魔法の才能ゼロの令嬢に、最強転生魔法ジジイが科学知識を教えたら? → A.めっちゃ無双する:【才無し侯爵令嬢と魔法ジジイの科学革命】   作:Koh_novel

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第6話 雨と泥

 

 雨に打たれて、雑草が重たく垂れている。地面はぬかるんで、靴が泥に沈む。

 

 いつもの空き地だった。

 

 王都の外れ。毎日、学園の後に来ていた場所。走って、走って、気がついたらいつものここにいた。

 

 ピリカはカバンを草の上に置いた。手切れ金の袋も、その横に。

 

 制服が濡れて、身体に張りついている。髪から雫が落ちる。冷たい。でも、温度は感じなかった。

 

 

「……なんで」

 

 声が出た。自分でも、意図していなかった。

 

「……なんで、私は……!」

 

 両手を前に突き出した。

 

「——紅蓮の炎よ、我が手に集え——」

 

 雨の中、完全詠唱を始めた。声が震えている。それでも、一語も飛ばさずに。

 

「——燃え盛りて球となれ——」

 

「——渦巻く火球が、この手の前に——」

 

「——ファイアボール!」

 

 掌の先に——ぽっ、と小さな光が灯った。

 

 指先ほどの、小さな小さな火が、降りしきる雨の中で揺れている。

 

 ——ファイアボールには、全く届かない。こんなちっぽけな火。

 

「……なんで、こんな小さな火しか出ないのよ……!」

 

 もう一度。ピリカはふっと力を抜いて炎を消し、また両手を突き出した。

 

 

 また最初から。完全詠唱。丁寧に。

 

「——ファイアボール!」

 

 また灯った。同じ大きさの、同じ弱々しい炎。でも、それだけ。何百回やっても、これ以上大きくならない。

 

 ——どうせ。

 

 ——どうせ、何回やっても同じなんでしょ!!!

 

 力を抜いて消した。もう一度。

 

「——ファイアボール!」

 

 灯った。同じ火。同じ大きさ。同じ弱さ。雨の中で揺れている。

 

 ——もう一度。

 

 また、消した。

 

 

 何度目かもわからなかった。

 

 ——もしかしたら、今度こそ。

 

 やる度に、そう思った。

 

 ——今度こそ、もう少し大きくなるかもしれない。それを見せたらもしかして、全部また元通りになるかもしれない。

 

 ——今度こそ。

 

 同じ大きさだった。やはり、何も変わらなかった。

 

「ファイア——」

 

 声にならなかった。唇が動いただけだった。掌の先に、もう光は灯らなかった。

 

「——」

 

 腕が下がった。力が入らない。視界がぼやける。頭がぐらぐらする。魔力切れの症状だった。枯れた魔力を無理に絞り出そうとして、身体そのものを削っている。

 

 

「もう……」

 

 膝が折れた。

 

 泥水の中に前から倒れた。冷たい水が頬に触れた。泥の匂い。草の匂い。雨が身体を叩いている。

 

 起き上がれなかった。指一本さえ動かない。

 

 目を開けていた。泥水の水面が、すぐ目の前にあった。雨粒が落ちるたびに、小さな波紋が広がっては消えていく。

 

 ——なんで。みんなは当たり前にできるのに。

 

 意識が朦朧としていた。冷たいはずなのに、もう冷たさを感じない。

 

 目が閉じかけた。

 

 泥水の中に倒れた小さな身体は、動かなかった。雨だけが、絶え間なく降り続けていた。

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