魔法の才能ゼロの令嬢に最強ジジイが科学を教えたら?→A.めっちゃ無双する:【才無し侯爵令嬢と魔法ジジイの科学革命】   作:Koh_novel

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第58話 小さな火の鳥、青い鳥、それと大きな花火を一つ

 庭に出た。

 

 少し雲がかかった過ごしやすい昼下がりだった。グリモワルドが指先をくいっと動かすと、庭の地面がずずっと盛り上がり、肘掛けつきの石の椅子になった。そこに深く沈み込み、コーヒー片手に見物の構えである。

 

 ——家具って、生やすものなんだろうか。

 

「ほれ、好きにやってみい」

 

 ピリカとアリサは、並んで庭の真ん中に立った。いつもの訓練——なのだけれど。

 

 ピリカは最近、はっきりと自覚していることがある。

 

 ——アリサ、もうすでに、ほぼ全部私より上なんだよなぁ。。。

 

 真空の生成も、維持も、精度も。電気の強さも。発動の速さも。私が先にやっていたはずの魔術ぜんぶ、後から始めたアリサの方が上手い。

 

 そして極めつけは——この応用力。

 

 

「あの——今日は、見ていただきたいものがあるんです。家で、ずっと練習してきて……」

 

 アリサが、少し緊張した顔で一歩前に出た。胸の前で両手を組んで、ほどいて——すうっと息を吸う。

 

「——紅蓮の炎よ、我が手に集え。燃え盛りて——」

 

 初級魔法、ファイアボールの詠唱。だがアリサは「球となれ」を言わなかった。代わりに、続けた。

 

「——小さく。炎の化身の小鳥の姿に」

 

 ぽ、と。

 

 アリサの掌の上に、小さな火が灯った。

 

 手のひらに乗るほどの、小さな炎。それが、ゆらり、とかたちを変えた。翼が伸びる。尾が伸びる。——手乗りの火の鳥が、一羽、アリサの掌の上に立っていた。

 

 ——まるで、あの時のミニフェニックスだ。

 

 ピリカが、息を呑んだ。

 

 お師匠様が遊びで見せてくれた、手のひらサイズのフェニックス。あれを——アリサが、自分の魔法で再現している。

 

「ほう」

 

 お師匠様が感心したようにみている。

 

 小さな翼がゆらゆらと揺れるたび、掌の上で、ちりちりと火の粉が散る。アリサの手が、ほんのり赤く照らされていた。

 

「かわいい……」

 

 ピリカは、思わず呟いていた。

 

 

「——飛んで」

 

 アリサが囁いた。

 

 火の鳥が、掌から飛び立った。

 

 小さな翼をはためかせて、庭の上をくるくると飛んでいく。生け垣の上をすれすれに掠める。煙突のてっぺんに止まって、ちょこんと首をかしげて、また飛び立つ。

 

 ——と。

 

 ぽ。ぽぽ。ぽぽぽ。

 

 火の鳥が、増えた。

 

 一羽だったのが、二羽、四羽、八羽——気づけば庭の上空に、二十あまりの小さな火の鳥が、ばらばらに飛び回っていた。

 

「え……!?」

 

 一羽一羽が勝手気ままに飛んでいる。屋根の上を旋回するもの、生け垣のあいだを縫うもの、互いに追いかけっこをするもの。まるで火でできた小鳥の群れが庭に遊びに来たみたいだった。

 

 ピリカは口を開けたまま見上げていた。二十羽を一羽ずつ、全部同時に操っている。私なんて少しの真空で精一杯なのに。しかもアリサはそれを実に楽しそうに——"遊び"でやっている。

 

 ——と。

 

 アリサが、もう一度、詠唱した。今度は小さく、短く。

 

「深き深き、青の炎の化身の小鳥よ」

 

 ぽ、ぽ。

 

 二羽の鳥が、新しく生まれた。——青い鳥だった。

 

 橙色の群れの中に、二つだけ、冷たいような、鮮烈な青い炎。ほかの鳥たちよりひとまわり小さいのに、ひときわ目を引いた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 不意に、群れの動きが変わった。

 

 ばらばらに飛んでいた火の鳥たちが、一羽、また一羽と、空の一点に吸い込まれていく。渦を巻くように集まって、溶け合って——

 

 翼が広がった。

 

 巨大な、フェニックスだった。

 

 橙色の小さな炎が寄り集まって、一羽の大きな火の鳥になっていた。翼を広げれば家の屋根ほどもある。長い尾が、空に橙色の軌跡を引く。

 

 ——そして、その頭に。二つの青い炎が、瞳のように光っていた。

 

「…………」

 

 ピリカは、声も出なかった。

 

 巨大なフェニックスが、翼をひと打ちした。——空へ。

 

 ぐんぐん昇っていく。屋根より高く。木の梢より高く。雲に向かって、まっすぐに。

 

 橙色が、どんどん小さくなっていく。豆粒ほどになって——

 

「——見ていてください」

 

 隣で、アリサが静かに言った。

 

 

 ——どォン!!!

 

 空が、光った。

 

 はるか上空。フェニックスが消えたあたりに、巨大な白い閃光が炸裂した。

 

 遅れて、衝撃波が降ってきた。ごう、と風が庭を叩いて、ピリカの髪が吹き上がる。

 

「なっ——!?」

 

 ピリカは、目を見開いた。

 

 閃光が広がっていく。白から橙へ、橙から赤へ。空に巨大な火の花が咲いて、ゆっくりと、ゆっくりと散っていく。——昼間の空に、まるで花火のような爆発だった。

 

 薄く広がっていた雲に、まんまるの穴が空いていた。爆発の衝撃で吹き飛ばされたのだ。穴の向こうに、突き抜けるような青空が覗いている。

 

「……水素爆発」

 

 ピリカは、ぽかんとしたまま呟いた。

 

「上空に、水素と酸素を溜めてたの……?」

 

「はい。火の鳥を飛ばしながら——こっそり」

 

 アリサが、ちょっとだけ照れたように笑った。

 

「フェニックスを飛ばしたのは、着火のためだったの!?」

 

「着火するだけなら、小さな火でもよかったんですけど……せっかくなら、フェニックスがいいかなって。あとはアドリブで遊んでみました」

 

「アドリブって……」

 

「上空に水素と酸素を溜めておいての水素爆発は——ピリカさんの決勝戦の真似です」

 

「あ、あと……あの青い鳥は?」

 

「お師匠様に、火は熱くなると青くなると教わったでしょう? 前に、酸素をたくさん入れて、思いっきり熱くするイメージで出してみたら……青い炎が出たので、それを鳥型にしてみました」

 

「す……すっごい応用力……」

 

 ——お師匠様から教わった魔術を、理論を、こんなふうにも使えるんだ。

 

 

「かっかっかっか!!」

 

 石の椅子の上で、グリモワルドが膝を叩いていた。コーヒーが揺れて、少しこぼれていたが、気にもしていなかった。

 

「もう改変までやりおるか! しかもフェニックスを着火に使うとは——! 着火なぞ小さな炎でもできるが、フェニックスでやっていかんということもないからの! かっかっか!」

 

 すごく楽しそうだった。

 

「お師匠様のミニフェニックスを見てから、どうしてもアドリブ改変をやってみたくて……。詠唱に条件を付け足すと、意外にちゃんと世界が聞いてくれるものですよね」

 

「魔法とは結果のイメージじゃからの。じゃが、習った詠唱を崩すのを怖がって、大抵のやつは一生やらん。やってみたところで、向いとる奴もあまりおらん。——珍しいの、お主」

 

「そういえば、お祖父様も……アドリブ改変はあまり向いていなかったと仰っていました」

 

「じゃろうの。あやつは習った形や練習した形を完璧に極める方じゃ。——うむうむ。お主は、そういう遊び方でええ」

 

 アリサが、少し照れたようにはにかんだ。

 

 ピリカは、まだ上空にうっすら残る光の余韻を見上げていた。魔法の改変と、魔術の応用、それに水素爆発。複数を組み合わせて、空に鳥を飛ばし、花火を咲かせた。

 ——技術というより、遊び。遊びというより、芸術だ。私じゃ逆立ちしてもできない。

 

 でも不思議と、悔しさはあまりなかった。すごいものを特等席で見られている。そっちの気持ちの方がずっと大きかった。

 

 




ケダマシーさんに高評価いただきました!!(*>∇<)ノ
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