魔法の才能ゼロの令嬢に、最強転生魔法ジジイが科学知識を教えたら? → A.めっちゃ無双する:【才無し侯爵令嬢と魔法ジジイの科学革命】 作:Koh_novel
雨に打たれて、雑草が重たく垂れている。地面はぬかるんで、靴が泥に沈む。
いつもの空き地だった。
王都の外れ。毎日、学園の後に来ていた場所。走って、走って、気がついたらいつものここにいた。
ピリカはカバンを草の上に置いた。手切れ金の袋も、その横に。
制服が濡れて、身体に張りついている。髪から雫が落ちる。冷たい。でも、温度は感じなかった。
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「……なんで」
声が出た。自分でも、意図していなかった。
「……なんで、私は……!」
両手を前に突き出した。
「——紅蓮の炎よ、我が手に集え——」
雨の中、完全詠唱を始めた。声が震えている。それでも、一語も飛ばさずに。
「——燃え盛りて球となれ——」
「——渦巻く火球が、この手の前に——」
「——ファイアボール!」
掌の先に——ぽっ、と小さな光が灯った。
指先ほどの、小さな小さな火が、降りしきる雨の中で揺れている。
——ファイアボールには、全く届かない。こんなちっぽけな火。
「……なんで、こんな小さな火しか出ないのよ……!」
もう一度。ピリカはふっと力を抜いて炎を消し、また両手を突き出した。
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また最初から。完全詠唱。丁寧に。
「——ファイアボール!」
また灯った。同じ大きさの、同じ弱々しい炎。でも、それだけ。何百回やっても、これ以上大きくならない。
——どうせ。
——どうせ、何回やっても同じなんでしょ!!!
力を抜いて消した。もう一度。
「——ファイアボール!」
灯った。同じ火。同じ大きさ。同じ弱さ。雨の中で揺れている。
——もう一度。
また、消した。
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何度目かもわからなかった。
——もしかしたら、今度こそ。
やる度に、そう思った。
——今度こそ、もう少し大きくなるかもしれない。それを見せたらもしかして、全部また元通りになるかもしれない。
——今度こそ。
同じ大きさだった。やはり、何も変わらなかった。
「ファイア——」
声にならなかった。唇が動いただけだった。掌の先に、もう光は灯らなかった。
「——」
腕が下がった。力が入らない。視界がぼやける。頭がぐらぐらする。魔力切れの症状だった。枯れた魔力を無理に絞り出そうとして、身体そのものを削っている。
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「もう……」
膝が折れた。
泥水の中に前から倒れた。冷たい水が頬に触れた。泥の匂い。草の匂い。雨が身体を叩いている。
起き上がれなかった。指一本さえ動かない。
目を開けていた。泥水の水面が、すぐ目の前にあった。雨粒が落ちるたびに、小さな波紋が広がっては消えていく。
——なんで。みんなは当たり前にできるのに。
意識が朦朧としていた。冷たいはずなのに、もう冷たさを感じない。
目が閉じかけた。
泥水の中に倒れた小さな身体は、動かなかった。雨だけが、絶え間なく降り続けていた。