魔法の才能ゼロの令嬢に最強ジジイが科学を教えたら?→A.めっちゃ無双する:【才無し侯爵令嬢と魔法ジジイの科学革命】   作:Koh_novel

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第57話 主席と次席

 翌日の昼下がりのこと。

 

 居間のテーブルに、三つのコップが並んでいた。グリモワルドはいつもの椅子に深く沈み、ピリカとアリサは向かいに並んで座っている。

 

 ふと、アリサがコップを置いた。

 

「あの、お師匠様。前から気になっていたことがあるのですが」

 

「なんじゃ」

 

「お師匠様は——正直、お祖父様より強いですし、魔法も遥かにお上手ですよね?」

 

「そうじゃな」

 

 即答だった。謙遜のけの字もない。

 

「で、では、なぜお祖父様が主席で、お師匠様が次席なのでしょうか?」

 

 グリモワルドはコーヒーを一口啜った。

 

 ——主席と次席、か。

 

 少しだけ、遠い目をした。

 

⸻⸻

⸻⸻

 

 数十年前。宮廷の一室。

 

 扉が、勢いよく開いた。

 

「先生! なぜ私を主席に、グリモワルドを次席にしたんですか!」

 

 ボルトランだった。若い。髪は黒く、背筋は今と同じくまっすぐで、顔だけが真っ赤だった。

 

「実力で考えたら、どう考えても逆でしょう!」

 

 部屋の奥。長机に頬杖をついた美女が、気だるげに顔を上げた。

 

 金色の長い髪が、机の上に流れている。歳は——わからない。二十代にも、四十代にも見える。宮廷魔法使い主席。二人の先生。

 

「ボルトー。逆になんでだと思う〜?」

 

 先生はあくび混じりに言って、部屋の隅へ目をやった。

 

「あ、グリモ、コーヒー淹れて。3人分」

 

「ほい」

 

 壁際の椅子に転がっていたグリモワルドが、寝そべったまま指先を動かした。棚から豆が浮き上がり、空中で赤く光り始める。

 

 ボルトランは、こめかみを押さえた。

 

「……お前も! なにか思うところはないのか! 主席の座を俺に取られてるんだぞ!」

 

「え、とくに……。というか次席も面倒そうでいらないんだが」

 

「……!?」

 

「ほらね〜」

 

 先生が、頬杖のまま笑った。

 

「この怠惰さ。次席でもギリギリだよ。——ボルトはさー、主席に求められることって何か分かる? いや、本来は次席もなんだけど」

 

 ボルトランは姿勢を正した。

 

「……宮廷魔法使いの代表としての顔。後進の育成、教育。新たな魔法の開発。国の戦力の要としての役割——などでしょうか」

 

「さすがー、よくわかってる」

 

 先生は、ひらひらと手を振った。

 

「そんでさ、こいつに"顔"なんてやらせてみなよ。最悪、その日のうちに辞めてどっか他の国に逃げて、悠々自適に暮らしてるよ」

 

「まぁ、それも悪くないかもしれん」

 

 コーヒーを淹れながら、グリモワルドが本気の声で言った。ボルトランの額に青筋が浮かんだ。

 

「な? だからボルト、お前なんだよ。——というか、グリモという例外を除いたら、お前が完全に魔法力一位じゃないか。もう私とも遜色ないだろう? ほんとに何が不満なんだ」

 

「グリモワルドがいるなら、私は一位ではなく————」

 

「そのクソ真面目な感じ、さっきの責務をこなせそうな感じはするのう」

 

「ねー。グリモもそう思うよね」

 

 先生はくすくす笑って、それから——ふと、何でもない調子で付け加えた。

 

「それにグリモはさー、たまに変なこと言うだろ? 誰も考えたことないようなさ。私はあれがもっと見たいんだよね」

 

「……は? 変なこと、ですか?」

 

「んー、こっちの話」

 

 先生は頬杖を崩さないまま、窓の外へ目をやった。

 

「二人を見てるとほんと思うよ。私なんかが主席に座ってるのは勿体無いってね」

 

「先生——」

 

「と、いうわけで!」

 

 先生が、ぱん、と机を叩いて身を起こした。

 

「来年からは——」

 

 ボルトランを、ゆるく指差した。

 

「ボルトが主席」

 

 次に、壁際でコーヒーを淹れているグリモワルドへ、同じ指をすいっと向けた。

 

「で、グリモは次席。そんな感じにもう調整してるから。ボルトは全体的に頑張れ。グリモは、強い魔物とか戦争とか——ボルトがほんとに大変そうなときはさ、助けてあげてよ」

 

「全体的ってなんですか!?」

 

「仕方ないのう」

 

「お前も、仕方ないってなんだよ! というか——来年から!? 20代のうちに主席魔法使いに就任なんて、聞いたことありませんよ!?」

 

「優秀な2人組がいるからね」

 

 先生は、出来上がったコーヒーを受け取って、満足そうに一口飲んだ。

 

「早く地位を与えて、早く成長して、早く活躍してもらって——で、私に楽をさせておくれ〜」

 

⸻⸻

⸻⸻

 

「お師匠様?」

 

 ピリカの声で、グリモワルドは目を上げた。二人がこちらを見ていた。

 

「ふむ」

 

 グリモワルドはコップを置いた。

 

「ピリカ、当ててみよ。わしが次席な理由」

 

「え、私ですか」

 

 ピリカは、きょとんとした。それから、じっとりした目になった。

 

「……お師匠様、絶対、主席について回るあれこれをめんどくさがっただけでしょ。代表の挨拶とか、後進の育成とか。むしろ、よく次席なんてやってるなって……」

 

「かっかっか! さすが、よくわかっておるのう!!」

 

 隣で、アリサがぽかんと口を開けた。

 

「そ、そんな理由……」

 

「さて」

 

 グリモワルドが立ち上がった。

 

「今日も庭で訓練とするか」

 

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