではないわ」

 

「そうは言いますけど……。雑草抜きの報酬じゃ、家賃どころか、その日のパン代もおぼつかないですよ」

 

「ほう、世知辛いのう」

 

「誰のせいでこうなったと——いえ、私の魔力のせいでした……」

 

 ピリカは再びテーブルに突っ伏して、うめいた。

 

 ——魔物狩りは、だめ。Fランクの依頼じゃ、稼ぎが全然足りない。

 

 じゃあ私は、いったい何で稼げばいいんだろう。

 

 (半年……半年かぁ……)

 

「ま、焦るでないわ。猶予はまだたっぷりある」

 

 グリモワルドは、のんびりとコーヒーをすすった。

 

「それに、明日はアリサも来る日じゃろう。そんな湿気た顔をしておると、心配されるぞ」

 

「……はっ! それはだめです。切り替えます」

 

 ピリカは、がばっと顔を上げた。

 

 ——切り替えは早い方なのだ。落第にも勘当にも負けなかった私が、Fランクくらいでへこたれてどうする。

 

 稼ぎ方は、明日からゆっくり考えよう。

 

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