魔法少女はギャルじゃない! 【魔法少女ユメミ97】 作:葛川忍
大昔のアニソンが流れる視聴覚室で、音楽に混じってペンが原稿用紙を走る音が鳴っている。
チャラスケなどは騒がしい。
「いや! この流れヤバいっしょ!」
「ヤバいでしょうヤバいでしょう! 自己陶酔が創作の原動力ですぞ!」
一方ユメミは静かだった。
シャープペンを少しづつ走らせ、生まれた文章を吟味しては消しながらも少しずつ物語を作っている。
いつぶりだろうか。こうやって空想を形にするのは。
そういえば何かデタラメなこと、夢みたいな事を考えてばっかいたっけ子供の頃は。
集中しながらユメミは過去の自分を思い出していた。
お父さんはどんな馬鹿みたいなお話でも褒めてくれたっけ。
「ユメミさん、けっこう書けてるんだね」
「_____ッ! 馬鹿! 見んなし!」
別に大拓は覗き見るつもりはなかったがユメミは過剰に自分の小説を守って覆いかぶさった。
「あ、ごめん。見るつもりはなかったんだ」
「オタクくん、デリカシーなさすぎ」
安戸は思った以上にユメミとチャラスケが活動に参加しているのを見て嬉しかった。
このまま終わればユメミも悪い気はしなかっただろう。
しかし悪気なしに場を乱す者が現れる。
もうひとりの部員、
「ちょぴーっす!」
サイドテールにしたピンクの髪は毛先にミントグリーンのグラデを加え、敢えて弛ませたカーディガンを羽織り、ミニスカートにルーズソックス。
ギャルそのものであった。
「お久でマジすまん! あ、良介先輩もいるんだ! オタクくんと部長もちょぴーっす!」
キャラ付けと言えばそうなのだろうが、愛華は「ちょぴーっす」という独自の挨拶を使う。
彼女はギャルになろうとしているのだろう。
ギャルであることを認めないユメミの対極にいる。
ちなみユメミに比べ背も低く胸もない。
「あ、あーしと同じギャルじゃん! あーし愛華! 橘愛華! よろしく~~~ぶいっ!」
わざとらしいブイサインを見せる愛華。
ユメミも愛華も部活への出席率が少なかった為に、お互い初対面であった。
ユメミの本能は愛華を秒速でつまらない人間とカテゴライズした。
絶対仲良くなりたくないタイプの女だ。そう思いユメミは返事もしない。
「え、なに? みんな小説書いてんの? ヤバ! オタクくんめっちゃ小説家っぽいじゃん! え、良介先輩も書いてんの? 見せて見せて~~~スゴ!」
愛華はチャラスケの隣が空いてるのを良いことに、椅子を寄せて良介に密着しながらチャラスケの原稿用紙を手に取って見た。
内容はまったく読んでいない。
彼女の中では文字が並んでいればそれで小説を書いたことになるらしい。
「いやもう俺まじでこっからアクタワラ賞作家とかになっちゃうかもしんねーから! 今からサイン書いておく?」
芥河賞のことだろうか?
「マジィ!? え、愛華、小説家の先輩とかめっちゃ自慢できるじゃん! オタクくんもなんか書いてるし、めっちゃ文系って感じ! え、なに? 今日そういう回なの?」
「そうでごぜーますよ! 今日はみなさんに小説を書く楽しさを知ってもらおうと思いましてですな! 愛華殿もここは一筆、なにとぞお願いします! かしこみかしこみお願い申す!」
安戸部長は愛華にも小説を書いてみてほしいのだろう。
しかしタイミングが良くなかった。
もし、最初から5人そろっていれば違ったかもしれない。
「え、あーしそーいうのキャラじゃないからパス。だってあーしギャルだし」
「いやいや! ギャルに文学! これは新しいジャンルですぞ! 文武両道、いや文ギャル両道というべきか…………」
安戸部長が愛華をその気にさせようと言葉を練っている最中、
「ギャルじゃねーし」
ユメミが全員に聞こえるようにわざと響く声で言った。
声色に苛立ちを感じられる。
いつもであればこうも露骨には出なかっただろうが、執筆の腰を折られて気分を害されたせいなのかもしれない。
「え? なんすか? ギャルじゃねーしって、誰のこと? もしかして愛華? あーしばちくそギャルのつもりなんだけど?」
愛華は売られた喧嘩は買うタイプなのだろう。
笑顔を浮かべたままユメミの正面に来る。
場の空気が張り詰め、大拓がわかりやすく戸惑いの表情を浮かべている。
「ギャルじゃないよ。あたしも、あんたも」
「おかしくなーい? 先輩だよね? 先輩もまんまギャルじゃん。なんの拘り? 自認に拘りある系のタイプ? 冷笑系ギャルとか新しい_______ん?」
挑戦的な表情でユメミを見る愛華の表情に一瞬疑問符が浮かぶ。
後ろではチャラスケが「え、なんか雰囲気変じゃない? あ、俺の書いた小説みんなの前で今から読む?」と場の空気を変えようとしているのが見える。
大拓は慌て、部長は言うべき言葉を探していた。
「なに? 言いたいことあれば言えば?」
「先輩、あーしらどっかで会ってませんか?」
「知らないけど」
知らないけど。ユメミの言葉を聞いて愛華はなぜか顔を強張らせた。
「あーしは、しってるんですよね」
「あたしはあんたの事なんて知らない」
「ほんとうにそうですか?」
張り詰めた視聴覚室の中、愛華は突然鼻歌でメロディを響かせた。
古い世代のアニソンが流れる中、ありふれたKPOPのようなメロディの鼻歌が混じる。
「_______!」
今度はそれを聞いたユメミの表情が強張った。
「
愛華は笑顔を浮かべる。
その笑顔は事情をわからぬ大拓から見ても喜びや友好を示すものではない冷たい笑顔だとわかる。
「あたし、帰る」
ユメミは机を叩いて立ち上がると顔色を失いその場を後にした。
一切後ろを振り返らず、自分も含めた過去を全部捨て去るように。
「ユメミっち! ちょっと! え、マジでなんで!?」
「チャラスケ殿、オタクくん殿、一旦、席を外してください。今日は活動をお開きにしましょう」
チャラスケがユメミの後を追おうとするのを安戸が止める。
「愛華殿、すこしお話、聞かせてくださいな。これでも部長なんで」
安戸は笑顔を崩さず愛華を視線でその場に留めた。
安戸は若いが人と円滑に話をするための天性の才能がある。
愛華は「別に、大したことじゃないけど」と安部と対話する姿勢を見せた。
大拓とチャラスケは場の空気を察し、互いに顔を見合わせると視聴覚室を後にする。
この物語の主人公であるはずのユメミだけがその場にいなかった。