魔法少女はギャルじゃない! 【魔法少女ユメミ97】   作:葛川忍

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 ユメミは退屈だった。

そしてユメミは自分で選んでいない退屈をひどく嫌う。

退屈とは可能性を殺す時間でもあるからだ。

 

おかしいではないか。

なぜ退屈なのだ。

 

宇宙人と接近遭遇し融合した。

触手の宇宙人と戦い退けた。

魔法少女に変身し空を飛び、超法規的機関の後ろ盾をつけた。

なのに自分は今、昨日と同じように学校の教室で授業を受けている。

 

地球を守る魔法少女が? バカバカしい。

少なくともユメミは教室机に頬杖をつきながらそう思っている。

 

6限目の教室。

白髪の多い教諭が黒板に板書した文字をユメミは追っていない。

 

 「さて、前回の授業を更に発展させましょう。教科書120ページ、『万有引力』ですね。 ニュートンがリンゴが落ちるのを見て思いついたという逸話がありますね。要するに『質量を持つ物同士は、互いに引き付け合っている』」

 

 ユメミは聡い少女である。

広げたノートにペンを走らせもせず、窓の外に広がる空に視線を向けつつも授業内容は頭に入っている。

 

 「この教室でも、私たちの間には引力が働いています。ペン、机、そして人と人。体感できるほどのものではありませんが全てのものはひきつけあっているのです。ロマンティックですね。そしてこの万有引力を重力とも呼びます」

 

 島田教諭は学校教師としては平均的な男で、面白くもなければネタにできる馬鹿さもない。

卒業したら3年で名前を忘れる自信がある。

ユメミの評価はこうだった。

 

 「重力。これ、実はものすごく弱い力でもあります。アニメや漫画では重力がすごく強い力に描かれたりしますね? しかし数値で見ると、こうです」

 

 島田教諭は黒板にチョークを走らせる。

小数点の後にゼロを10個。そのあとに667と書きチョークを止める。

 

 「どうです? 弱い力でしょう。これが重力の力です。なのにわたしたちは自由に空を飛べないし、宇宙に行くにはとんでもないエネルギーを使った宇宙ロケットを使わなければいけない。なぜでしょうね?」

 

 「地球が大きいから」

 

 生徒のひとりが控えめに声を出した。

 

 「その通り。ではその大きい地球が我々人類を大地に縛り付けている力を数値化してみましょう。万有引力の公式です。覚えておいてください。テストに出します」

 

 どうせYOUTUBEで見た知識だろ? とユメミは心の中で嘲った。

 

物理だ科学だ。

ニュートンだアインシュタインだ。

そういう次元で積み重ねてきた知識が全部ひっくり返るような世界に自分はいる。

ユメミはそう思っている。

 

愚かである。

高次元の世界はユメミが自分の力で踏み入った世界ではない。

たまたま別の宇宙から落ちて来ただけのものでしかない。

なのにユメミは自分のアイデンティティをその偶然に乗せようとしている。

 

黒いチョーカーの姿に変わりユメミの首に巻き付くクラウスはユメミが授業に参加していないのが気になった。

黒板には新たに地球の重力から逃れ宇宙に脱出するための数式_____第二宇宙速度の公式が書かれている。

 

「さて。今から皆さんにはこの公式の形をノートに整理してみていただきます。数式をよく見ると、必要な速度に『自分の体重』は一切関係がないことが分かりますね。どれだけ体重が重かろうが、必要な脱出速度は全員同じです。自分の体重を数式に代入しなくていい。これは実にルッキズムに配慮された優しい公式ですね」

 

 クラスで小さな笑いが漏れた。

ユメミはニコリともせず冷たい不満を表情に浮かべている。

クラウスも地球人の授業を聞き面白さを感じている。

もっともその面白さは知識欲を満たす面白さではまったくないのだが。

 

 「あ、大切なことを言い忘れました。大気摩擦と空気抵抗は考えないものとします」

 

 一部の理系好きな生徒が笑う。

しかしユメミはその和やかな授業が腹立たしい。

おそらく今の自分なら第二宇宙速度とやらを無視し宇宙にだって行けるはずだ。

 

既に宇宙の神秘を知る存在が間近にいるのに、なぜ向こうから見れば原始的な物理を学ぶ必要があるのだろう。

ユメミにはこの退屈な時間の意味がわからない。

そしてそれが若さでもある。

 

若さとは、()()()()()でもある。

わからないからこそ、30年以上教壇に立つ教師を軽視し、ユメミと比べ劣っていないクラスメイトを内心で嘲る。

わからないからこそ、宇宙人とも戦える。

廻理(ユメミ)の物語は()()が生み出したものと見る事もできるだろう。

 

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