魔法少女はギャルじゃない! 【魔法少女ユメミ97】   作:葛川忍

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  幸福な物語が突然誰かに齎《もたら》されるなら、最悪の物語も突然に無辜の者を巻き込んでゆく。

 

 「_______ひッ、_______ふッ」

 

 恐怖は呼吸に出る。

真の恐怖に直面したことのないものほどそれは顕著である。

橘愛華の呼吸にそれが見える。

 

 「_______うぐッ、_______ふ」

 

 東中高校は異次元にある。

異次元が作り出した淫獄であった。

 

 「ああああああああああ♡♡♡ ひいいいいいいい♡♡♡ あっ♡ あっ♡ いぎゅうううううううううう♡♡♡」

 

 「おあッ♡ おふっ♡ おふっ♡ うおおあああああああああああ♡♡♡♡♡」

 

 愛華は身を守るために潜んだ掃除ロッカーの中で淫獄の音を聞かされている。

スチールの箱の外では女子であろうが男子だろうが、意識のある者は無数の触手に嬲られ奇妙な悲鳴をを漏らしている。

 

 「はひッ♡ はひッ♡ はひッ♡ おごおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 「お”ッ♡ お”ッ♡ お”ッ♡ お”ッ♡ ぐぼおおおおおおおおおおお!!」

 

 奇妙な悲鳴の後は決まって嘔吐に似た異音が絞りだされる。

そしてそれは嘔吐ではない。

愛華はついさっき見た安戸奏名の断末魔が脳裏に浮かび、恐怖と生理的嫌悪感のために胃が震え堪えがたい吐き気に襲われた。

 

 「_______ぅう、_______あ、_______うう」

 

 過剰に分泌される唾液を飲み込み、なんとか吐き気を抑える。

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 ほんの少し前、愛華は安戸奏名とふたりきりで話した。

ユメミとの関係のことだった。

はじめ愛華は安部に咎められるものと思っていたが、安部は単に事情を聞いただけで特になにかを言うことはしなかった。

むしろ当時の苦労話を親身に聴いてくれるものだから、愛華も安部に気を許し、あとは単に雑談になった。

ユメミに対する感情をぶちまけてそのまま退部しようと思っていた愛華も気が付けば肩の力を抜いていた。

最終下校時間の放送が流れ、今日は帰ろうというところでそれは突然現れた。

 

 「トゥルルルルルルルル」

 

 その奇妙な人型の何かは電話のコール音のような声を出しながらまるで泥から浮かぶように床から現れた。

理外の異常を前にすると、人は声さえだせない。

 

 「逃げて!」

 

 安部のほうが先にするべき事を見つけた。

愛華を逃がそうと叫んだ。

それがいけなかった。

 

 「トゥルルルル」

 

 それは三角錐の頭にある眼球なようなものを安部に向けると身体から一斉にタール色の触手を何本も伸ばした。

 

 「いやああああああああああああああああ!!」

 

 叫んだのは愛華だった。

腰が抜け、その場にへたり込んだ時には安部は四肢を完全に巻き取られ宙に浮かされていた。

 

 「助け……」

 

 恐怖に顔をひきつらせた安部が声を発した瞬間、安部は言葉を奪われる。

口内に太い触手がねじ込まれていた。

 

 「むごッ!? ご!? ぐえ、え、えっ、おッ、_______おえおおおおおおおお♡♡♡」

 

 何が起きたか、触手が安部の口内で押したり引いたりを繰り返しているうちに安部が突然おかしくなった。

丸いレンズの奥の瞳は焦点を乱し、先ほどまで抵抗していた四肢が弛緩する。

 

 「うひッ♡ はひいッ♡ なにこれッ♡ わたしッッッ♡♡ おかひッッッッッ♡♡♡」

 

 気が付けばスカートの影の中に新たな太い触手が潜り込もうとしていた。

 

その後愛華が見た光景は現実のものと思えなかった。

目の前で安部は触手に突かれ、抉られ、蹂躙された。

さっきまで剽軽《ひょうきん》すぎるくらいに明るく、そして聡明だった安戸奏名の人格はすでにそこから消えてしまっていた。

 

 「あへえええええええええ♡♡♡ もっとおおおおお♡♡♡ もっと奥がひいいいいいいいあああああああ♡♡♡______________ほごおえええええええ♡♡♡」

 

 「いやっっっ! いやああああああああああああああああああああ!!」

 

 最後に見た安戸の姿が愛華の脚に神経を蘇らせた。

蛇に睨まれた蛙も恐怖を超えた恐怖を与えれば発作のように逃げ出す。

 

はちきれんばかりに膨らんだ腹。

スカートを汚しながら溢れる白く濁った粘液。

完全に人格を破壊された表情。

そして、串刺しにされたように口から飛び出した触手の先端。

 

愛華が見た安部奏名の最期であった。

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