Somnia   作:hakumei

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本作はpixiv、ポケモン小説スクエアにも掲載しています。そちらでは先行して公開中です。
オリジナル設定、独自解釈を含みます。
暴力描写、ポケモンや人の死亡描写がありますので、ご注意ください。
初めての連載作品の為、拙い部分もあるかと思いますが、よろしくお願いいたします。



#1 邂逅

 

 

 

暗い。

 

どれほどの時が過ぎたのか、分からない。

 

眠りは、本来安らぎのはずだった。

夢の中だけが、世界と距離を取れる場所だった。

 

だが今は違う。

 

眠ることも、

終わりを選ぶことすら許されない。

 

ただ静かに、

終わらない時間だけが積み重なっていく。

 

……ここには、誰も来ない。

 

来てはならない。

 

──来るはずがない。

 

 

 

────────────

 

 

 

ソムニア地方

 

比較的人口が少なく、多くの野生ポケモンが見られる緑豊かな地として知られている。

 

その中にエルムタウンという町がある。

 

穏やかな時間が流れるこの町で……

相次いで子供が行方不明になるという事件が起きていた。

 

その殆どが身寄りのない孤児だった。

いつ、どこで、どのようにして消えてしまったのか、誰にも分からない状況だった。

 

……だが、偶然にも事件の一部始終を見かけた少年がいた。

 

アカデミーでの授業を終え、家に帰る途中の出来事であった。

 

見覚えのない服装に身を包んだ大人達が、ポケモンのわざを使って子供を眠らせている所を目撃してしまったのだ。

 

大人達は子供を車に乗せてこの地方最大の広さを誇る森に入っていく。

 

昼でも暗い、その巨大な森は、複雑に入り組んだ自然の迷路となっており、地上からの調査・開発が困難となっている。

 

また、上空には常に霧がかかっている上、特殊な電波が発生している為空からの調査もできず、長い間手付かずのはずの場所だった。

 

そこに大人達は入って行ったのだ。

 

……何かがある。

 

そう感じた少年は、森の入り口で立ち止まる。

2、3度深呼吸すると目の前に広がる暗闇を睨み付けた。

 

そして──

 

少年は足を踏み入れる。

 

この先に待ち受ける運命を

 

知りもしないで──

 

 

 

────────────

 

 

 

狭く無機質な部屋。

 

一体のポケモンが拘束されている。

 

時間、季節を問わず常に薄明かりが点るだけの室内で、そのポケモンは独り、思いを馳せる。

 

……ここに連れられてきて、どれくらいの月日が経った……?

 

自らの在り方に悩み、誰にも見つからない場所で眠りについた。

 

夢の中だけが、唯一、世界と距離を取れる場所だった。

 

………そのはずだった。

 

突如として、眠りを妨げる者達が現れた。

 

彼らが開発した装置に力を奪われ、抵抗は意味を成さなかった。

 

その者達はポケモンの力を人間に宿す為の実験を行なっているという。

 

拘束されて以降、細胞を用いた実験が始まった。

 

被験体となるのはいずれも子供だった。

 

そして──……

 

彼らは誰一人として、生きて戻って来なかった。

 

幾度も装置の破壊を試みたが、びくともしない。

 

怒り、悲しみ、罪悪感、無力感が、心身を蝕んでいく。

 

自分がここにいる限り、実験は止まらない。

 

……いっそのこと……。

 

………終わらせてくれ……。

 

叫んでも、祈っても、

この部屋に響くのは装置の低い振動音だけだった。

 

このまま、何も変わらない日々が続くのだろう。

 

……そう思っていた時だった。

 

……ふと、扉の向こうから小さな足音が聞こえた。

 

ダークライはその足音に違和感を覚える。

 

大人のものではない。

 

……子供?

 

だがいつものそれとは違う。

被験体の連行であれば施設内の大人がついているはず……。

 

その足音は聞こえない。

 

小さな足音はまるで周囲を警戒するかのように不規則に廊下を移動すると、やがてこの部屋の扉の前で止まった。

 

──やめろ、来るな。

今引き返せば、まだ間に合うかもしれない。

 

その願いも虚しく、ドアノブに手をかける音がしてゆっくりと扉が開かれる。

 

入ってきた人影は……やはり子供だった。

 

グレーの髪に、灰色の瞳。その服装は昔、見たことのある物に似ている。……確か、学生と呼ばれる者が着ている服装だ。

 

どこにでもいそうな、ただの人間の子供。

──だからこそ、ここには似つかわしくなかった。

 

その少年はこちらに気が付くと、ゆっくりと近付いて来た。

 

「……………」

 

言葉を発することもなく、ただじっとこちらを見つめている。初めて目にするものに向けられる好奇の目。

 

その視線に恐怖はなかった。

あったのは、純粋な疑問だけだった。

 

捕まってここに連れられてきた訳でも、ただ迷い込んだ訳でもなさそうだ。研究者の中に子供がいるという者もいないはず……。

 

とすると…まさかとは思うが、この少年は──

 

自分からこの施設に忍び込んだのか……。

 

…………愚かな……。

 

このままここに居ては、捕まってしまうだけだというのに。

 

…………。

 

声が届くかは分からない。それでも、目を逸らすことだけはできない。

否……何故だかダークライは、この少年を放っておけなかった。

 

ダークライは少年に言葉を投げかける。

その声は、低く掠れていたが、命令でも威嚇でもなかった。

 

『……ナニヲ……シテイル?』

 

「………え?」

 

少年は驚いたように目を見開き、キョロキョロと辺りを見回す。

 

『……ココハ、キケンダ。スグニサレ』

 

2、3度見回す動作を繰り返すと漸く声の主に気付いたらしい少年は再びこちらを向いた。少年の肩から僅かに力が抜ける。

 

「……今の声……きみの?……やっぱり、ここには何かー……」

 

その時だった。

 

「ドクロッグ、ふいうち」

 

大人の野太い声が聞こえた。

と、同時に青い閃光が少年を貫く。

 

「ぅぐ……ッ!!」

 

息が──詰まった。

音もなく肺の中を握り潰されたような衝撃に、悲鳴すら出なかった。

 

『!!!?』

 

少年の小さな身体は大きく弾き飛ばされ壁に叩きつけられた。

背中に走った衝撃で視界が白く弾ける。

 

「げほげほッ!……はぁ……はぁ……ッ!」

 

「駄目じゃねェかボウズ、こんな所に忍び込んじゃあ」

 

苦痛に顔を歪め、激しく咳き込む少年を見て声の主はニヤニヤと笑いながら近付いてくる。

紫色の髪で細身の長身。そして、事件を目撃した時に見た大人達の着ていた服に身を包んでいる。

 

「ほーお?その制服、近くのアカデミーのだな?将来有望な坊っちゃんが……こんな所に何の用だ?どっから入った?ん?」

 

「…………っ」

 

飄々とした口調と態度ではあるが、平気で人やポケモンを傷付けられる人間だ。

 

……少年は直感でそう感じた。

 

先ほどの閃光は速度を落とし、男の傍らに歩み寄る。どくづきポケモン、ドクロッグだ。

主人に似た嫌らしい笑みを浮かべている。

 

「……お前らが……人を運ぶ所を見た……っ、お前らは何だ……何が目的でそんな事をしてるんだ!連れ去った人間をどこにやった!」

 

乱れた呼吸を整えると少年は痛む身体を起こしてヨロヨロと立ち上がり、男を睨み付ける。

 

「……あーらら、見られちまってたのか。……チッ、だから地元ではやめた方が良いっつったのによォ……」

 

男は一瞬きょとんとした表情を見せた後、さも参ったといったように肩をすくめぼりぼりと頭を掻いた。

 

「……そいつぁちと答えらんねェなァ……」

「……なんなら」

 

少年の問いに対し静かにそう呟くと頭を掻いていた手を止め、男は口端を上げた。

 

『!?......ヤメロ!』

 

ダークライは咄嗟に男の行動を察して叫ぶ。

……だが、ダークライの叫びは届かない。

 

「どくづき」

 

男は少年を指差して楽しげにドクロッグに命令を下す。

瞬間、ドクロッグはどくに染まった腕を突き出し少年に襲い掛かる。

 

突き立てられた腕の感触より先に、

身体の内側がじわりと焼けるように熱を持った。

 

「……ッ……ぁ……」

 

喉が張り付き、言葉にならない音だけが漏れる。

 

一瞬だった。

なす術もなく、少年の身体は床に崩れ落ちる。

 

「てめェの目で確かめてみるんだな、クソガキィィ」

 

男とドクロッグの嘲笑うような声が脳内に響き渡る。

指先一つ動かそうにも、命令が身体に届かない。

 

響き渡る嘲笑を薄れゆく意識の片隅で聞きながら、少年は瞳を閉じた。

 

 

 

────────────

 

 

 

少年の身体は、力なく床に崩れ落ちたまま動かない。

 

『………ッ』

 

声にならない。

 

力を解き放とうとした。

 

だが、首元に嵌められた拘束装置が低く唸り、

全身を縛りつける。

 

影が揺らぐ。

 

解き放てない。

 

まただ。

 

また、何もできない。

 

目の前で苦しむ存在がいるというのに、

 

自分はただ見ている事しかできない。

 

床に伏した少年の指先が、僅かに震えた。

 

呼吸が浅い。

 

意識が遠のいていくのが分かる。

 

やめろ。

 

それ以上、奪うな。

 

『……ヤメロ……』

 

絞り出した声は、

やはり誰にも届かない。

 

分かっていた。

 

この装置の前では、

ボールの中のポケモン以下の存在だという事くらい。

 

それでも。

 

視線だけが少年を追う。

 

──なぜ、来た。

 

──なぜ、ここに踏み込んだ。

 

来なければ。

見つからなければ。

自分と関わらなければ……。

 

この少年は今も、

普通の世界で生きていたはずなのに。

 

胸の奥に、鈍い痛みが広がる。

 

怒りでも、悲しみでもない。

 

もっと重く、冷たい何か。

 

……自分がここにいる限り、

犠牲は増え続ける。

 

まただ。

 

また、救えなかった。

 

 

 

────────────

 

 

 

……あれから、一ヶ月が経った。

あの少年が捕らえられた日から……。

 

少年がこの施設の情報を他に漏らしている可能性も考えられると、組織はその活動を暫く休止しているようだ。

 

その間、連れられてくる子供やポケモンはいなかった。

 

ただ静かに、時間だけが積み重なっていった。

 

少年の姿もあの日以来見ていない。

 

……恐らく……もう生きてはいないだろう……。

 

……何もできなかった。

ただ、見送ることしか。

 

……あの時、止めていれば。

いや、違う。

自分は最初から、何一つ止められていない。

 

──ふと、嫌な気配がした。

言葉にならない、しかし確かな予感。

 

直後、部屋の扉が開く音が聞こえてダークライはそちらに目を向ける。

 

扉の向こうからは少年を捕らえたあの紫の髪の男が出てきた。

その後ろに小さな人影が見える。

 

「ほら、さっさと入れ!」

 

紫の髪の男ではない。更にその奥にもう一人、別の男がいるようだ。

 

その男は声を荒げながら小さな人影を乱暴に押し出すようにして促す。

小さな人影はフラフラとした足取りで扉の向こうから出てきた。

 

……背格好からして子供のようだが……。

 

酷く衰弱しているようだった。身体中に無数の傷跡がある。

 

ボロボロの衣服を身に纏い、首には金属製の首輪。手足にも同じく鉄製の枷が付けられており、それらを一点で纏めるような形で鎖が繋がれている。

その鎖の先端は後ろの男が持っているようだ。

こんな光景は今まで見たことがない。

 

「よーお、ダークライさんよォ。元気してるかァ?」

 

飄々とした態度は相変わらずのようだ。ダークライは紫の髪の男を鋭く睨みつける。

 

「おーおー、恐いねェ。今日は良い報せを持ってきてやったってェのに」

 

「……おい、そいつをここに連れて来い」

 

紫の髪の男はそれに動じる事無くわざとらしく身震いしてみせると、後ろの仲間に視線を送り指示を出す。

 

それを受けた後ろの男はこくりと頷き、首輪と繋がった鎖を引っ張って無理矢理子供を目の前まで連れてきた。

 

何のつもりか紫の髪の男は目の前に連れて来させた子供の髪を鷲掴みにし、強引に顔を上げさせる。

 

……誰だ。

 

そう思った次の瞬間、

記憶の奥底に焼き付いた瞳と重なった。

 

『!!!?』

 

視界が、僅かに歪んだ。

 

ダークライは言葉を失う。

 

「……コイツに見覚えがあるよなァ?」

 

男が言うとおり、その子供……いや、その少年の顔には見覚えがある。……だが、その姿は以前と大きく変わってしまっていた。

 

白い髪。

透き通るような水色の瞳。

 

……視線が合う。

 

逸らされない。

 

……この少年が、本当にあの少年なのか……?

 

……違う。そんなハズはない。

だが、向けられるその眼差しは確かにあの少年のものだった。

 

……知っていたハズだ。ここがどういう施設なのかを。どんな実験をしているのかを……。

 

……頭では理解している。しかし……俄かには信じられなかった。

 

その様子を見た男はやはり楽しそうな様子で笑う。

 

「そうだよ、ここで捕まえたあのガキさァ!あのまま始末するつもりだったんだけどよ、どうせ殺すなら実験に回せって上がよォ。おかげ様でうっかり生き延びちまったんだよなァ?」

 

紫の髪の男は髪を掴む手にギリギリと力を込める。苦しそうに表情を歪める少年は、それでも射るような視線で男を睨む。

 

それが気に食わないらしい男はそんな少年を思い切り床に叩き付けた。

 

『ヨセ!!』

 

反射的に声が漏れた。

 

男の表情はさっきまでのものとは打って変わり憎悪が剥き出しになっている。

 

「………ッッ」

 

「はッ、今じゃ貴重な実験の成功体だ」

 

聞きたくなかった。

だが、理解してしまった。

 

……自分の力が。

 

また、誰かを歪めた。

 

倒れ伏した少年の身体を男は忌々しそうに踏みつけながら面倒くさそうに呟く。

 

「今日はこれから実戦テストなんだよ」

「お前も見るだろ?てめェの力を分け合ったこのガキの力を」

 

『…………』

 

紫の髪の男はそう言うと少年の身体から足を退け、ポケットから小型のスイッチのようなものを取り出した。

 

ピッという電子音と共にスイッチが押される。するとそれに反応して部屋全体が振動し始めた。

 

『……!?』

 

「……!!」

 

ダークライも少年も何が起きるのかと辺りを見回す。

 

振動を始めたその部屋は、大きな機械音を響かせながら少しずつ形状を変化させてゆく。

 

最後に壁が格納され、二人の目の前に巨大なスタジアムが姿を現した。

 

変化したスタジアムの周りには白衣を着た研究者らしき人間と、紫の髪の男達と同じデザインではあるが、色が違う服を着ている人間が合わせて十数人程立っている。

 

唯一の成功作の性能をチェックしにきたのだ。

 

「オラ行けよ、クソガキ」

 

紫の髪の男は少年の手足の枷に繋がれた鎖を外し、スタジアムの中に放り出した。

 

「………っ…」

 

放り出された少年はバランスを崩し倒れてしまう。

 

これだけ衰弱しているというのに戦わせるというのが無謀である。

 

──行くな。

その言葉だけが胸の奥で渦巻く。

 

だが声は届かない。

拘束されたまま、見ていることしかできない。

 

ダークライは気が気でなかった。

 

だが少年はゆっくりと立ち上がる。その目は鋭い光を放っていた。

 

……やるというのか。

その身体で。

 

少年はある一点をじっと見つめる。その視線の先にはゲートのようなものが設置されていた。やがてゲートは音を立てながら開きはじめ、中から小さなポケモンが飛び出した。

 

『コー…ラッタ~!』

 

ねずみポケモンのコラッタだ。

 

少年は大きく深呼吸すると気持ちを落ち着かせるように瞳を閉じた。

それから自分の両腕に意識を向ける。

 

……やり方は……分かる。

 

自らの身体の中の細胞組織を操り、組み替えて……変化させる。

 

すると少年の両腕はみるみる形を変えていった。

白く細い人間の腕だったそれは黒に染まり、二の腕には三つの突起物が浮かぶ。指は五本から三本になり、指先には鋭い爪が生成されていた。

 

ゆっくりと開いた水色の瞳は瞳孔が白く変色している。

 

その姿は細胞の持ち主、ダークライの姿を彷彿とさせる。

 

ダークライは自らの特徴を受け継いだ少年の姿を目の当たりにし、彼が本当にあの恐ろしい実験の被害者になってしまったことを実感した。

 

……それも、よりによって自分の能力を……。

 

──それは本来、あり得ないはずだった。

 

……少年が生きている。

それだけは、確かだ。

 

だが、それが“救い”であるはずがない。

 

人間やポケモン達から畏怖されるこの力を……彼は否応なしに背負っていかなければならないのだ。

 

 『コラッタ~ッ!』

 

と、コラッタが猛スピードで少年目掛けて突っ込んでいく。でんこうせっかだ。

 

──止めろ。

その一撃で終わる。

 

そう分かっていながら、

ダークライは動けない。

 

動けるはずもなかった。

 

少年は両腕を身体の前で交差させそれを受け止める。

だが、コラッタは素早く体勢を整えると別の角度から再びでんこうせっかを繰り出してきた。

それはガードの甘くなった脇腹を直撃した。

 

「ぐっ…!!」

 

衝撃と痛みで少年はよろける。

 

速い。

弱った身体では、追えるはずもない。

 

その場から動けず防戦一方になる少年に対しコラッタは容赦なく攻撃を浴びせ続ける。

 

小さな身体が揺らぐたび、

ダークライは視線を逸らしたくなる衝撃に駆られる。

 

だが、逸らすことすら許されない。

 

「………ッ…」

 

少年はがくりと膝をつく。

 

ダメージの蓄積した身体はいつの間にか立つ事さえできなくなっていた。

 

周りの景色もボヤけて見えた。

 

コラッタはこちらから離れて力を溜め始めている。

 

……きあいだめか……。

 

こちらが弱っているのを見越してトドメをさすつもりらしい。

次は持てる力の全てを出してぶつかってくる。

 

まともに受ければ自分の身体は多分…持たない。

 

……こんなところで……倒れるわけにはいかない。

 

少年は傷だらけの両腕を上に掲げる。

すると両手の間に黒い球体が出来はじめた。

 

……その構えは。

 

まさか。

 

何故、それを──

 

『……ヨセ……』

 

声にならない制止。

 

直後、力を溜め終えたコラッタが全速力で少年に向かっていく。

 

かなりのスピードではある…が。

その動きは直線的だ。

 

少年はコラッタが地面を蹴って飛び掛かって来た瞬間を狙い黒い球体を放った。

 

コラッタの身体が黒い球体に包まれる。

 

……ダークホール……。

 

その球体が消え去った時、コラッタは深い眠りについていた。

 

少年は……倒れていない。

 

………生きている。

 

それだけで、僅かに力が抜けた。

 

だが──

 

……何故、使える。

 

本来ならば、自分以外に使えるはずのない技だ。

 

……また、自分の力が。

誰かを縛っている。

 

守るために眠り続けていたはずなのに。

 

歓声が届く。

周りでバトルを観戦していた大人達が成功体の出来に納得したように頷き合っている。

 

紫の髪の男達は少年とコラッタの回収を始めていた。

 

「回収しろ。データは充分だ」

 

「死んでねェだろうな?」

 

「生きてますよ。成功体ですから」

 

少年はコラッタが眠るのを確認する前に気を失ってしまっていたのだ。

 

…当然だ。

あれほど消耗していて、無事で済むはずがない。

 

少年が運ばれていく。

 

その小さな身体が、

扉の向こうへ消えるまで。

 

……視線を逸らせなかった。

 

理由は分からない。

だが、目を離してはならない気がした。

 

何かが、引っかかっている。

これまで何度も見てきた光景だというのに。

 

……死ぬな。

 

何故そう思ったのか、

自分でも分からなかった。

 

観戦を終えた人間達は次々とその場を去っていき、巨大なスタジアムは元の無機質な部屋へと姿を変えて静けさを取り戻した。

 

だが、胸の奥のざわめきだけが消えなかった。

 

 

 

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