戦姫絶唱シンフォギア 雪音クリスは幸せになりたい 作:牛☆大権現
「だから絶対にない」
雪音クリスは断言した。
目の前には緒川慎次。
その隣には風鳴翼。
そしてテーブルの上には。
大量のお見合い資料。
「ない」
一枚めくる。
「ない」
もう一枚。
「ない」
さらにもう一枚。
「ない」
緒川が言った。
「まだ一ページ目です」
「燃やすぞ」
⸻
適合者保護局。
人生設計面談第二回。
クリスは本気で帰りたかった。
「何が悲しくて知らねえ男と会わなきゃならねえんだ」
「人生設計の一環です」
「国家は暇なのか」
「元シンフォギア装者は国家機密です」
「だからって結婚まで管理するな」
⸻
翼が静かに紅茶を飲む。
「私も同意見です」
「だろ?」
「ですので先方を全員断りました」
「だよな」
「代わりに叔父上を推薦しました」
「は?」
緒川が咳払いした。
「風鳴弦十郎、五十二歳」
「やめろ」
「年収極めて良好」
「やめろ」
「健康状態良好」
「やめろ」
「人格評価極めて良好」
「やめろ!」
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翼は真顔だった。
「問題がありますか」
「ありまくりだろ!」
「叔父上は優良物件です」
「そういう問題じゃねえ!」
「どこが不満ですか」
「全部だ!」
「具体的に」
「だから全部だ!」
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そこで翼は首を傾げた。
「ならばなぜ顔が赤いのですか」
「っ!?」
クリスが固まる。
翼は追撃した。
「先程から叔父上の話になると声量が二割増しています」
「気のせいだ!」
「心拍数も上昇しています」
「なんでわかる!」
「歌手ですので」
意味がわからない。
⸻
その日の夜。
クリスはベッドに倒れ込んでいた。
考える。
考えない。
考える。
やっぱり考える。
「……ねえよ」
天井を見る。
「司令とかねえだろ」
あるわけがない。
ずっと上司だった。
保護者だった。
命の恩人だった。
家族みたいなものだった。
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家族。
そこで思考が止まる。
なぜだろう。
胸の奥に妙な違和感が残る。
家族。
本当にそれだけだったか。
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スマホが鳴った。
グループチャット。
響
『クリスちゃん好きな人いるの?』
切歌
『いるデス?』
調
『いる?』
未来
『いるんですか?』
マリア
『いるの?』
翼
『叔父上ですか』
クリス
『死ね』
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翌日。
風鳴家。
「……何をしている」
玄十郎は低い声で言った。
翼と緒川は正座していた。
「叔父上の将来について」
「余計なことをするな」
「しかし」
「しかしではない」
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玄十郎はため息を吐く。
わかっている。
周囲が何を考えているか。
だが。
それはありえない。
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雪音クリスは元部下だ。
守るべき相手だった。
傷だらけの少女だった。
それ以上ではない。
そうでなければならない。
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そう思った瞬間。
ふと。
ある光景が脳裏をよぎった。
最近のクリス。
笑うことが増えた。
仲間といる時の顔。
後輩を指導する姿。
戦場ではなく日常にいる姿。
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玄十郎は眉間を押さえた。
「……駄目だ」
何を考えている。
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そのとき。
緒川の端末が鳴った。
空気が変わる。
翼も立ち上がる。
任務の顔。
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「長野です」
緒川が言った。
「失踪事件」
「またか」
翼の目が細くなる。
ここ数ヶ月。
似た事件が続いていた。
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行方不明者。
共通点。
全員が高齢者。
全員が発見される。
だが。
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老衰死体として。
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しかも。
死後鑑定ではありえない速度で。
数十年分。
寿命を失ったかのように。
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「……寿命を奪われている」
翼が呟く。
緒川も頷いた。
「ありえません」
「ありえないから問題なのです」
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長野県某所。
山奥。
朽ちた寺。
そこに白装束の集団が並んでいた。
中央には老人。
長い白髪。
静かな目。
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老人の前で。
一人の男が崩れ落ちる。
急速に老化し。
白骨へ変わる。
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誰も悲鳴を上げない。
誰も止めない。
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老人は目を閉じた。
「あと少し」
静かな声だった。
「もう少しで届く」
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背後の弟子が問う。
「何にですか」
老人は月を見る。
数千年。
追い続けたもの。
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「別れのない世界だ」
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老人の瞳だけが。
異様に悲しかった。
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一方その頃。
クリスは自宅で酒を飲んでいた。
飲みながら。
スマホを見る。
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そこには。
玄十郎からの一通。
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『先日はすまなかった』
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たったそれだけ。
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クリスは数秒見つめる。
そして。
顔を覆った。
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「……くそ」
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なぜだ。
敵と戦う方がよほど楽だった。
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返信欄を開く。
閉じる。
開く。
閉じる。
開く。
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最終的に送ったのは。
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『別に気にしてねえ』
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八文字。
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送信後。
ベッドへ突っ伏した。
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その頃。
メッセージを受け取った玄十郎も。
なぜか深いため息を吐いていた。
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二人ともまだ知らない。
数千年の執着が。
そして東雲レイとの出会いが。
彼らの人生を大きく変えることを。