魔法の才能ゼロの令嬢に最強ジジイが科学を教えたら?→A.めっちゃ無双する:【才無し侯爵令嬢と魔法ジジイの科学革命】   作:Koh_novel

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第64話 ティナ、できる

 職人ギルドで、最初の10台が作られている間も——学園の日々は、いつも通りに続いていた。

 

 いつも通りじゃないのは、放課後だけ。

 

 

 雨上がりの放課後。学園の裏庭、物置小屋の裏。

 

「ピリカちゃん、見て見て!」

 

 ティナが掌をかざすと、ぶわっ、と風が起きた。落ち葉が綺麗に渦を巻いて、舞い上がる。

 

「うわ、もう渦まで作れるの!?」

 

「えへへ。あれから毎日、寝る前に練習してるんだ」

 

 風を教えたのは、ほんの少し前だ。なのにティナの風は、もうピリカに迫る勢いだった。

 

 ——はやい。吸収が、はやい。

 

「それでね、ピリカちゃん。その……次の、なんだけど」

 

 ティナが、もじもじと指を組んだ。

 

「水って……水も、できたりする、のかな。あの、無理なら全然いいんだけど」

 

「水か……」

 

 ピリカは、少し考えた。

 

 水は、私も苦労した。でも、理屈は教わってる。アリサと二人で、お師匠様から必死に聞き出した、あの説明がある。

 

「うん。——やってみよう。今日、ちょうどいい日だし」

 

「ちょうどいい日?」

 

「雨上がりだから」

 

 

「最初に聞くけど、ティナは『水』って、どこにあると思う?」

 

「え……川、とか、井戸……?」

 

「うん。あとね——ここにもあるの」

 

 ピリカは、何もない空中を指差した。

 

「空気の中にはね、実は水が溶け込んでるの。目に見えないくらい、ばらばらに散らばって」

 

「く、空気の中に? お水が?」

 

「そう。だから、雨が降るの。空気の中の水が集まって、重くなって、落ちてくる。——つまり」

 

 ピリカは、にっと笑った。

 

「新しく水を『生み出す』必要は、ないの。空気の中に散らばってる水を、一箇所に『集める』だけでいい」

 

「集める、だけ……」

 

「コツはね、欲張って広い範囲から集めようとしないこと。掌の上の、ほんの小さなところに、ちょっとずつ」

 

「だから、雨上がり……?」

 

「そう。今日は空気の中に、水がたっぷり残ってるから。——練習には、一番いい日」

 

 

 ピリカは、お手本に掌をかざした。

 

 じわ……じわじわ……と、掌の上に水が滲んで、集まって——リンゴほどの水玉になった。

 

「……私だと、これくらい」

 

「すごい……!」

 

「これは、結構練習したからね。——はい、ティナもやってみて」

 

 ティナが、おずおずと掌をかざした。すうっと息を吸って、目を閉じる。

 

 じわ……。

 

 掌が、しっとりと湿った。——でも、玉にはならない。

 

「あれ、あれれ……」

 

「惜しい。集める場所が、ちょっと広いの。掌ぜんぶじゃなくて——」

 

 ピリカは鞄から羽ペンを取り出して、ティナの掌の真ん中に、ちょん、と小さな点を描いた。

 

「ここ。この一点だけ」

 

「……ここに、集める?」

 

「そう。この点に向かって、ちょっとずつ」

 

 二回目。小さな水滴ができかけて、崩れた。

 

 三回目。四回目。

 

 そして、五回目。

 

 ——ぷるん。

 

 ティナの掌の真ん中に、さくらんぼほどの水玉が、生まれていた。

 

「で……」

 

 ティナの目が、まんまるになった。

 

 (……数回で、一応できちゃうんだもんなぁ。私より、よっぽど……)

 

「ピリカちゃん、水……できた!」

 

「すごい! ティナ、もう風も水もできるじゃん!」

 

「できた! できたぁ……!」

 

 ティナは水玉を抱えるみたいに両手で包んで、ぴょんぴょん跳ねた。水玉がぷるぷる揺れて、跳ねるたびにこぼれそうになる。

 

 

「あのね、ピリカちゃん。うちね、レーゲンタールって言うの」

 

 ひとしきり跳ねたあと、ティナはぽつりと言った。

 

「『雨の谷』って意味なんだって。代々、水魔法の家系なの。……なのに私だけ、水魔法もずっとできなくて。家でも学園でも、ずっと、肩身が狭かったんだ」

 

 掌の上の水玉を、ティナはじっと見つめた。

 

「でも、これ……これも、水だよね。私、雨の谷の子に、なれたのかな」

 

「なれたよ。——とっくに、なってるよ」

 

「……えへへ」

 

 ティナは、泣きそうな顔で笑った。

 

「ピリカちゃんの教え方が、やっぱりすごくわかりやすい。学校の先生よりもずっと!」

 

 

 帰り道、ピリカは一人で考えていた。

 

 ——ティナは、私よりずっと早く、できるようになる。

 

 風も、水も。私が何週間もかけたところを、ティナは数日で追い抜いていく。——アリサなんて、大体全部一発だったし。やっぱり私には、魔法の才能なんてなかったんだなぁ、と思う。

 

 ——でも。

 

 不思議と、悔しくなかった。

 

 ティナが「できた!」って跳ねた瞬間、自分のことみたいに——ううん、自分のときよりも、嬉しかった。

 

 (……教えるのって、楽しいなぁ)

 

 

 数日後。魔法実技の授業。

 

 風魔法の的当てで、ティナの番が来た。

 

 六年間、的の手前で風が消え続けてきた女の子が、掌をかざす。

 

 ぶわっ。

 

 的が、勢いよく倒れた。

 

「————え?」

 

 教室が、ざわついた。

 

「ティナ、いつの間に……?」

 

「ねえ、何かしたの?」

 

 囲まれたティナは、わたわたしながら——でも、はっきりと言った。

 

「ピ、ピリカちゃんに、教えてもらったの!」

 

 ——あ。

 

 ピリカは、教室の隅で小さくなった。

 

 みんなの視線が、いっせいにこちらを向く。成績上位の子たちは「ふぅん」という顔。でも、後ろの方の席の子たちは——違った。

 

 あの日の、私と同じ目をしていた。

 

 『あの子ができたなら、私も』っていう、すがるみたいな目。

 

 (……これは、もしかして)

 

 (なんだか、大ごとになるような……)

 

 ピリカの予感は、わりとすぐに、当たることになる。

 




有沢ゆうとさん、dirさん、金属の水瓶と羊さんより☆9の高評価いただきましたーー!
ありがとうございます(>ω<。)
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