魔法少女はギャルじゃない! 【魔法少女ユメミ97】 作:葛川忍
「あたし、もう帰る」
オカ文部が部室替わりに使っている視聴覚室、ユメミは机を叩いて立ち上がり逃げるように場を後にした。
「ユメミっち! 待って!?」
チャラスケがユメミを追いかけようとするが安戸部長がそれを止める。
「今日は活動をお開きにしましょうか。チャラスケ殿、オタクくん殿、申し訳ないですが先に帰ってくださいな」
橘愛華から逃げたユメミが残されたオカ文部のやり取りを知る由もない。
自分が既に一度同じようなやりとりをしていた事も。
◆
~~~ユメミ。仲間は大切にしたほうがいい。急に帰ったら彼らが戸惑うではないか。~~~
東中高校の4階。
表情を凍らせて階段を下りるユメミにクラウスは声をかけた。
「今は喋りかけんな」
震えるような声で言うと、クラウスの声をシャットアウトするためにユメミはイヤホンをスクールバックから取り出した。
もっともクラウスの声は外から聞こえているわけではないので意味のない行動だが。
~~~それに、小説を置いてきてしまったのが勿体ない。私には知識が足りないが、上手く書けそうに思ったぞ。~~~
「____なんだよそれ」
イヤホンを耳に挿そうとする手が一瞬止まったが、ユメミは鼻を鳴らすと音楽を流す。
同世代では誰も聞いていないような海外のオルタナロックだった。
日本人には『フォーレイン』『ハーレイン』と聞こえる英国人女性の唄が響くサビに達すると、学校の昇降口に降りる。
「廻理夢さんですね?」
靴を履き替えようと下駄箱に手を伸ばした瞬間、突然見知らぬ男二人組に声をかけられたのに気づきイヤホンを外した。
「誰?」
青い作業着を着た二人組の男はどちらも体格が完成されている。
現場作業によって作られた肉体ではない。
「UCOです。着いて来ていただきます」
ユメミは無言で下駄箱を閉めた。
その時、不自然なまでに学校の中が静かな事に気づいた。
ユメミたちを除き校内に学校関係者はいないようだった。
◆
東中高校1階、警備室。
普段であればここには学校の守衛がおり監視カメラで学内を見守っているはずであるが守衛の老人はいない。
代わりに髪をオールバックにした作業着の男が椅子に腰かけモニターに映る映像を眺めている。
その隣の椅子には同じく作業着を着た眼鏡の女がおり、無表情でノートパソコンを見つめている。
「4階は?」
オールバックの男はユメミの両脇にいる作業着の男たちの方を見ず、どこか抜けた声を出した。
「残った生徒も帰らせました」
「囮は?」
「配置済みです。数は、用意できませんでしたが」
「そもそも数少ないからね。急だし」
オールバックの男は話しながら一瞬スマートフォンを取り出し、画面を確認するとポケットにしまう。
「おっけ。じゃあ持ち場に戻ろうね」
「はい」
それだけ言うとユメミの両脇にいた作業着の男は警備室を後にし、ユメミとオールバックの男、そして眼鏡の女だけが残される。
「お! 情報以上に可愛いじゃん。しかも、だいぶ頭がいい。そういう顔してんねえ。俺、好きになっちゃうかも」
オールバックの男はユメミのほうに身体を向かせ笑った。
笑っているが、目に優しさがない。
そして隣の女はユメミのほうを一切見ようとしない。
「UCOって、言ったけど、何の用?」
ユメミの声は明らかに緊張している。
17歳の少女が本来相手にするような人間ではない。
いくらユメミが背伸びをしていても、年齢を考えれば自然な反応とも言える。
「俺はシンイチ。星シンイチ。こっちはルミコ。高橋ルミコ」
「嘘」
ユメミは短い声を絞った。
偽名であることを隠そうともしていない。
こういう類に常識内の人間はいないだろう。
「星さん。余計です」
「ダメだよルミコちゃん。常識人ぶっちゃ。常識の外にいるんだからそれらしくしようよ」
常識の外にいるのだから常識的にするべきだ、とでも言いたげにルミコはシンイチの言葉を無視した。
「だから、なんの用かって聞いてんの」
「いいねぇ。度胸もありそうだ。これから化け物を相手にすんのにちょうどいい」
ユメミはそう言って笑顔を浮かべるシンイチを見る。ルミコを見る。
シンイチは顔つきだけなら繫華街にいそうなチンピラ風だ。凄みはない。
しかし、表情の作り方、声の出し方に得体のしれない違和感がある。
普通の仕草もその気になれば計算してやる。そういう類の人間だとユメミは感じた。
ルミコは逆に何も感じさせない。
感じさせてくれない。
顔つきはいたって平凡。どこにいても目立たず、どこにいてもその場にいる理由を用意できる。
後ろに結った黒髪、どこにでも売ってそうな黒縁の眼鏡、個性のない化粧。
その感じさせてくれない容姿が今は恐ろしい。
「真面目な話じゃないの? じゃなきゃあたし、ここにいたくないんだけど」
ユメミが怯えの混じった声を出した瞬間、
既にユメミが何度か見た顔の整った人間の姿だ。
「シンイチ。ユメミが怖がっている。そういう態度は好ましくないぞ」
クラウスの声を効いてユメミは一瞬安堵した。
そういう自分が悔しい。
「怖がってねーし」
「何か言ったかユメミ。何かあれば遠慮なく言ってくれ」
「別に。それより、宇宙人が攻めてくるんでしょ。本題に入ったほうがいいんじゃん?」
クラウスの存在がユメミに勇気を与えている。シンイチはそう観察しニタニタと笑顔を浮かべている。
嫌な大人。
ユメミはシンイチをようやくそう当てはめることができた。
「まだわからない。だが可能性は高い。
クラウスの言葉を聞き、ルミコは自分にしかわからないように一度鼻から息を吐いた。
呆れている。
「想定していた場所とタイミングではないが、向こうから来るならそれは好都合だ。この学校でテンタル星人を迎え撃つ」
ユメミにとってはじめて認識する、異星人を排除するための本格的な戦いが始まろうとしていた。