魔法少女はギャルじゃない! 【魔法少女ユメミ97】 作:葛川忍
青春ごっこ。
と言えば部活はそういう見方もできる。
放課後の校舎では吹奏楽部のどこかたどたどしい演奏。運動部の掛け声。
みんなその場のノリだけでしょ。ユメミは部活動についてそう思っている。
どうして学校は部活なんかやらせたがるんだろう。
野球だろうが演劇だろうが、一握りを除いて将来の足しになんてならないじゃないか。
教師が子供を使って青春ごっこを見たいだけ。
そう思っているから一番青春ごっこから遠い部活を仕方なく選んだ。
オカルト・文学研究部。通称オカ文部である。
「ありゃ~~~!? ユメミ殿、本当に来てくれるとは! びっくりでやんす!」
部室が割り当てられていないオカ文部は4階の小視聴覚室を部室として使うように言われている。
視聴覚室に入ると既に部員がふたりおり、その中で部長にあたる少女が芝居がかった声で嬉しそうに言った。
ブルートゥースの小型スピーカーから大昔のアニソンが流れている。
お転婆な魔女っ子が活躍するアニメのOPだった。
「部長。これが俺の口説きの力ってやつっすよ!」
「たは~~~~~~! チャラスケ殿は流石チャラ男で生きてるだけありますなぁ~~~~~」
部長、
顔の半分を覆っているような丸眼鏡。重さを感じる伸ばした黒髪。他の色も選べるのに上下黒のセーラー服に長めのスカート。ダサさを選んでいるような恰好のくせに、胸がやたらデカい。
ユメミはこの部長が苦手だった。
「ユメミっちどこ座る? まあ当然俺の隣だよね。そこ以外の選択肢あったら逆に教えて欲しいんだけど」
「普通にイヤなんだけど」
「あれ~~~~~~ッ!? 普通に傷つくやつなんですけどこれ」
部活動の為に“Π”の形に並べられた机の左側をユメミは自分の席に選んだ。
隣にはすでに男子がおり、そこに座ればチャラスケの隣に座ることを避けられる。
ちなみに上辺には部長である安戸奏名が『部長』と書かれたプレートを用意し陣取っていた。
「廻理さん……………」
「なに?」
ユメミの隣にいた少年、
「あ、いや、なんでもないっす……………」
「オタクくんさ、話しかけておいて会話引っ込めるの、普通に失礼だよ?」
大拓はその名前と容姿、趣味から『オタクくん』と周りから呼ばれている。
ユメミが彼に関心をもつ瞬間は限りなく少なかった。
「あ、そうっすよね。いや、今日はなんで来たんだろうって」
「来ちゃいけないわけ?」
「いや、そういうわけじゃ…………普通に気になって」
大拓との会話にチャラスケが「俺! 俺が連れて来たの!」と横やりを挟む。
そんなやりとりを見ながら安戸部長は満足そうに頷いた。
「いや~~~~~! オタクくんに優しくないギャルと歯牙にもかけられないチャラ男の伝統芸! これを見れるだけでもオカ文部を開いた意義があるというものですなぁ~~~!」
「ギャルじゃねーし」
「え、ユメミっちギャルじゃないの?」
「というか俺はオタクくんでもう固定なんすね……」
「と、まあなんだか場があったまって来たところでありますが、歓談だけでは部活動とは言い難く、今日はオカ文部の
安戸の指示で大拓が400字詰めの原稿用紙をひとり3枚づつ配る。
大拓とユメミ、チャラスケは2年生だが安戸は3年生で学年がひとつ高い。
「今日の活動はですな、ひとつ短い小説を書いてみましょうという趣旨で行こう! というわけです。
オカ文部の顧問は6時限目に物理の授業を教えていた島田教諭だ。
彼は部長の安戸を信頼しているのか単に放任なのか、部室に姿を見せることはまずない。
そして安戸の言うお三方とは、ユメミとチャラスケ、この場にいない橘愛華を指している。
「あ、俺、そういうの向いてないから、応援係でいい? 小説とか書けねーって。その代わりめっちゃ応援するから」
「そうおっしゃると思ってこの部長である安戸奏名、はじめて小説を書くための秘策を用意してきました! 自由に書けと言われたら誰でも戸惑うのは人情ですな。けどテーマを用意すれば意外と書けちゃうもんでやんす!」
安戸部長は扇子で机を叩くと立ち上がり、ホワイトボードに素早く板書した。
スピードに任せた達筆な文字で「今日の日記」と書いてある。
「但し!」
そう断り更にホワイトボードにマーカーを走らせる。
先ほど書いた字の下に「主人公を自分以外で」と赤い文字で書き足された。
「例えば朝起きて投稿して授業を受けて今この部室に来る。その主人公を自分以外に変えてみませんか? 学友でも憧れのアイドルでも、なんなら人間以外でもいい。ワンちゃんネコちゃん宇宙人! 好きな登場人物にして書くわけです!」
宇宙人、という言葉を聞きスマホをいじっていたユメミの意識が動く。
「例えばワンちゃんを主人公にするとしましょう! そうすると色んな事が思い浮かびませんか? ワンちゃんが学校に行くなら2足歩行だろうか? ケモナー大歓喜ですぞ! いやいや、やはりワンちゃんは四つ足歩行だ。だとすると授業風景はどうなりましょう? みんな好き勝手走り回って授業にならないかもしれませんし、ペンを持てないからベロで文字を書くかもしれませんね。どうです? 色々考えるでげしょ? その考えるということが創作の楽しさなんですなこれが!」
「それなら俺も書いてみよっかな! そうだ。俺以外のクラスメイト全員女子とか熱いっしょ!」
安戸部長のノリに感化されたのか、チャラスケも参加の姿勢を見せた。
「流石チャラスケ殿! ラブコメ思考が強くて素晴らしい! 今日中に書く必要もございません。来週各自発表する予定なので、書ききれなかったら家に持って帰ってもよござんす!」
気が付けばユメミもスマホを置き原稿用紙の上にペン先を置いた。
最初は適当に書いて済ませるつもりだったが、気まぐれだろうか小説を書いてみようという気になっていた。
そんなユメミの様子を観察し、クラウスはなぜか安心を感じているのであった。