魔法少女はギャルじゃない! 【魔法少女ユメミ97】 作:葛川忍
苦難を前にしたとき、物語の主人公は奇跡の力を手に入れる。
魔法少女ユメミ。
魔法少女の華々しい姿とギャルのスタイルを融合させた空想じみた姿。
それがユメミの手に入れた力だった。
「マジかよ………………。完全に厨二病じゃん」
自分の意志で起こした変化にも関わらずユメミは一瞬我に返る。もっとも返るべき我は既に変わってしまっている。
そして自分に狙いを定め伸びてきた触手の存在を一瞬失念してしまっていた。
~~~呆けている場合かユメミ! 迎撃しろ!~~~
「迎撃って………………うわあ!!」
空中でユメミの身体に触手が絡みつく。
足首から太腿に、腰に、柔らかな胸に。
強烈に締め付けられた痛みにユメミは顔を歪ませた。
「あっ………………ぐううッ!!」
~~~ユメミ! 腕を取られたら厄介だぞ! 切り裂け!~~~
「切り裂けったって……!」
~~~刃物だ! 想像しろ!~~~
「刃物……!」
伸ばされた触手が腕を絡めとりユメミの自由を奪おうと鎌首をもたげた瞬間、ユメミは手の中に切り裂く為の武器を想像した。
「やめろっつってんだよ!!」
チヂヂヂヂヂ、という音と共に伸び出た刃がピンク色の光を曳きながら一閃し、黒く滑る触手が蜜色の血をまき散らしながら切り飛ばされる。
「セクハラだっつの!!」
ユメミは体に巻き付いた触手を切り裂き捕縛から逃れることに成功した。
「やった!」
自分を守るための武器を手にした興奮と捕縛を逃れた安堵を同時に覚え、ユメミは顔を明るくする。
~~~安心するにはまだ早いぞ。着地まで5秒。テンタル星人が待ち構えてるぞ。~~~
ユメミは身体が地球に引っ張られているのを感じ青ざめた。
何か手を打たねばならない。
「ヤバいじゃん! なんとかしてよ!」
~~~君がなんとかするんだ! この身体は君の身体だろう?~~~
ユメミの目に先ほどまでいた雑居ビルの屋上が迫る。
そして落下してくるユメミに眼球を向けテンタル星人が触手を伸ばし待ち構えている。
「なんとかって! どうすれば!」
~~~飛ぶんだユメミ! 飛ばないまでも、落下速度を軽減できれば手はある。君は魔法少女だろう!?~~~
魔法少女ユメミ。
それはなにも今さっきの瞬間に生み出されたものではない。
その物語はユメミが子供のときには既にその存在はあった。
ユメミの夢の中に。
「わーったよ! 飛べばいいんでしょ!? 飛べば!」
~~~飛べる! 君ならできるんだ!~~~
魔法少女ユメミ。
それは彼女が子供の時の空想で生みだされた正義の魔法少女。
夢と希望を力に戦う世界で一番カッコいいギャルの英雄《ヒーロー》。
空を翔ぶなど、夢じゃない。
「
テンタル星人がユメミを迎え撃とうと伸ばした触手の弾幕が殺到した瞬間、ユメミの背中に羽根が生まれ触手が絡みつく寸前に一瞬滞空した。
それは白く輝く光の羽根であった。
~~~今だユメミ!~~~
クラウスの声が響く。
ユメミにもう迷いはない。
「必殺! 堕天蹴り!!」
それは物語の英雄が放つにはいささか単調すぎる一撃だった。
光の羽根から生まれた局所的な重力推進により勢いをつけた単なる質量攻撃。
即席で生みだした技であったが、ユメミのブーツはテンタル星人の胴体に凄まじい威力で突き刺さった。
「トゥルルッ!? ピイイイイイイイ」
テンタル星人はユメミに触手を絡ませるのに失敗し壁に叩きつけられられ身体の機能を麻痺させたのである。
◆
「トゥルルッ!? ピイイイイイイイ」
テンタル星人を急降下の質量攻撃で吹き飛ばしたユメミは反動を受けコンクリートの床を転がったが、すぐに立ち上がり倒れたテンタル星人を見下ろす。
見下ろすなり、背中に輝く白い翼が光の粒子と共に消えた。
「_____やったの?」
俯瞰的に見ればあまりにも芝居じみた状況にユメミは戸惑った。
宇宙人の力を借りて自分が過去に設定したヒーローに変身し、敵の宇宙人と戦う。
フィクションだとしてもやりすぎだろう。
しかし、クラウスはフィクションの存在ではなかった。
~~~よくやったユメミ。今のうちにトドメを刺そう。~~~
トドメ。
その言葉を聞きユメミは自分が構成した魔法のカッターナイフに急な重みを感じた。
「トドメって、殺せってこと!?」
~~~他に手があるか? その為に融合したのだ。~~~
「他の手を考えろよ! あたし、生き物殺すなんてしたくないよ!」
ユメミは壁際で呻くように身をよじるテンタル星人を前に戦う意志が消え失せてしまった。
虫以外の生命を奪った経験などない。
そしてユメミにとって人の形をした異星人の生命を奪うのは殺人に近いストレスを感じたとしても無理はないだろう。
~~~君の星の倫理観で考えるな。我々の次元では生命という概念は古い。~~~
「難しく言うなって! オタクくんかよ! とにかく、無理!」
ユメミが叫ぶと同時に手の中に握っていた魔法のナイフが消える。
戦意が喪失していた。
~~~ユメミ!~~~
ユメミの迷いを好機と見たのだろう。
肉体の安定を復活させたテンタル星人は触手を伸ばした。
到底反応できない速度だった。
「あがッ!! ________ぐッ」
タール色の触手が一気にユメミに巻き付く。
細い首、四肢、胴体。
濁った粘液を擦り付けながらギリギリとユメミの肉を締め付けている。
~~~ユメミ!!~~~
「あぎゅ!! ぐ……………………くるしっ…………ぃ」
触手は全身の骨を圧し折るほどの締め付けにユメミは呻いた。
クラウスと融合する前であればユメミは既に身体中の骨を粉砕されていてもおかしくない。
だが宇宙の力を取り込んだユメミはテンタル星人の攻撃に耐えてしまう。
そしてそれは不幸であった。
~~~ユメミ!! 戦え!! 単純な戦力はこちらが上なんだ。戦えない相手じゃない!!~~~
「そんなこと……………………言ったって…………」
戒めを解こうと力を籠めるユメミ。しかしそれは戦うためではない。逃れるためだ。
気力が既に萎えていた。
~~~ユメミ!! 諦めるな!!~~~
必死に手足を動かそうとするユメミだがまるで蜘蛛に捕らわれた蝶のように微かな抵抗しかできない。
気が付けば身体を真っすぐ一本に縛られ、宙に浮かされていた。
「うるさいッ……………………」
ユメミの身体は巻き付いた触手のせいでバストや太腿が不自然に強調され嗜虐の欲望を催すように拘束され宙吊りにされている。
~~~ユメミ!!~~~
「うるさいんだよッ!! _____きゃああああああああああ!!」
テンタル星人はより暴力的な手段をとる。
触手でユメミを振り回しコンクリートの床や壁に叩きつけ始めた。
「あぎッ!! あがッッッ!! あぎゃあッッッ!!」
しかしユメミにとっての不幸はクラウスと融合している事だった。
叩きつけられるたびに鋭い痛みが走るものの、宇宙の力を得た身体はかすり傷ひとつ負うことなく嬲られるに任せるしかできない。
「もうやだ!! もう嫌だ!! 誰か助けてよ!! 助けてよおおおおおおお!!」
遂に泣き叫ぶユメミだがまるで子供が玩具に乱暴するようにしてユメミの身体は何度も叩きつけられた。
その度に骨を震わすような痛みが走る。
しかしそれでもユメミの身体は守られ気絶することもできなかった。
「クラウス!! 夢にして!! こんなの、夢にしてよ!!」
苦痛の中でユメミはクラウスが言っていた事を思い出す。
クラウスには出来事を夢にしてしまう能力があると。
しかし、クラウスの返答は絶望的なものだった。
~~~すまないユメミ。私のその能力は、君の精神が完全に失われた時にしか発動しない。今回は、諦めてくれ~~~
「そんな…………!! __________モゴォッ!?」
絶望に顔色を失ったユメミの口内に違う触手が突然侵入した。
喉奥に達する深さで口腔を蹂躙し、分泌した粘液がユメミの唾液と絡みつく。
~~~肉体の破壊が不可能とみて、精神を破壊するつもりだ。ユメミ。すまないが、耐えてくれ。~~~
「ふざけんなよ」そう言いたかったが口内の触手が舌を押さえつけ声にならない。
そしてユメミの口内を前後しごくように動く触手の先端から苦く生臭い液体が噴出された。
「_____んぶ!? おぶ__________げぽッ!? ぶ……………………ひッ♡♡♡」
テンタル星人の体液を喉奥に流し込まれてすぐ、ユメミは脳が熱くなるような痺れを感じ眼を見開く。
それは催淫性を持つように変質させた体液であった。
「んぎゅ_____♡ ぎゅぶッ♡ んええええええええええ♡♡♡」
触手はユメミの口内を支配しながら別の部位に浸食を開始する。
レオタードに守られた乳房の先端をコリコリと引っ搔き、アンダーラインに這わせた触手も別の突起をグニグニと責める。
「ぶぷッ♡♡ ほぶっ♡♡♡ あえへええええええええッッッッッ♡♡♡」
自分でするのとは比べ物にならない暴力的な快楽責めにユメミの脳は沸騰し思考する機能を失った。
そのためテンタル星人の身体がコンクリートの床に沈み始めたことにすら気づかない。
~~~亜量子空間に引きずり込むか。パターン通りだな。ユメミ。
既にユメミにクラウスの声は聞こえているが届いていない。
いつの間にか裏返ったカエルのように身体を開かされ、触手で身体中を嬲られたまま悶えている。
「トゥルルルル。トゥルルルルルルルルル」
テンタル星人に表情を表す機能はないが、しかしまるで勝ち誇るように奇妙な鳴き声を出しながら床に沈み、ユメミを凌辱しながら亜量子空間に消えてゆく。
ユメミの身体が亜量子空間に引きずり込まれる寸前、ユメミの口から一瞬触手が引き抜かれた。
「あひッッッ♡ ひうううううううッッ♡♡♡ なにこれぇッ♡♡♡ きもち♡♡ あっ、ダメ♡♡♡ ダメッ♡♡ こんなの、ダメエエエエエエ♡♡♡」
◆
沈む夕日が照らす雑居ビルの屋上。
文明保護官の異星人、クラウスと
「魔法、……って」
苦笑するユメミにクラウスは答える。
その場面は先ほどクラウスが
~~~ひとつ、君は君が想像しうるものであれば具現化できる。カッターナイフのようなものから、例えば空を翔ぶ為の羽根のようなものまで。これは私の機能を貸す形だ。~~
「無敵じゃんそれ」
クラウスはユメミが未成年にも関わらず喫煙具を使っている事を指摘しなかった。
ニコチンが含まれていないなら違法ではない。
それよりも伝えるべきことがある。
~~~もうひとつ、君と融合したことにより私の中の眠っていた魔法の機能が目覚めた。それは君と融合した時点より後の出来事を夢にできる能力《チカラ》だ。~~
「無敵じゃん」
だがクラウスは魔法発動の条件を敢えて隠すことにした。
苦痛や絶望を無条件にリセットできると思わせた方がユメミの戦意が維持しやすいと判断したためである。
~~~だが、回数に制限がある。夢にできる回数は
「なんか回数中途半端じゃね?」
既に物語は廻《く》り返していた。
96回。
クラウスがその残り回数を多いと感じているか、少ないと感じているかはわからない。
これは魔法少女ユメミの受難の物語。
戦いを通じて異星人のクラウスと心を通わすまでの物語。
そして。廻理夢《めぐりユメミ》が何者かになるための物語。
【第一話・完】