魔法の才能ゼロの令嬢に最強ジジイが科学を教えたら?→A.めっちゃ無双する:【才無し侯爵令嬢と魔法ジジイの科学革命】 作:Koh_novel
職人ギルドで、最初の10台が作られている間も——学園の日々は、いつも通りに続いていた。
いつも通りじゃないのは、放課後だけ。
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雨上がりの放課後。学園の裏庭、物置小屋の裏。
「ピリカちゃん、見て見て!」
ティナが掌をかざすと、ぶわっ、と風が起きた。落ち葉が綺麗に渦を巻いて、舞い上がる。
「うわ、もう渦まで作れるの!?」
「えへへ。あれから毎日、寝る前に練習してるんだ」
風を教えたのは、ほんの少し前だ。なのにティナの風は、もうピリカに迫る勢いだった。
——はやい。吸収が、はやい。
「それでね、ピリカちゃん。その……次の、なんだけど」
ティナが、もじもじと指を組んだ。
「水って……水も、できたりする、のかな。あの、無理なら全然いいんだけど」
「水か……」
ピリカは、少し考えた。
水は、私も苦労した。でも、理屈は教わってる。アリサと二人で、お師匠様から必死に聞き出した、あの説明がある。
「うん。——やってみよう。今日、ちょうどいい日だし」
「ちょうどいい日?」
「雨上がりだから」
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「最初に聞くけど、ティナは『水』って、どこにあると思う?」
「え……川、とか、井戸……?」
「うん。あとね——ここにもあるの」
ピリカは、何もない空中を指差した。
「空気の中にはね、実は水が溶け込んでるの。目に見えないくらい、ばらばらに散らばって」
「く、空気の中に? お水が?」
「そう。だから、雨が降るの。空気の中の水が集まって、重くなって、落ちてくる。——つまり」
ピリカは、にっと笑った。
「新しく水を『生み出す』必要は、ないの。空気の中に散らばってる水を、一箇所に『集める』だけでいい」
「集める、だけ……」
「コツはね、欲張って広い範囲から集めようとしないこと。掌の上の、ほんの小さなところに、ちょっとずつ」
「だから、雨上がり……?」
「そう。今日は空気の中に、水がたっぷり残ってるから。——練習には、一番いい日」
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ピリカは、お手本に掌をかざした。
じわ……じわじわ……と、掌の上に水が滲んで、集まって——リンゴほどの水玉になった。
「……私だと、これくらい」
「すごい……!」
「これは、結構練習したからね。——はい、ティナもやってみて」
ティナが、おずおずと掌をかざした。すうっと息を吸って、目を閉じる。
じわ……。
掌が、しっとりと湿った。——でも、玉にはならない。
「あれ、あれれ……」
「惜しい。集める場所が、ちょっと広いの。掌ぜんぶじゃなくて——」
ピリカは鞄から羽ペンを取り出して、ティナの掌の真ん中に、ちょん、と小さな点を描いた。
「ここ。この一点だけ」
「……ここに、集める?」
「そう。この点に向かって、ちょっとずつ」
二回目。小さな水滴ができかけて、崩れた。
三回目。四回目。
そして、五回目。
——ぷるん。
ティナの掌の真ん中に、さくらんぼほどの水玉が、生まれていた。
「で……」
ティナの目が、まんまるになった。
(……数回で、一応できちゃうんだもんなぁ。私より、よっぽど……)
「ピリカちゃん、水……できた!」
「すごい! ティナ、もう風も水もできるじゃん!」
「できた! できたぁ……!」
ティナは水玉を抱えるみたいに両手で包んで、ぴょんぴょん跳ねた。水玉がぷるぷる揺れて、跳ねるたびにこぼれそうになる。
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「あのね、ピリカちゃん。うちね、レーゲンタールって言うの」
ひとしきり跳ねたあと、ティナはぽつりと言った。
「『雨の谷』って意味なんだって。代々、水魔法の家系なの。……なのに私だけ、水魔法もずっとできなくて。家でも学園でも、ずっと、肩身が狭かったんだ」
掌の上の水玉を、ティナはじっと見つめた。
「でも、これ……これも、水だよね。私、雨の谷の子に、なれたのかな」
「なれたよ。——とっくに、なってるよ」
「……えへへ」
ティナは、泣きそうな顔で笑った。
「ピリカちゃんの教え方が、やっぱりすごくわかりやすい。学校の先生よりもずっと!」
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帰り道、ピリカは一人で考えていた。
——ティナは、私よりずっと早く、できるようになる。
風も、水も。私が何週間もかけたところを、ティナは数日で追い抜いていく。——アリサなんて、大体全部一発だったし。やっぱり私には、魔法の才能なんてなかったんだなぁ、と思う。
——でも。
不思議と、悔しくなかった。
ティナが「できた!」って跳ねた瞬間、自分のことみたいに——ううん、自分のときよりも、嬉しかった。
(……教えるのって、楽しいなぁ)
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数日後。魔法実技の授業。
風魔法の的当てで、ティナの番が来た。
六年間、的の手前で風が消え続けてきた女の子が、掌をかざす。
ぶわっ。
的が、勢いよく倒れた。
「————え?」
教室が、ざわついた。
「ティナ、いつの間に……?」
「ねえ、何かしたの?」
囲まれたティナは、わたわたしながら——でも、はっきりと言った。
「ピ、ピリカちゃんに、教えてもらったの!」
——あ。
ピリカは、教室の隅で小さくなった。
みんなの視線が、いっせいにこちらを向く。成績上位の子たちは「ふぅん」という顔。でも、後ろの方の席の子たちは——違った。
あの日の、私と同じ目をしていた。
『あの子ができたなら、私も』っていう、すがるみたいな目。
(……これは、もしかして)
(なんだか、大ごとになるような……)
ピリカの予感は、わりとすぐに、当たることになる。
有沢ゆうとさん、dirさん、金属の水瓶と羊さんより☆9の高評価いただきましたーー!
ありがとうございます(>ω<。)