魔法の才能ゼロの令嬢に最強ジジイが科学を教えたら?→A.めっちゃ無双する:【才無し侯爵令嬢と魔法ジジイの科学革命】   作:Koh_novel

58 / 58
第61話 職人ギルドへ

 二週間後。王都。

 

 大通りから一本入った職人街に、その建物はあった。石造りの大きな工房。掲げられた看板には『王都魔道具職人ギルド』とある。

 

 扉をくぐると、金属と油と、焦げた薬品のような匂いがした。

 

 壁一面の棚に、道具がずらりと並んでいる。緻密な紋様の刻まれた杖。銀色に光る金属の円盤。鎖のついたペンダント。

 

「すごい……」

 

「魔道具だ。——魔法の詠唱を、そのまま魔法陣にして刻んである。使い手が魔力を込めれば、刻まれた魔法が、詠唱なしでそのまま出る」

 

 隣でアーサーが、棚を眺めながら言った。

 

「あの杖はファイアボールの連射用。あの円盤は、ウォーターウォールを即座に展開する盾だ。戦場では、詠唱の数秒が命を分けるからな。……もっとも、込める魔力は本来の魔法と同じだけ要る。使えるのは、結局、魔法使いだけだが」

 

「じゃあ、あのペンダントは?」

 

「『身代わり』と呼ばれる守りの魔道具だ。——名前は大層だが、実際は、衝撃をいくらか和らげる程度らしい。それでも戦場では重宝する。うちの領軍も、昔からここの工房の世話になっている。腕は王国一だ」

 

 

「——ベルフォードの若様でしたか。これはこれは」

 

 奥から、髭面の老人が出てきた。腕が丸太みたいに太い。革の前掛けが、あちこち焦げている。

 

 ギルドの親方と呼ばれる、老職人だった。

 

「本日は、妹が世話になる」

 

「ええ、ええ。侯爵様から話は伺っとります。——して、お嬢さん」

 

 親方が、ピリカに目を向けた。丁寧で、にこやかな目だった。

 

 ——あ、これ。

 

 知ってる目だ。子供のお使いを見守る、大人の目だ。冒険者ギルド以来である。きっと「侯爵家のお嬢様のお遊び」くらいに思われている。

 

「今日は、何をお持ちで?」

 

「これです」

 

 ピリカは布包みを解いて、ドライヤーを5台、作業台に並べた。

 

「これを——量産したいんです」

 

 

 親方は、そのうちの一台を手に取って、ためつすがめつ眺めた。

 

「……これは、何をする道具ですかな」

 

「髪を乾かす道具です」

 

「……髪を?」

 

「髪を」

 

 親方の眉が、怪訝そうに寄った。周りで作業していた職人たちも、手を止めずに、ちらちらとこちらを窺っている。

 

「あ、こうやって使います」

 

 ピリカは一台の取っ手を握って、魔力を流した。

 

 こぉぉ、と音がして、吹き出し口から温風が流れ出す。

 

 親方の眉が、ぴくりと動いた。

 

「……ふむ。分解して中を、見ても?」

 

「はいもちろん。そのために持ってきました」

 

 

 親方が工具を手に取った。慣れた手つきで外装が外されていく。

 

 中から——びっしりと刻み込まれた、魔法陣が現れた。

 

 その瞬間。

 

「…………なんだ、こりゃあ」

 

 親方の声が、変わった。

 

「おい、手ぇ止めてちょっと来い! 全員だ!」

 

 工房中の職人が、作業台に群がった。

 

「なんだこの魔法陣、まったく見たことがねぇぞ」

 

「待て待て待て。詠唱を組み込んだ陣とは、根本から考えが違う。……なんだこれは!?」

 

「小さい……。それに、なんだこの魔力消費の少なさは!!」

 

 ひとりの若い職人が、側面の突起に気づいた。

 

「お嬢さん、この回すところは、なんですかい」

 

「あ、温度調整です。こうやって——」

 

 ピリカが温風を出したまま、突起をカチ、カチ、と回してみせる。一段ごとに、風が熱くなっていく。一番熱いところまで回すと、カチッ、と音がして、それ以上は回らなくなった。

 

「回すだけで、温度が変わる……?」

 

「術式を切り替えとるのか? いや、出力そのものを……」

 

「繊細すぎる術式だぞ、これ。なんでこんな制御ができるんだ……!!」

 

 ピリカとアーサーは、人垣の外に押し出されていた。

 

「……ドライヤー、大人気だな」

 

「……だね」

 

 

 しばらくして、親方が顔を上げた。

 

 さっきまでの、にこやかで丁寧な目は、もうどこにもなかった。——職人の目だった。

 

「お嬢さん。わしらはな、何十年も魔道具を作ってきた」

 

 親方は、壁の棚を顎で示した。

 

「ファイアボールを連射する杖。ウォーターウォールを張る円盤。身代わりのペンダント。……どれもこれも、詠唱の"代わり"をする道具だ。魔法使い様が、戦いのために、もっと速く魔法を撃つための道具よ」

 

「…………」

 

「だが、これは違う」

 

 親方は、分解されたドライヤーの魔法陣を、ごつい指でそっと撫でた。

 

「これは——髪を乾かす。ただ、それだけのための道具だ。魔法の代わりじゃねぇ。……暮らしに、魔法を使っとる。こんな発想、この国の誰もしてこなかった」

 

 工房が、しんと静まった。

 

「これを設計したのは、どこの工房だ? 十年——いや、二十年がかりの仕事だぞ」

 

 ピリカは、ちょっとだけ迷った。

 

 ——この人たち、こんなに騒いでるけど……。

 

「あの……これ、うちのお師匠様が、その場でちょちょいっと作ったって言ったら、怒ります?」

 

「…………」

 

「…………」

 

「……ちょちょいっと……?」

 

「ちょちょいっと」

 

 親方は、しばらく目を閉じた。何かに耐えるような顔だった。

 

「……世の中には、たまに化け物がおるもんだ」

 

 

「それで——量産って、できそうですか?」

 

 ピリカが訊くと、親方は腕を組んだ。

 

「……正直に言おう。今すぐには、答えられん」

 

「あ……」

 

「こいつは、わしらの知っとる術式の、どれとも違う。陣の写しを取って、読み解いて、刻印に起こせるかどうか——じっくり調べんことには、できるともできんとも言えんのだ」

 

 親方は、作業台に並んだ5台を、惜しむように見渡した。

 

「こいつら、5台とも、しばらく預からせてもらえるか。1台は分解したまま調べる。1台は動かして測る。比べてみんと、わからんことだらけだ」

 

「はい、もちろんです。そのつもりで、全部持ってきました」

 

「そうだな——2週間後に、またこい。それまでに、詳しく調べておく」

 

「はい! お願いします!」

 

 ピリカは、深く頭を下げた。

 

 

 帰り道。

 

 夕暮れの職人街を、二人で歩いた。工房からはまだ、職人たちの興奮した声が漏れ聞こえてくる。

 

「……あの様子だと、今夜は解析で徹夜だな」

 

 アーサーが苦笑した。それから、隣の妹を見た。

 

「——いい顔をするようになったな、ピリカ」

 

「え? そうかな?」

 

「ああ。……妹が、商売の話で職人の親方に頭を下げる日が来るとはな。人生はわからん」

 

「ふふ。私が一番わけわかってないよ」

 

 ピリカは、茜色の空を見上げた。

 

 魔物は狩れない。冒険者はFランク。魔法の才能も、ない。

 

 ——でも。

 

 (半年以内……なんだか、いける気がしてきた!)

 




一般ニジガク好きさん、金属の水瓶と羊さん、fugashiさんより高評価いただきましたーー!
ありがとうございます(*>∇<)ノ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

ディストピアのネット友達が優秀すぎる(作者:名無しのペロリスト)(オリジナルSF/文芸)

ディストピア世界に転生した、元オタクOLは絶望した。▼飯がクソ不味いだけでなく、前世にあったサブカルチャーが絶滅していたのだ。▼それに都市に貢献しない者を生かしておくほど、アバシリシティは甘くない。▼だからと言って過酷な労働はしたくはないので、せめて身の回りの環境を改善するために仮想空間で色々していると、何故か上級市民のお嬢様がログインしてきて──。


総合評価:4156/評価:8.55/完結:28話/更新日時:2026年06月07日(日) 00:00 小説情報

転生少女が工房を開いたら、有力者たちのたまり場になった(作者:魔術工房)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

 転生者のアリエルは才能に恵まれていたものの、出世に興味がなかった。▼ 学生時代の研究は一部の人間にやたらと評価されていたが、それをひけらかすと嫉妬されて面倒だと考えるのがアリエルだ。▼ あまり人の来ない田舎の故郷で工房を構えることに決めるのは、自然なことだった。▼ しかしどういうわけか、アリエルの工房には常に学生時代に知り合った有力者が各地から集まってくる…


総合評価:4641/評価:8.55/短編:3話/更新日時:2026年05月29日(金) 12:10 小説情報

胡散臭いTS美少女占い師は今日も路地裏で笑う(作者:高丸)(オリジナル現代/日常)

転生したら怪異が存在する世界にいた主人公が趣味で占い師をする話▼【挿絵表示】▼


総合評価:5384/評価:8.27/連載:9話/更新日時:2026年07月01日(水) 22:07 小説情報

ロマン職は異世界から帰りたい(作者:庶民ザウルス三世)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

これが絶対浪漫の力だ!▼人は夢を見る。▼そして、効率よりも自分の“好き”を信じて、浪漫を追いかける者たちがいる。▼ソロ専、人見知り。▼だけど、クリティカルが決まった時の一撃だけは誰よりも重い。▼そんな趣味全開のロマン職キャラを愛した男は、課金帰りの事故をきっかけに、ゲームで使っていた女性キャラ――ラシア・ラ・シーラとして異世界で目を覚ます。▼しかも、レベルも…


総合評価:6054/評価:8.49/連載:140話/更新日時:2026年07月14日(火) 07:14 小説情報

TSして魔法少女になったら頭が可笑しい奴しかいないんだが(作者:つる植物)(オリジナル現代/戦記)

 TS転生した先は魔法少女が異形の魔物と戦う世界だった。▼ 孤児だった俺に魔法少女の適正があったので魔法少女になった。▼ しかもなんか魔物を適当に斬っていたらSクラスの1位になっちゃった。▼ 同期の2位は俺を殺しに掛かってくるし、他のSランク頭の可笑しい奴らばかり。▼ 一般人の俺は今日も魔物をたたっ斬るのであった。▼ 


総合評価:4155/評価:8.36/連載:20話/更新日時:2026年07月14日(火) 15:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>