魔法少女はギャルじゃない! 【魔法少女ユメミ97】 作:葛川忍
encount#1
その数字は宇宙から地球に落ちて来た文明保護管クラウスに残された
既にクラウスが物語を夢にした回数をユメミは知らない。
そしてそれは淫靡な夢であった。
◆
「_____やったの?」
自らの質量を使った急降下キックでテンタル星人を行動不能にしたユメミは雑居ビルの屋上に立ち上がった。
表情には有利をとった興奮より戸惑いの色が濃い。
まだ身体も心も状況に適合していない。
~~~よくやったユメミ。一旦、逃げるぞ~~~
ユメミの身体に融合したクラウスは彼女の鼓膜に直接信号を送り意志の疎通をとる。
「逃げるって、このまま放っておいていいの!?」
~~~では聞くが、君に人型をした異星人を処分する覚悟はあるか?~~~
ユメミのうなじにゾワゾワした振動が走り、肌が一瞬震える。
「処分って……殺すってこと?」
言葉の意味の重さを理解しユメミの表情が強張る。
今のユメミに異星人を処分できない事をクラウスは既に
~~~厳密には君らの次元の殺害とは意味は異なるがな。後で説明しよう。とにかく一旦逃げるぞ。人目についても後の処理が面倒だ。~~~
「逃げるって、どこに」
~~~君の羽根は飾りか?~~~
クラウスの言葉にユメミはムっとした表情を見せた。
「意地悪な言い方すんなし。陰キャかよ」
~~~議論は後にしよう。テンタル星人が活動を再開するまで時間がない~~~
結局ユメミはクラウスの指示に従い、自らが
「あたし、マジで飛んでる。夢みたい」
戦いの緊張から解放されたユメミは自由に空を飛ぶという地球上でも一部の生物にしか許されていない感覚に初体験の心地よさを感じていた。
癖になりそう、とさえ思っている。
~~~夢じゃないぞ。そこのビルの屋上で一旦今後の行動を練ろう~~~
ユメミとクラウスは近くで一番背の高いビルの屋上に飛び移った。
その異様に気が付く者はこの街にはいない。
この街では誰もが空を見上げる事を忘れている。
「すご……。こんなとこ、絶対入れない」
そこは地上48階のヘリポートだった。
ここも本来であればただの女子高生がひとりで入ることは許されない場所であろう。
ここからは空虚を空虚な経済で回す歓楽街の全てが見えるようだった。
ビルの境界誘導灯は宝石のように赤く輝き、星が光り始め
赤と紫に挟まれたグラデーションの景色にユメミは立っている。
~~~ちょうど、地球人の気配もない。今のうちに状況を整理しよう。聞いているか? ユメミ~~~
「_____え? あ、うん」
ユメミは自分の周囲に広がる世界の景色に心を奪われクラウスの言葉を聞き逃していた。
ここから見える景色は自分がより美しい世界に近づいたと錯覚させる。
~~~私の任務は、地球の文明保護だ。高次元文明による不要な地球文明への接触を防ぐことが役割だ。ちょうど2週間前、人口衛星が海上に落下したニュースを知っているな?~~~
「知らんけど」
事実クラウスのいう通り、この国の人工衛星が都市近くの湾内に落下するというニュースが報じられていた。
大きな被害もなくそのニュースは多くの人の記憶にさえ残らなかった。
しかし、それは人工衛星などではなかった。
~~~それこそが異星人12名を載せた旅行船だったのだ。~~~
「なんかモンスター映画のはじまりみたいじゃん」
~~~そして旅行船の不時着の
「接触って、何が目的なの? 資源調査に来たとか、地球人を連れ去りに来たとか、なんかそういうの? 侵略?」
ユメミは過去にSFアニメから得た発想を並べたが、どうやらそうではないらしい。
~~~地球文明には我々にとって有用な資源も文明的知見もない。彼らの目的は判明していないし、恐らくは個人個人が別の目的をもって活動している可能性が高い。~~~
「なんもわかんないってのと同じじゃん」
クラウスは次の言葉を切り出すのに一瞬の間を置いた。
何かに迷っているようだが、その気持ちをユメミが知ることはない。
ユメミの頭上を旅客機が音を立て過ぎ去った後にクラウスは言葉を紡いだ。
~~~ユメミ。改めて聞く。緊急事態だったので融合という形を選んだが、私は君の意志を尊重しなければならない。君に戦う意志がなければ他の方法を……。~~~
「やるよ」
ユメミは即答した。
短いが、迷いのない響きが言葉にあった。
その躊躇のなさは却ってクラウスを不安にさせる。
~~~地球人は自己の保身を重視するはずだがな。ユメミ。軽く考えていないか? 場合によっては君も死ぬんだぞ。~~~
「正直、あんたに会った時、スゲーわくわくした」
~~~わくわく?~~~
沈む陽の最後の一閃がユメミの瞳と重なる。
境界線を越える最後の一筋であった。
「これでつまんねー日常が終わるんだって」
ヘリポートの境界誘導灯の放つ光でユメミの瞳は輝いていた。
魔法少女のコスチュームと合わさった不安定さが非日常を飾っているようだった。
「正義のヒーロー、かっこいいじゃん。これでわたしもモブじゃなくて何かになれるんだ。やんないわけないじゃん」
クラウスは何も答えない。
ユメミがリポートの縁から下を見下ろすと、歓楽街には人工的な光で虚飾された街が広がっていた。