魔法少女はギャルじゃない! 【魔法少女ユメミ97】 作:葛川忍
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何かを見つけたいと思っていた時、それは向こうの宇宙から落ちてきていた。
肌を濡らすような湿気が近づく季節のことだった。
「…………マジ? ヤバくね?」
目の前で男が死にかけていた。
現実を犯すような異常を前にユメミは突然物語の主人公になってしまった。
それはある種、物語への誘拐と言える。
「やあ………ちょうどいいところに来てくれた」
「え、警察? つか、救急車?」
この国最大の歓楽街にある無機質な雑居ビルの屋上、空虚を潰すための空虚をユメミが求めていた午後18時25分。
陽が夜になろうとしている。
退屈を映していたユメミの瞳が赤い光を反射した。
「助けが必要だ。身体を貸して、ほしい」
男は意図不明な事を言った。
状況を無視している。
「意味わかんねーし。いきなりセクハラかよ」
ユメミは男を見る。
軽薄な髪色に夜色のスーツ。この街にのさばるホストかなにかに思える。
だがその身体から血が溢れている。
日常の出来事ではなかった。
そしてそれを血であると認定すべきかどうか、ユメミは迷った。
「あんた、人間?」
その液体は蜜のような琥珀色で、不思議な甘い香りを漂わせている。
非現実へとユメミを引き摺り込む生々しい臭いであった。
「とりあえず、警察呼ぶわ」
だがユメミは物語の主人公になるにはまだ現実の領域にいた。
制服のポケットからスマートフォンを出すと、ライトブルーとグレーで縫われたチェック柄のスカートがかすかに揺れる。
「待て。時間がないんだ」
フェンスにもたれていた男の体が起き上がる。
正体不明の血液で濡れたスーツの裂け目から、艶めかしい色の内臓が零れている。
その色と形はどうやらユメミが知っている地球上のどの生物のものとも違うようだった。
「ちょっと、ヤバいって」
「外見と言語パターンから察するに、君はギャルというやつか?」
_____宇宙人。
ユメミの直感が自分の目前まで近づいてきた男をそう認識する。
それは想像でしかない。
しかし既にユメミが常識の埒外に巻き込まれ始めているのは確からしかった。
「ギャルじゃねーし」
一歩後ずさったユメミの腕を男が捕まえて迫る。
ユメミの金色に染めた長い髪が揺れる。
派手なアイメイクで縁どられた瞳が揺れる。
黒いチョーカーの巻かれた喉が一瞬脈動した。
恋愛映画のワンカットなら、次には互いの唇が重なるだろう。
「触んなし」
しかしユメミは男を振り払った。
彼女の細腕でも重さを感じず、男は再び床にころがり琥珀色の血をこぼす。
しかし男は苦しそうな表情を見せず穏やかな笑顔を浮かべていた。
その笑顔は説得のために用意された表情であり、状況と目的がなければ成立しない顔である。
「私はクラウス。この発音が君たちの星のものに近い。天の川銀河文明保護官の者だ。君たちの文明に、危機が迫っているんだ」
「意味、わかんない」
クラウスと名乗った男の、好印象を与えるためだけに用意されたような美しい顔を見てユメミは胸を震わせた。
恐れではない。嫌悪ではない。
ときめきに近いが、違う。
ある種の劣情に近いが、そうではない。
自分を別の世界に誘う使者が目の前にある。
そういう興奮がユメミの胸の中で盛《さか》りはじめていた。