戦姫絶唱シンフォギア 雪音クリスは幸せになりたい   作:牛☆大権現

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 「繋いだ手だけが紡ぐもの」

 蓬莱機関の中心部。

 

 二つの歌が激しくぶつかり合っていた。

 

 徐福の《蓬莱・無窮仙歌》。

 

 そして七人のシンフォギア奏者が紡ぐフォニックゲイン。

 

 だが、その均衡は長く続かなかった。

 

 蓬莱機関は七つのシンフォギアを核としている。

 

 歌えば歌うほど、術式はその歌を吸収し、さらに巨大な力へと変換していく。

 

「このままじゃ埒が明かない!」

 

 翼がアメノハバキリを振るう。

 

 しかし斬撃は巨大な仙人の腕に受け止められ、まるで水面を切ったかのように霧散した。

 

 響の拳も届かない。

 

 未来の神獣鏡による浄化も、術式全体を止めるには足りない。

 

「みんな!」

 

 エルフナインの声が通信に響く。

 

「外側から破壊するのは無理です!」

 

「だったらどうすればいい!?」

 

 マリアが叫ぶ。

 

 エルフナインはモニターを見つめながら答えた。

 

「中からです!」

 

「え……?」

 

「蓬莱機関は七つのシンフォギアの共鳴で成立しています!」

 

「つまり!」

 

「中にいる後継者たちが共鳴を切れば、術式は崩壊します!」

 

 全員が息を呑んだ。

 

 その頃。

 

 地下祭壇。

 

 レイたちは未だ拘束されたままだった。

 

 全身に術式が絡みつき、自由はない。

 

 それでもレイは笑った。

 

「聞いた?」

 

 蒼が頷く。

 

「聞こえた。」

 

「なら。」

 

 レイはゆっくり目を閉じる。

 

「私たちの番だ。」

 

 クリスとの訓練。

 

 何度も怒鳴られた日々。

 

 射撃姿勢。

 

 呼吸。

 

 歌。

 

 全部思い出す。

 

 レイは胸元の砕けたペンダントへ手を添えた。

 

「先輩。」

 

「借ります。」

 

 その瞬間だった。

 

 砕けていたペンダントから、小さな光が漏れ始める。

 

「えっ!?」

 

 蒼が目を見開く。

 

 他の五人のペンダントも同じだった。

 

 壊れている。

 

 変身もできない。

 

 それでも。

 

 歌だけは残っていた。

 

「そうか……」

 

 レイは静かに笑う。

 

「シンフォギアは装甲じゃない。」

 

「歌なんだ。」

 

 六人は同時に歌い始めた。

 

 戦うためではない。

 

 誰かを守るためでもない。

 

 受け継いだ想いを繋ぐための歌だった。

 

 その歌は術式の内側を震わせる。

 

 徐福が初めて眉をひそめた。

 

「馬鹿な……。」

 

 李天華も驚愕する。

 

「師よ!」

 

「術式が!」

 

 蓬莱機関の光が揺らぎ始める。

 

 外側。

 

 クリスはその変化を感じ取った。

 

「レイ……!」

 

 地下から聞こえてくる。

 

 歌。

 

 まだ小さい。

 

 けれど確かに届いている。

 

 玄十郎が静かに頷いた。

 

「信じろ。」

 

 その一言だった。

 

 クリスは目を閉じる。

 

 これまで差し伸べられてきた手を思い出す。

 

 玄十郎。

 

 響。

 

 翼。

 

 未来。

 

 そして。

 

 レイ。

 

 誰一人として、自分を見捨てなかった。

 

 だから。

 

 今度は自分が歌う番だ。

 

 イチイバルを静かに構える。

 

 深く息を吸う。

 

 そして。

 

 歌い始めた。

 

 ♪なんでなんだろ?

 

 心がグシャグシャだったのに

 

 差し伸ばされた温もりは嫌じゃなかった……

 

 優しい歌声が神殿に響く。

 

 22話で歌おうとした《魔弓イチイバル》とは違う。

 

 怒りではない。

 

 憎しみでもない。

 

 感謝の歌だった。

 

 ♪ぶっ放せッ!

 

 激昂、制裁、鼓動!全部

 

 空を見ろ……

 

 零さない……

 

 みつけたんだから

 

 イチイバルが輝きを増す。

 

 新型シンフォギアが、初めて完全に奏者と同調する。

 

 エルフナインが涙を浮かべた。

 

「成功した……!」

 

「欠陥が……!」

 

「消えています!」

 

 未来が笑う。

 

「違う。」

 

 神獣鏡を握り締める。

 

「消えたんじゃない。」

 

「乗り越えたんだよ。」

 

 クリスの歌はさらに高く響く。

 

 ♪嗚呼ッ強く……

 

 強く!握る手は

 

 とてもあったかかった

 

 その瞬間。

 

 地下祭壇でレイたち六人の歌が重なった。

 

 内側と外側。

 

 二つの歌が一つになる。

 

 蓬莱機関全体が大きく震えた。

 

 巨大な仙人の胸に、初めて一本の亀裂が走る。

 

 徐福が目を見開く。

 

「……そうか。」

 

 その声は悲しげだった。

 

「それがお前たちの答えか。」

 

 クリスは歌い続ける。

 

 もう迷いはない。

 

 失うことは怖い。

 

 それでも。

 

 繋いだ手は離さない。

 

 その歌こそが、自分の答えだった。

 

 神殿を満たしていた停滞の空気が、少しずつ動き始める。

 

 止まっていた桜の花びらが舞う。

 

 止まっていた滝が再び流れ出す。

 

 世界が。

 

 ほんの少しだけ、未来へ動き始めた。

 

 しかし。

 

 蓬莱機関の最奥。

 

 巨大な仙人がゆっくりと口を開く。

 

 人の声ではない。

 

 世界そのものが歌うような低い響き。

 

 徐福は静かに目を閉じる。

 

「……目覚めたか。」

 

 その言葉とともに、仙人の瞳に黄金の光が宿る。

 

 真の蓬莱機関が、ついに動き出した。

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