戦姫絶唱シンフォギア 雪音クリスは幸せになりたい 作:牛☆大権現
二つの歌がぶつかる。
未来へ進もうとする歌。
過去へ還ろうとする歌。
フォニックゲイン同士が衝突した瞬間、蓬莱山全体が震えた。
轟音。
空間そのものが軋み、岩壁に無数の亀裂が走る。
響が拳を叩き込み、翼の斬撃が結界を裂き、マリアのアガートラームが仙術陣を穿つ。
クリスも新型イチイバルを展開し、一斉掃射を放った。
しかし。
弾丸は届かない。
蓬莱機関を包む光の膜が、すべてを受け止めていた。
「効いてねぇ!?」
切歌が叫ぶ。
エルフナインは端末を見つめ、顔色を変える。
「違います!」
「蓬莱機関が世界中のフォニックゲインを取り込んでいます!」
「私たちの歌も……吸収されてる!」
未来が神獣鏡を掲げる。
浄化の光が広がる。
だが、それすら巨大な術式へ飲み込まれていった。
徐福は静かに歌い続ける。
――散るな
――朽ちるな
――還れ
――還れ
その歌に応えるように、仙道たちも唱和する。
李天華が印を結ぶ。
霊脈が逆巻き、巨大な仙人の背後に七つの光輪が現れた。
それは七つのシンフォギアの残響。
ガングニール。
アメノハバキリ。
イチイバル。
イガリマ。
シュルシャガナ。
アガートラーム。
神獣鏡。
すべての歌が、一つの歌へ呑み込まれていく。
「こんなの……!」
響が歯を食いしばる。
「歌じゃない!」
徐福は静かに目を開いた。
「歌だ。」
「別れを否定する歌だ。」
「誰も死なず。」
「誰も泣かず。」
「誰も失わぬ。」
「それが何故、間違いなのだ。」
クリスは答えられない。
玄十郎を見る。
レイを見る。
もし本当に。
誰も失わない世界があるなら。
それは。
幸せなのではないか。
その迷いが、新型イチイバルへ伝わる。
砲門が震えた。
「クリス!」
響が叫ぶ。
クリスは我に返る。
だが遅い。
フォニックゲインが乱れた。
七人の新型シンフォギアが同時に共鳴し、暴走寸前まで出力を上げる。
エルフナインが絶叫した。
「駄目です!」
「心が揺らぐと、新型シンフォギアは制御できません!」
徐福は悲しそうに笑った。
「分かっただろう。」
「愛は、人を弱くする。」
「失う恐怖は、人を縛る。」
「だから私は。」
歌が一段高くなる。
――永久に巡れ
――永久に眠れ
――我が手に蓬莱あり
その瞬間。
巨大な仙人が両手を広げた。
世界中の霊脈が共鳴する。
空が止まる。
風が止まる。
落ち葉が空中で静止した。
神殿の外。
山を流れていた滝が止まり、
飛び立っていた鳥も羽ばたきを止める。
世界が、息を止めた。
「そんな……」
未来が震える。
「時間が……止まってる?」
エルフナインが首を振る。
「違います……!」
「生命活動そのものを固定しているんです!」
誰も老いない。
誰も死なない。
誰も生まれない。
完全なる停滞。
蓬莱機関は、永遠を実現し始めていた。
地下祭壇。
拘束されたレイたちも、その異変を感じていた。
「これが……」
蒼が呟く。
「永遠……」
レイは静かに目を閉じた。
「違う。」
小さな声だった。
「こんなの。」
「生きてるって言わない。」
徐福はその言葉を聞いた。
ほんの一瞬だけ。
その瞳が揺れる。
しかし。
すぐに歌は続く。
クリスはイチイバルを握り締める。
何もできない。
撃っても届かない。
歌っても呑み込まれる。
徐福の問いに。
まだ答えられない。
その時だった。
玄十郎が一歩前へ出た。
歌わない男が。
誰よりも静かに歩く。
クリスが思わず叫ぶ。
「司令!」
玄十郎は振り返らない。
ただ一言だけ残した。
「なら。」
「答えを見つけてこい。」
その背中を見た瞬間。
クリスの心臓が大きく脈打った。
守られるだけでは終われない。
守りたい。
でも。
どう守ればいいのか。
その答えは、まだ見つかっていなかった。
徐福の歌はなおも神殿へ響く。
未来へ進む歌は、まだ生まれていない。
だからこそ。
戦いは、まだ終わらない。
いや――
ここからが、本当の始まりだった。