魔法の才能ゼロの令嬢に最強ジジイが科学を教えたら?→A.めっちゃ無双する:【才無し侯爵令嬢と魔法ジジイの科学革命】 作:Koh_novel
翌日の昼下がりのこと。
居間のテーブルに、三つのコップが並んでいた。グリモワルドはいつもの椅子に深く沈み、ピリカとアリサは向かいに並んで座っている。
ふと、アリサがコップを置いた。
「あの、お師匠様。前から気になっていたことがあるのですが」
「なんじゃ」
「お師匠様は——正直、お祖父様より強いですし、魔法も遥かにお上手ですよね?」
「そうじゃな」
即答だった。謙遜のけの字もない。
「で、では、なぜお祖父様が主席で、お師匠様が次席なのでしょうか?」
グリモワルドはコーヒーを一口啜った。
——主席と次席、か。
少しだけ、遠い目をした。
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数十年前。宮廷の一室。
扉が、勢いよく開いた。
「先生! なぜ私を主席に、グリモワルドを次席にしたんですか!」
ボルトランだった。若い。髪は黒く、背筋は今と同じくまっすぐで、顔だけが真っ赤だった。
「実力で考えたら、どう考えても逆でしょう!」
部屋の奥。長机に頬杖をついた美女が、気だるげに顔を上げた。
金色の長い髪が、机の上に流れている。歳は——わからない。二十代にも、四十代にも見える。宮廷魔法使い主席。二人の先生。
「ボルトー。逆になんでだと思う〜?」
先生はあくび混じりに言って、部屋の隅へ目をやった。
「あ、グリモ、コーヒー淹れて。3人分」
「ほい」
壁際の椅子に転がっていたグリモワルドが、寝そべったまま指先を動かした。棚から豆が浮き上がり、空中で赤く光り始める。
ボルトランは、こめかみを押さえた。
「……お前も! なにか思うところはないのか! 主席の座を俺に取られてるんだぞ!」
「え、とくに……。というか次席も面倒そうでいらないんだが」
「……!?」
「ほらね〜」
先生が、頬杖のまま笑った。
「この怠惰さ。次席でもギリギリだよ。——ボルトはさー、主席に求められることって何か分かる? いや、本来は次席もなんだけど」
ボルトランは姿勢を正した。
「……宮廷魔法使いの代表としての顔。後進の育成、教育。新たな魔法の開発。国の戦力の要としての役割——などでしょうか」
「さすがー、よくわかってる」
先生は、ひらひらと手を振った。
「そんでさ、こいつに"顔"なんてやらせてみなよ。最悪、その日のうちに辞めてどっか他の国に逃げて、悠々自適に暮らしてるよ」
「まぁ、それも悪くないかもしれん」
コーヒーを淹れながら、グリモワルドが本気の声で言った。ボルトランの額に青筋が浮かんだ。
「な? だからボルト、お前なんだよ。——というか、グリモという例外を除いたら、お前が完全に魔法力一位じゃないか。もう私とも遜色ないだろう? ほんとに何が不満なんだ」
「グリモワルドがいるなら、私は一位ではなく————」
「そのクソ真面目な感じ、さっきの責務をこなせそうな感じはするのう」
「ねー。グリモもそう思うよね」
先生はくすくす笑って、それから——ふと、何でもない調子で付け加えた。
「それにグリモはさー、たまに変なこと言うだろ? 誰も考えたことないようなさ。私はあれがもっと見たいんだよね」
「……は? 変なこと、ですか?」
「んー、こっちの話」
先生は頬杖を崩さないまま、窓の外へ目をやった。
「二人を見てるとほんと思うよ。私なんかが主席に座ってるのは勿体無いってね」
「先生——」
「と、いうわけで!」
先生が、ぱん、と机を叩いて身を起こした。
「来年からは——」
ボルトランを、ゆるく指差した。
「ボルトが主席」
次に、壁際でコーヒーを淹れているグリモワルドへ、同じ指をすいっと向けた。
「で、グリモは次席。そんな感じにもう調整してるから。ボルトは全体的に頑張れ。グリモは、強い魔物とか戦争とか——ボルトがほんとに大変そうなときはさ、助けてあげてよ」
「全体的ってなんですか!?」
「仕方ないのう」
「お前も、仕方ないってなんだよ! というか——来年から!? 20代のうちに主席魔法使いに就任なんて、聞いたことありませんよ!?」
「優秀な2人組がいるからね」
先生は、出来上がったコーヒーを受け取って、満足そうに一口飲んだ。
「早く地位を与えて、早く成長して、早く活躍してもらって——で、私に楽をさせておくれ〜」
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「お師匠様?」
ピリカの声で、グリモワルドは目を上げた。二人がこちらを見ていた。
「ふむ」
グリモワルドはコップを置いた。
「ピリカ、当ててみよ。わしが次席な理由」
「え、私ですか」
ピリカは、きょとんとした。それから、じっとりした目になった。
「……お師匠様、絶対、主席について回るあれこれをめんどくさがっただけでしょ。代表の挨拶とか、後進の育成とか。むしろ、よく次席なんてやってるなって……」
「かっかっか! さすが、よくわかっておるのう!!」
隣で、アリサがぽかんと口を開けた。
「そ、そんな理由……」
「さて」
グリモワルドが立ち上がった。
「今日も庭で訓練とするか」