魔法少女はギャルじゃない! 【魔法少女ユメミ97】 作:葛川忍
物語の主人公が非日常にいる中であっても、それ以外の者には日常がある。
「にゃははは! 愛華殿は可能性の獣でやんすなあ! ユニコーン! ユニコーン!って言いたくなるでやんす」
「なにそれ部長~! マジウケるんですけど~~~~~~! 部長やっぱオモロ! てか、ユニコーンってなんです? ラディ?」
「たは~~~~~! オタと非オタの境界線! オタクはオタクの常識を振りかざすから同じ過ちを繰り返す!」
ファミレスの席で安戸奏名は扇子で自分の頭を叩いた。
短い間で橘愛華は安戸にすっかり懐いている。
テーブルの上にはケチャップの残った大皿と、生クリームとチョコで汚れたパフェグラスがある。
客はそんなにいないはずだが店員は下げに来ない。やる気がないのだろうか。
「おっと、愛華殿の飲み物がないでやんすな。私も喉が渇いたのでちょっとお給仕をば」
安戸は気を利かせドリンクバーに行くつもりだろう。
「いいよ部長! あーし入れてくるよ! 先輩なんだから座って待ってて!」
「いや! 大人の女には、拘りがあるんでやんす! それではしばしお待ちを!」
わずかな時間だろうが、ひとり残った愛華は不思議を感じている。
最初安戸に一対一で話そうと言われたとき、てっきりさっきの事を咎められるのかと思った。
しかし安戸はふたりになるなり、「ま、そういうこともあるでやんすな!」と言い自分の頭を扇子で叩く。
学外の作業員が仕事を進めるからと言って愛華と安戸は帰されることになったのだが、せっかくだからということでファミレスで食事をすることになった。
そこでも安戸は愛華を問い詰めるような事をせず、気が付けばすっかり打ち解けてしまっていた。
愛華には安戸部長が不思議でたまらない。
だが、嫌な不思議ではなかった。
「お待たせしました~~~。メロンソーダのお客様~~~」
しばらくして店員になりきった安戸が戻ってきたので愛華は笑った。
笑いながら雑談を続けた後、愛華のほうから切り出した。
「部長。廻理先輩とあーしのこと、聞かないんですね?」
「ふぬ?」
「だってほんとは、それ聞きにきたんでしょ?」
「むーん」
部長がズレた眼鏡のイチを戻し考えるような仕草を見せたので愛華は慌てて言葉を足した。
「あ、でも普通に話せて楽しいし、部長なりに気を使ってくれてるってすっごいわかってます! だけど、なんでかなーーーって、ちょぴっと、気になったってゆーか」
安戸はカップに入った特製のお茶を口につけてから口を開いた。
あったかい紅茶にオレンジジュースを少し混ぜているので香りが違う。
「だって、さっきまで私たち別に仲良しさんじゃなかったでげしょ? 仲良くもない相手に、自分の思ってること、言えないじゃないですか」
愛華はこの時をきっかけに、安戸奏名をすごい人物と認めた。
小説を読んでると、もしかしたらこういう人間になる人もいるんだろうなとも思っている。
だからだろうか、自分の気持ちを打ち明けても良いと思えた。
例えそれがほんの少しだけでも。
「廻理先輩、嫌いなんですよ」
そう言ったすぐ後に言葉を重ねる。
「ううん。でも、廻理先輩のせいじゃないんです。ほんとだったら、あの後も上手くおちゃらけようと思ってたし。でも、廻理先輩、ちょっと昔に色々あって。向こうはむしろ愛華のこと、知らないから複雑っていうか。説明しずらいんですけど」
「複雑でやんすねえ」
愛華は安戸が否定も肯定もせず、意見も言わないのに安心した。
安心したと同時に罪悪感も感じてしまう。
部の空気が悪くなったのは自分の責任が大きい。
「あーし。廻理先輩に謝ったほうがいいですよね? 廻理先輩、部活来なくなっちゃう」
「お任せしますよ。無理に謝らなくてもいいし、もしユメミ殿が部活に来なくなっても愛華殿のせいじゃごぜーません。ユメミ殿にも責任はあります」
「でも………」
「まあ! ここはこのオカ文部の部長、安戸奏名が銀河英傑伝で学んだ権謀術数をご覧にいれてみせましょう! だっはっは!」
そう言って笑う安戸部長を見て、愛華はやっぱりこの人は凄いと思っている。
「あ、そういえば。マジで関係ない話なんすけど、夢の話とかして大丈夫そです?」
突然、愛華は思い出したように口を開く。
ユメミ《夢》、という人物について話していたせいで思い出し、話題を変えよと思ったのだろうか。
「なんか変な夢みたんですよねあーし」
「おっと、夢の話はハードル高いですぞ?」
「聞いてくださいよ~。たぶん部長、こういう話好きそうだし。ちょ~~~っとエッチだし」
「ほほう? ではお聞かせくださいな」
エッチ、という言葉を聞いて部長の眼鏡が光ったような気がした。
「なんか学校でエロ漫画みたいな触手うねうね~~~~~ってしたお化けに襲われて、アニメに出てきそうなギャルの魔法少女に助けてもらう夢。部長こういうの好きでしょ?」
「触手に襲われたって部分、もう少し解像度高めでおながいしやす」
とりとめのない夢の話。
愛華はそんな話をしながら廻理ユメミの顔がなぜだか思い浮かぶ。
愛華はまだユメミを受け入れられるようにはなれない。
恵まれてるのに自分はそれがわかってない周りの見えない女。
自分の事しか考えてない女。
それが愛華の思う廻理ユメミという少女だった。
そして愛華は夢の中で廻理ユメミ《魔法少女ユメミ》に救われた事を現実と認識していない。
そしてその廻理ユメミは今、夢でない現実で戦おうとしていた。