戦姫絶唱シンフォギア 雪音クリスは幸せになりたい   作:牛☆大権現

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「届かない歌」

九条ひまりは眠れなかった。

 

 

医務室。

 

 

真っ白な天井。

 

 

何度目かも分からない。

 

 

目を閉じる。

 

 

蒼の顔。

 

 

レイの顔。

 

 

薫。

 

 

ノア。

 

 

ミナ。

 

 

リリィ。

 

 

みんな浮かぶ。

 

 

そして。

 

 

自分だけがいる。

 

 

「なんで・・・」

 

 

声が漏れた。

 

 

「なんで私だけ・・・」

 

 

助かった。

 

 

違う。

 

 

逃げた。

 

 

その言葉が胸を刺す。

 

 

 

「ひまりちゃん」

 

 

未来だった。

 

 

静かに椅子へ座る。

 

 

「寝られない?」

 

 

ひまりは頷く。

 

 

未来は少し笑った。

 

 

「私も昔そうだったな」

 

 

ひまりが顔を上げる。

 

 

未来は窓を見る。

 

 

夜空。

 

 

遠い月。

 

 

「私も」

 

 

「何もできなかったことがあるから」

 

 

 

フィーネ。

 

 

神獣鏡。

 

 

響。

 

 

全部言わない。

 

 

だけど。

 

 

ひまりには伝わる。

 

 

 

「怖かったです」

 

 

ひまりが呟く。

 

 

「みんなが捕まって」

 

 

「私だけ残って」

 

 

「私だけ・・・」

 

 

声が震える。

 

 

未来は優しく言った。

 

 

「違うよ」

 

 

 

「みんなが、ひまりちゃんを信じたんだよ」

 

 

 

ひまりが涙をこぼす。

 

 

 

未来は続けた。

 

 

「だから帰ってきた」

 

 

「だから今は」

 

 

「信じる番」

 

 

 

神獣鏡らしい言葉だった。

 

 

 

その頃。

 

 

作戦室。

 

 

空気は重い。

 

 

 

エルフナインが解析を続けている。

 

 

モニターには

 

無数の術式。

 

 

誰にも読めない。

 

 

 

「分かったことがあります」

 

 

全員が振り向く。

 

 

 

「徐福の術式は」

 

 

「生命力を奪うためのものではありません」

 

 

 

翼が眉をひそめる。

 

 

「何?」

 

 

 

エルフナインは画面を切り替える。

 

 

巨大な陣。

 

 

中心。

 

 

そこだけが異常。

 

 

 

「集めています」

 

 

 

「寿命を」

 

 

 

静寂。

 

 

 

「何のために」

 

 

マリアが聞く。

 

 

 

エルフナインは答えない。

 

 

答えられない。

 

 

 

その時。

 

 

一つの声。

 

 

 

「不老不死だろう」

 

 

 

玄十郎だった。

 

 

 

全員が見る。

 

 

 

玄十郎は画面を見ていた。

 

 

静かに。

 

 

 

「昔読んだ」

 

 

「徐福伝承にはそういう話がある」

 

 

 

不老不死。

 

 

仙薬。

 

 

秦始皇帝。

 

 

 

エルフナインが頷く。

 

 

「可能性は高いです」

 

 

 

「ですが」

 

 

 

そこで止まる。

 

 

 

「ただ不老不死なら」

 

 

「ここまでのことをする必要がありません」

 

 

 

クリスが言う。

 

 

「どういう意味だ」

 

 

 

エルフナインは振り返る。

 

 

 

「徐福は何かを完成させようとしています」

 

 

 

「誰かを救うために」

 

 

 

誰も喋らない。

 

 

 

その言葉。

 

 

妙に嫌だった。

 

 

 

敵なのに。

 

 

 

救う。

 

 

 

その単語が。

 

 

 

その頃。

 

 

蓬莱山。

 

 

 

蒼が目を覚ます。

 

 

 

石造りの部屋。

 

 

 

隣にはレイ。

 

 

 

反対側には薫。

 

 

 

全員いる。

 

 

生きている。

 

 

 

「起きたか」

 

 

 

声。

 

 

 

李天華だった。

 

 

 

蒼が睨む。

 

 

 

「返せ」

 

 

 

即答。

 

 

 

「みんなを返せ」

 

 

 

李天華は少しだけ目を伏せる。

 

 

 

「返せない」

 

 

 

「なんでだ!」

 

 

 

怒鳴る。

 

 

 

李天華は答える。

 

 

 

「救うためだ」

 

 

 

蒼が固まる。

 

 

 

またその言葉。

 

 

 

救う。

 

 

 

李天華は壁へ寄りかかる。

 

 

 

「私には妹がいた」

 

 

 

誰も喋らない。

 

 

 

「病気だった」

 

 

 

「何もできなかった」

 

 

 

「死んだ」

 

 

 

静かな声。

 

 

 

怒りもない。

 

 

 

ただ。

 

 

諦めだけ。

 

 

 

「だから師に従う」

 

 

 

「誰も失わない世界のために」

 

 

 

蒼が拳を握る。

 

 

 

理解はできた。

 

 

 

納得はできない。

 

 

 

それが一番厄介だった。

 

 

 

その夜。

 

 

クリスは基地の屋上にいた。

 

 

眠れない。

 

 

 

レイを思い出す。

 

 

 

先輩。

 

 

先輩。

 

 

うるさい声。

 

 

 

思い出すほど苦しい。

 

 

 

「らしくねぇな」

 

 

 

後ろから声。

 

 

 

玄十郎だった。

 

 

 

缶コーヒーを差し出す。

 

 

 

クリスは受け取る。

 

 

 

しばらく沈黙。

 

 

 

風だけが吹く。

 

 

 

やがて。

 

 

クリスが呟いた。

 

 

「助けられるかな」

 

 

 

玄十郎は答えない。

 

 

 

すぐに答えない。

 

 

 

それが彼だった。

 

 

 

「助ける」

 

 

 

静かに言う。

 

 

 

「絶対にだ」

 

 

 

クリスは笑う。

 

 

少しだけ。

 

 

 

根拠なんてない。

 

 

 

でも。

 

 

その言葉だけで。

 

 

少しだけ楽になった。

 

 

 

だから嫌だった。

 

 

 

最近。

 

 

 

司令の言葉に。

 

 

救われすぎている。

 

 

 

その頃。

 

 

徐福は月を見ていた。

 

 

 

手には古びた簪。

 

 

 

何千年も持ち続けたもの。

 

 

 

李天華が現れる。

 

 

 

「師」

 

 

 

徐福は振り返らない。

 

 

 

「もうすぐだ」

 

 

 

ただ。

 

 

それだけを言う。

 

 

 

そして。

 

 

簪を握る手だけが。

 

 

少し震えていた。

 

 

 

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