戦姫絶唱シンフォギア 雪音クリスは幸せになりたい 作:牛☆大権現
蓬莱機関が咆哮した。
徐福の歌を離れた巨大な仙人は、もはや術者の制御すら受け付けていなかった。
黄金の霊脈が暴走し、神殿を覆う術式が音を立てて砕ける。
それは崩壊ではない。
制御を失った永遠が、世界を書き換えようとしていた。
「止めろッ!」
響が飛び出す。
ガングニールの拳が巨大な腕へ叩き込まれる。
だが、浅い。
仙人の腕は揺らぎすらしない。
翼の斬撃も、マリアの槍も、調と切歌の連携も届かない。
未来の神獣鏡が浄化の光を放つ。
しかし暴走した蓬莱機関は、その光すら飲み込んでいく。
「駄目です!」
エルフナインが叫ぶ。
「今の蓬莱機関は七つのシンフォギアを核にしています!」
「私たちの歌だけでは出力が足りません!」
神殿が大きく揺れた。
地下祭壇。
拘束されていたレイたちの足元にも亀裂が走る。
術式が崩れ始めている。
「今なら!」
蒼が叫ぶ。
レイは砕けたペンダントを見つめた。
もう変身はできない。
聖遺物は砕かれ、フォニックゲインもほとんど残っていない。
それでも。
「まだ終わってない。」
レイは笑った。
「私たちには、歌がある。」
六人は互いを見た。
誰も迷っていない。
ここまで来れば分かる。
自分たちは、先輩たちを超えるために選ばれたのではない。
未来を繋ぐために選ばれたのだ。
レイは静かに胸へ手を当てた。
「雪音先輩。」
「私……返しません。」
小さく笑う。
「託します。」
その言葉に応えるように、砕けたイチイバルの欠片が淡く輝いた。
蒼も。
薫も。
ノアも。
ミナも。
リリィも。
六人全員のペンダントが光を放つ。
そして。
六つの光は地下を貫き、天へ向かって駆け上がった。
エルフナインが息を呑む。
「これは……!」
七人の新型シンフォギアへ、それぞれ対応する光が吸い込まれていく。
響のガングニール。
翼のアメノハバキリ。
クリスのイチイバル。
未来の神獣鏡。
すべての装甲が、もう一段階輝きを増した。
旧型でも、新型でもない。
先代と後継者。
二つの世代の歌が重なって初めて完成する、新たな装い。
「まさか……」
エルフナインの目から涙がこぼれる。
「適合係数が……融合してる……!」
「継承データが!」
「完成したんです!」
クリスは胸元のペンダントを見つめた。
温かい。
まるで誰かが背中を押してくれているようだった。
『先輩。』
レイの声。
『後は、お願いします。』
クリスは静かに目を閉じる。
もう迷いはなかった。
「任せろ。」
その一言だけで十分だった。
その頃。
徐福は膝をついていた。
蓬莱機関はもう彼の歌を必要としていない。
二千年間歌い続けた願いは、術式だけを残して独り歩きを始めていた。
「……愚かだった。」
徐福は苦笑する。
「永遠を願った時。」
「私は、命そのものを忘れていた。」
クリスは老人へ歩み寄る。
銃を向けない。
怒鳴らない。
「アンタの歌。」
静かに言う。
「ちゃんと届いた。」
徐福は目を見開く。
「だから。」
「今度は、アタシたちの番だ。」
その言葉を聞いた老人は、ゆっくりと目を閉じた。
長い長い旅が終わるように。
「……頼む。」
その一言とともに。
徐福の身体が光へ変わる。
最後に残ったフォニックゲイン。
二千年積み重ねた歌。
そのすべてが蓬莱機関ではなく、七人のシンフォギアへ流れ込んだ。
神殿が眩く輝く。
響が驚き、翼が息を呑む。
クリスのイチイバルが、これまで見たことのない黄金と蒼の光を纏った。
玄十郎はその姿を静かに見守る。
「行ってこい。」
短い言葉。
それだけで十分だった。
クリスは一歩前へ出る。
イチイバルを掲げる。
深く息を吸う。
その胸には、玄十郎との思い出があった。
仲間との時間があった。
レイたちが託してくれた未来があった。
もう、否定するためには歌わない。
守るために歌う。
その覚悟とともに、クリスは静かに口を開く。
♪疑問……? 愚問!
衝動インスパイア――
かつて世界を拒絶するために歌った旋律が、今は未来を守るための歌として神殿へ響き始める。
その歌を聞いた玄十郎は、小さく笑った。
「ようやく……歌えたな。」
クリスは笑い返した。
もう、あの頃の雪音クリスではなかった。