転生惑星民異世界の空にて高く飛ぶ   作:不知火虚白

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第一話 目覚めた先は

雨音が聞こえる。

 

いや、違う。

 

もう雨は降っていない。

 

聞こえるのは風の音だけだった。

 

男はゆっくりと目を開いた。

 

見知らぬ木造の天井。

 

畳の匂い。

 

障子。

 

和室だった。

 

「……ここは」

 

最後の記憶を思い出す。

 

悪天候。

 

厚い雲。

 

激しい乱気流。

 

零式艦上戦闘機二一型。

 

エンジン不調。

 

高度低下。

 

そして海面。

 

そこまで思い出したところで男は顔をしかめた。

 

「生きてる……のか?」

 

体を起こそうとして胸に痛みが走る。

 

無理はしない方がいいらしい。

 

そう判断して大人しく横になる。

 

その時だった。

 

襖が静かに開く。

 

男は反射的に視線を向けた。

 

入ってきたのは一人の少女だった。

 

黒髪。

 

赤いリボン。

 

黒い和装。

 

どこか上品な雰囲気を纏っている。

 

少女は男と目が合うと少し驚いた顔をした。

 

「えっ」

 

数秒。

 

沈黙。

 

お互いに固まる。

 

先に口を開いたのは少女だった。

 

???「起きた!?」

 

思ったより大きな声だった。

 

男も少し驚く。

 

「えっと……はい」

 

???「本当に?」

 

「たぶん」

 

???「よかったぁ……」

 

少女は胸を撫で下ろした。

 

そして男の顔をまじまじと見る。

 

男も見る。

 

数秒。

 

また沈黙。

 

先に困惑したのは男だった。

 

(誰だろう)

 

見覚えがない。

 

軍人にも見えない。

 

医者にも見えない。

 

そもそも耳や髪飾りの雰囲気が妙に現実離れしていた。

 

少女も同じことを考えているらしかった。

 

???「あの……」

 

「はい」

 

???「ここがどこか分かる?」

 

「分かりません」

 

即答だった。

 

少女は目をぱちぱちさせる。

 

???「え?」

 

「分からないです」

 

???「重桜だけど?」

 

「じゅうおう?」

 

???「重桜」

 

男は首を傾げる。

 

聞いたことがない。

 

少女も首を傾げる。

 

???「知らないの?」

 

「知りません」

 

???「本当に?」

 

「本当に」

 

今度は少女の方が困惑した。

 

重桜を知らない。

 

そんな人間がいるのか。

 

少なくとも彼女の知る常識では考えられなかった。

 

???「じゃあロイヤルは?」

 

「知らないです」

 

???「ユニオンは?」

 

「知らないです」

 

???「鉄血は?」

 

「知りません」

 

少女は固まった。

 

男も困惑していた。

 

何を言われているのか分からない。

 

数秒後。

 

少女はおそるおそる聞く。

 

???「じゃあ……KAN-SENは?」

 

「かんせん?」

 

???「KAN-SEN」

 

「聞いたことないです」

 

完全に沈黙した。

 

男は男で混乱していた。

 

少女は少女で混乱していた。

 

お互いに意味が分からない。

 

やがて少女が呟く。

 

???「えぇ……」

 

男も呟く。

 

「えぇ……」

 

完全に同じ反応だった。

 

---

 

しばらくして。

 

少女は気を取り直したように咳払いする。

 

「私は阿賀野よ」

 

「阿賀野?」

 

どこかで聞いたことがある名前だった。

 

どこだったか。

 

男が考え込んでいると。

 

阿賀野も考え込んでいた。

 

(重桜を知らない)

 

(ロイヤルを知らない)

 

(ユニオンも知らない)

 

(KAN-SENも知らない)

 

(どういうこと?)

 

理解不能だった。

 

そしてつい大声を出してしまう。

 

阿賀野「そんな人いる!?」

 

「えっ」

 

男がびくっとする。

 

阿賀野も慌てる。

 

阿賀野「あ、ごめん!」

 

「いえ……」

 

その時だった。

 

部屋の外から声が聞こえた。

 

???「阿賀野?突然、大声を出してどうしたのですか?」

 

落ち着いた女性の声だった。

 

阿賀野「はいっ!?」

 

阿賀野が飛び上がる。

 

阿賀野「少しよろしいですか」

 

「は、はい!」

 

阿賀野は慌てて立ち上がる。

 

そして男に向き直った。

 

阿賀野「ちょっと待ってて!」

 

「はい」

 

阿賀野は慌ただしく部屋を出ていった。

 

---

 

静かになった部屋。

 

男は天井を見る。

 

状況が全く分からない。

 

ただ一つだけ確かなのは。

 

ここは自分の知る世界ではない。

 

ということだった。

 

---

 

数分後。

 

襖が開く。

 

阿賀野と栗色の長い髪に紫色の瞳のその女性が入ってきた美しい毛並みの9本の尻尾や獣耳を持っていた。

 

???「話は詳しく聞きました。KAN-SENや重桜を知らないと言うのは本当ですか?」

 

「はい」

 

だがどこか病弱そうな印象もある。

 

女性は一礼した。

 

???「初めまして――」

 

そこで。

 

軽く口元を押さえる。

 

???「……ごほっ」

 

咳だった。

 

阿賀野が心配そうに近づく。

 

阿賀野「天城さん!」

 

天城「大丈夫ですよ」

 

女性は優しく微笑んだ。

 

そして改めて主人公へ向き直る。

 

天城「失礼いたしました」

 

その所作はどこか気品に満ちていた。

 

天城「私は天城と申します」

 

男は少し驚く。

 

また聞いたことのある名前だった。

 

だが今はそれより先に言うべきことがある。

 

天城は柔らかく微笑みながら尋ねた。

 

天城「まだお名前を伺っておりませんでしたね」

 

男は小さく頷く。

 

そして初めて自分の名を口にした。

 

「――東雲昌幸です」

 




ハーメルンで小説を読んでいたら書きたくなって書きました。
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