魔法少女はギャルじゃない! 【魔法少女ユメミ97】 作:葛川忍
宇宙触手テンタル星人。
彼の母星は我々の知る銀河系にない。
彼は他の同行者と共に宇宙船の不時着を装い地球に降り立った。
彼の目的は単純に地球人の観察であった。
今日までの短い期間の間に数人の地球人と接触した。
肉体が存在を決める低次元の生物。
しかしながら自分たちより遥に下等である存在に触れ、テンタル星人の中に今まで知らなかった感情の萌芽が起きる。
どうやらこの生物は身体に刺激を受けると様々な反応を返す。
特に痛みと性的な刺激のふたつに強い反応を示した。
この生物をもっと知りたい。この生物にもっと触れていたい。
その欲求が高まるうちに文明保護管が現れる。
彼はテンタル星人が地球人に関わらぬよう説得しに現れたが、既にテンタル星人は感情というある種の毒電波を浴びたことにより狂っていた。
テンタル星人は文明保護管の肉体を破壊するとういう凶行に出た。
しかしながら文明保護管クラウスは偶然通りがかった地球人の少女と出会い、任務を遂行するために致し方なく融合という選択肢を執り、そして魔法少女ユメミが生まれたのである。
◆
「でりゃあああああああああああああああ!!!」
「トウゥルルル!? ビビイイイイイイイイ!!」
高度300mからの急降下攻撃。
テンタル星人は完全に虚をつかれ、恐ろしい衝撃を受け叫んだ。
単なる質量攻撃であれば問題にならない。
しかし第5の力を媒体に4次元のエネルギーを得た攻撃はUCOのプラズマ弾攻撃すら無効化したテンタル星人にも平等に破壊の力を与えた。
しかし。
「なんで______受け止めてんだよ!?」
咄嗟にテンタル星人は防御壁を展開した。
黒い波動の輪がテンタル星人の広げた腕から広がりユメミのギガンティック・エスペランザに抵抗している。
~~~仕方がない。学校の倒壊に配慮し加速を緩めたのだ。一撃では葬れん。ここからだぞユメミ。押しきれ!~~~
「気軽に______言ってんじゃ______」
校舎の屋上。満月が浮かぶ夜空を背に、ユメミの力とテンタル星人の力がせめぎ合う。
想像力によってピンク色の閃光を放つユメミの力。
四次元の力によって黒い波動を作るテンタル星人の力。
黒とピンクが反発し合う光景は宇宙の幻想である。
「ビイイイイイイイイ!! ビビイイイイイイイイ!!」
テンタル星人も必死であった。
波動でユメミに抵抗しながらも虚空に量子トンネルを発生させ触手でユメミを絡めとろうとする。
しかし防壁に力を割いているため十分に触手が伸ばせず、ユメミの首にゆっくりとまとわりつけるしかできない。
「うあッ______キモイんだってば!!」
~~~ユメミ! 集中力を切らすな!! 気を逸らしたら負けるぞ! テンタル星人を倒す未来を思い描け!!~~~
「気安く言ってんじゃ____________うぐ!!」
ユメミの首に巻き付いた触手が首をジワジワと絞める。
まだ呼吸を奪われていないが、集中力が乱されればそれは負けを意味する。
事実、ギガンティック・エスペランザから放たれるピンク色の光が僅かに勢いを弱めた。
~~~ユメミ!!~~~
「うあっ______だ、ダメ______」
徐々に息苦しさを感じ、ユメミは魔法の力が萎んでゆくのを感じた。
反してテンタル星人の黒い波動は勢いを増している。
~~~ユメミ!! 諦めるな!! 君がやるんだ!! 君ならできるんだ!!~~~
「そんなこと______言った______って」
魔法少女ユメミの力は精神の力に依っている。
戦う意志が負ければ、それは即ち逆転不能の敗北を意味する。
またか。またなのか。
クラウスは歯噛みするような感情を覚えた。
なにか、なにかユメミに届く言葉はないだろうか。
クラウスはユメミという少女をまだよく知らない。
一般的な17歳の少女にしては捻くれ、自意識を拗らせた女子高生。
しかしその裏には不格好ながらも確かに存在する正義の心があるのをクラウスは見ていた。
95回目の夢で愛華を迷いもせず庇おうとしていたユメミの姿をクラウスだけが知っていた。
~~~ユメミ! 君が守るんだ! 君が地球の人類を守るんだ! 魔法少女ユメミ! 君だけにしかできないんだ!!~~
この合理主義の宇宙人にしては不似合いな精神論だけの喝。
しかしその言葉は確かにユメミに届いた。
「あたしが____________守る!!」
再びピンク色の閃光が広がりテンタル星人の黒い波動を圧倒した。
「いい加減! 潰れろ! ______ってんだよ!! うわああああああああああああああ!!」
「ビビッッッ!!」
テンタル星人の防御壁が砕け、不気味な眼球が驚いたように見開かれた。
「ギガンティック・エスペランザ!!」
「ビ! ビ! ビ! ビビイイイイイイイイイ!!」
巨大な厚底靴ハンマーの靴底から放射状の光が放たれる。
そしてルシフェルフェザーがダメ押しの推力を放ち、ユメミの一撃は屋上の床を突き抜けながら遂にテンタル星人を押し潰した。
~~~やったぞユメミ!~~~
ギガンティック・エスペランザがコンクリートの床にささり、コンクリートの破片で生まれた砂煙をあげている。
大槌の下ではテンタル星人の肉体は分解され光に変わり、長い時間をかけて
彼の本来いた空間に帰ってゆくだろう。
「ここ、視聴覚室じゃん」
そしてユメミが周囲を見るとその場所は夕方に自分がいた視聴覚室であった。
「廃部じゃねーかよ」
ユメミはマナの力を使い右手に魔法の喫煙具を生み出した。
~~~ユメミ、未成年者の喫煙はニコチンの有無に関わらず補導の対象だぞ。~~~
「それより、UCOの人たちは、無事なの?」
テンタル星人とギリギリの戦いを繰り広げたのは破壊の影響を考慮したからだ。これで死傷者が出ていたらやりきれない。
~~~無事だ。多少、身体を弄られたものもいるかもしれないがな。よくやった、ユメミ。~~~
「そうなんだ。よかった」
そう言いながらユメミは笑顔を浮かべる。
「ほんとに、よかった」
ユメミの笑顔は天井に空いた穴から差し込む月の光に照らされている。
そこには彼女が久々に感じた心からの喜びで輝いていた。