魔法少女はギャルじゃない! 【魔法少女ユメミ97】 作:葛川忍
「意味、わかんない」
「説明は、後で必ず君の納得できる形でする。時間がないんだ。身体を貸してほしい」
「だから、意味わかんないって言ってんの」
今、
しかしその役は自分の意志で勝ち取ったものではない。
突然あてがわれた役割に人はそう簡単に首を縦にはふれない。
「とりあえず、警察呼ぶから」
ユメミが星をモチーフに装飾されたスマートフォンをピアスが3つ着いた右耳に近づけた時、宇宙は無理矢理にでもユメミをこの物語の舞台にあげることにしたらしい。
「………………マジかよ?」
警察管の声が通話スピーカーから聞こえた瞬間にユメミの現実はいよいよ崩れ去った。
雑居ビルの屋上、そのフェンスの向こうからそれはやってきた。
思わずユメミは受話器の向こうの警察に状況を伝えることを忘れる。
「ここ、10階」
ユメミは現実を確認するようにつぶやく。
最初に見えたのは手だった。
フェンスに指を絡ませるそれを手といってよいのであれば、だが。
「まずいな。追いつかれたか」
クラウスの視線の先で動く5本の指と掌で構成された触手の群体を手と呼ぶならばそれはそうなのだろう。
しかしそれは触手が手の機能を模倣しているようだった。
透明な粘液でヌラヌラと照りモゾモゾと動いている様は生理的嫌悪感を感じさせる。
「………キモいんだけどマジで!」
手の持ち主はもっと奇妙であった。
表面的に見ればクラウスと同じくダークカラーのスーツを着た人間に見える。
だがそれも身体の模倣と見た方がよい。
襟を見ればそれはスーツに見せかけた肉の装飾とわかる。襟が肉体に溶接されているように同化していた。
頭部はこれもタール色の三角錐で、細い髭のような触手が出たりひっこんだりしている。
「なんなの、これ」
目のつもりか、黒い円が中央に塗られただけの白い球体が三角錐の表面に浮かびユメミを見つめている。
そしてどこから身体中から生えて引っ込んでを繰り返す触手の動きに合わせ「トゥルルルルルルル」と電話の着信音のような音がするのだ。
「テンタル星人だ」
怯えた様子のユメミにクラウスが異星人の名称を教えた。
しかし名称がわかったとて、知恵にはならない。
知恵がなければ未知には立ち向かえない。
「知らないし!」
ユメミにはまだ物語の舞台から降りるという選択肢があるように思われた。
しかし背を向け階段を下りて逃げ出そうとするユメミの右足首にタール色の触手が巻きつき締めあげた。
「いたっ…………!」
足首をとられ床に滑り転ぶユメミ。
テンタル星人の眼球が純白のショーツで守られたユメミのアンダーラインに向けられた。
「ちょ…………やだ! なにこれ!」
足首に絡みついた触手がふくらはぎから太腿へと蛇のように巻き付く。
それだけではない。
新たに伸ばされた触手がユメミのショーツの縁をなぞった。
侵犯の意志を持って動いているのは明白に思える。
「冗談じゃないって!!」
太腿や鼠径部にナメクジにでも這われたような気持ち悪さにユメミの顔が引きつる。
たまたま胸ポケットに挿していたシャープペンで触手を突くと一瞬触手は身じろぐような動きを見せた。
「トゥル、トゥルルルルルルル、ピイイイイイイイ」
痛みを感じたのかは不明。
しかしテンタル星人はユメミの行動に反応し、自由な左足首に新たな触手を伸ばすとユメミの体を持ち上げ宙づりにしようとした。
「わああああああああ!!」
目に見える世界が回転しはじめユメミは叫んだ。
壁際にあった排水パイプに手を伸ばせたのは幸運だった。しかし役に立たない幸運だった。
ユメミを引っ張る触手は、恐らくは凌辱的な意図でもってユメミを逆さづりにしようと力を強めている。
「マジなんなの!? なんなのこれ!?」
手に込めた指の力が限界を迎えようとした時、ユメミはクラウスを見た。
何か考えがあったわけではない。
視界に映っただけであろう。
「ギャル君! 融合してくれ!! 手を伸ばすんだ!!」
クラウスは這いずりながらユメミの傍に身体を近づけていた。
今度は顔に笑顔が張り付いていない。
必死の形相に見えた。
「だから! ギャルじゃないっつーの!!」
パイプからユメミの手が離れる。
脚から持ち上げられユメミの身体が逆さづりになる。
また新たな触手がユメミの下半身に向けて伸ばされる。
ユメミはもがくように手を伸ばす。
クラウスの手がユメミの手を確かに掴んだ。
「トゥル、トゥル、トゥルルルッ」
その瞬間に空間における不具合《エラー》のような光にユメミの身体が包まれる。
夢色に輝くユメミの両腕がテンタル星人の触手を引きちぎり、そして触手宇宙人の身体を雑居ビルの屋上から宙に蹴り飛ばしたのである。