戦姫絶唱シンフォギア 雪音クリスは幸せになりたい 作:牛☆大権現
雪音クリスは困っていた。
非常に困っていた。
目の前の少女のせいで。
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「クリス先輩!」
元気よく敬礼。
「クリス先輩!」
また敬礼。
「クリス先輩!」
三回目。
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「うるせえ!」
ついに怒鳴った。
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しかし少女は全くへこたれない。
むしろ目を輝かせる。
「はい!」
「返事だけは良いな!」
「ありがとうございます!」
「褒めてねえ!」
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東雲レイ。
十七歳。
現役シンフォギア装者。
そして。
現在のイチイバル継承者。
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クリスは頭を抱えた。
「誰だよこんな犬みたいな奴連れてきたの」
「司令です!」
「アイツか!」
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訓練場の端で。
風鳴弦十郎が咳払いした。
「適任だと思った」
「帰れ!」
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レイはきょろきょろ周囲を見る。
巨大な訓練施設。
無数の機材。
そして。
かつて世界を救った伝説達。
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目が輝いていた。
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「本物だ……」
ぽつり。
呟く。
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「私」
レイは拳を握る。
「ずっと憧れてました」
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クリスは少しだけ黙った。
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レイは続ける。
「小さい頃、テレビで見たんです」
「月が落ちてくるのを止めた戦い」
「世界中を救った歌」
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「だから」
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まっすぐ。
クリスを見る。
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「私、クリス先輩みたいになりたいんです」
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クリスは反射的に目を逸らした。
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そういうのは苦手だった。
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昔の自分を知っているから。
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世界を救った英雄。
そんな言葉で片付けられる人間じゃない。
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裏切った。
傷付けた。
殺そうとした。
利用された。
憎んだ。
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だから。
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「やめとけ」
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クリスは言った。
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「アタシみたいになるな」
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レイはきょとんとした。
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「なんでですか?」
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「ろくな人生じゃねえ」
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すると。
レイは笑った。
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「でも今は笑ってるじゃないですか」
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クリスが固まる。
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「だから私はなりたいです」
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その笑顔に。
ほんの少しだけ。
昔の自分が重なった。
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響だった。
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誰かを信じることを諦めなかった馬鹿。
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そして。
今は。
自分もそうなってしまった。
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「……チッ」
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顔を逸らす。
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「まず射撃だ」
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「はい!」
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「構えろ」
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「はい!」
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「力入れすぎだ!」
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「はい!」
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「だから力入れすぎだ!」
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「はい!」
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「話聞け!」
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訓練場に笑い声が響いた。
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少し離れた場所。
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玄十郎はその様子を見ていた。
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隣には翼。
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「似ていますね」
翼が言う。
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「何がだ」
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「昔のクリスと」
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玄十郎は黙った。
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確かにそうだった。
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傷付きながら。
必死に前を向こうとしていた頃の。
あの少女に。
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少し似ている。
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その時だった。
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警報。
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施設全体に鳴り響く。
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赤色灯。
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一瞬で空気が変わる。
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「緊急事態です!」
オペレーターの声。
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「長野県山岳地帯!」
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「調査部隊との連絡途絶!」
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モニターが映る。
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映像は乱れている。
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だが。
ひとつだけ見えた。
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白装束。
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そして。
護符。
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空中に浮かぶ無数の札。
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「またか」
翼が呟く。
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レイが真剣な顔になる。
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クリスも立ち上がった。
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平和な時間が終わる。
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戦場の顔。
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その時。
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映像の向こうで。
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白髪の老人がこちらを見た。
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モニター越しなのに。
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まるで目が合った気がした。
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老人は微笑む。
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「見つけた」
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通信が途切れた。
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静寂。
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誰も喋らない。
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ただ。
クリスだけが。
理由のわからない悪寒を覚えていた。
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その頃。
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山奥。
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蓬莱山本拠地。
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徐福は静かに目を閉じる。
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弟子が問う。
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「なぜあの娘なのです」
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徐福は答える。
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「最も執着を知る女だからだ」
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親を失った。
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仲間を失った。
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居場所を失った。
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何度も失った。
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だからこそ。
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「試してみよう」
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徐福は笑う。
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「本当に人は別れを受け入れられるのか」
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その瞳には。
狂気よりも。
深い悲しみがあった。
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そして。
クリスはまだ知らない。
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この少女。
東雲レイとの出会いが。
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自分の人生を。
もう一度大きく変えることになると。
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