Somnia   作:hakumei

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──夢を見る。

 

暗くて、苦しい……。

 

でも、

 

…………い。

 

 

 

 

 

手を伸ばそうとして目が覚める。

 

……また、あの夢だ。

 

「…………」

 

隣には微かな温もり。

コラッタが隣で丸まって静かに寝息を立てている。

 

思わず表情が緩む。

 

触れたくなるのを堪えて声をかけると、コラッタはピクピクと耳を動かした後伸びをして起き上がる。

 

「……おはよう」

 

「……ッタ」

 

短く言葉を交わす。

その少し後に食事が差し込まれる。

栄養バランスが考慮された質素な食事。

それを分け合って食べるのが、いつの間にか当たり前になっていた。

 

あれから何日経っただろう。

身体の痛みも引いてきたが、日にちの感覚がない。

定期的に研究室や風呂に連れて行かれる以外はずっとこの中だからだ。

 

生きる為に必要なものは最低限、与えられる。

逆にいえば、それ以上のものは一切与えられない。

 

まるで“機材のメンテナンス”としてしか見ていない扱いだ。

 

本当にイカれてる。

 

命の扱い方も。

 

──いや、分かってはいた。あの日から……。

嫌と言うほど思い知らされたのだから。

 

食事を終えてコラッタを見る。

不思議に思っていた。この小さな体なら、ここから逃げる事だってできるんじゃないかって。

 

でも違った。

 

コラッタの首の付け根に小さな装置が埋められているのに気付いた。

……恐らく、脱走を防止する為の策が施されている。

そしてそれは──……

 

 

嫌な考えが浮かんだ、その時。

扉の外から足音が聞こえた。

そこに金属が擦れる音が混ざる。

 

いつもの組織員ではない。この足音は──

……忘れるはずがない。

 

身体が緊張する。

コラッタも気付いたのだろう。足元まで寄ってきて身を寄せる。服越しでもわかる。……震えている。

 

「……後ろに」

 

背後に隠れるよう促して立ち上がる。

 

その直後、重い扉が開く。

 

そこから顔を覗かせたのは……

 

《奴》だ。紫髪の。

 

「よぉ、クソガキ。相変わらずムカつくツラしてるじゃねェか」

 

ほんの少し、弱さで震える手を固く握り締めて《奴》を見据える。

 

男の口角が上がる。

 

首元が低く唸った。

次の瞬間、神経を内側から焼くような電流が走る。

 

呼吸が止まる。

立っていられない。

 

膝が崩れる。

と、同時に電撃が止まった。

 

「ッか、はっ……!──はぁっ、はぁっ、……ッ!」

 

呼吸が戻らない。

吸っているはずなのに、足りない。

 

《奴》は、リモコンを手で弄んでからわざわざ身を屈めて視線を合わせてきた。

 

「今までのじゃ足りなかったようだが、コイツは効くみてェだなァ」

 

顔を上げて受け止める。目を逸らす事だけはしたくなかった。

 

「……いいねぇその顔。壊れねェギリギリってのが最高だ」

 

顔は笑っている。

が……その声は、低い。

 

男は立ち上がって靴先で床を軽く叩く。

 

「立て。今日は外に出るぞ。初任務だ」

 

 

 

 

──────────────────

 

 

 

 

……夢を見る。

 

悔しさ、悲しさ、怒り、痛み……

 

その中にある、微かな光……

 

ほんの僅か、記憶のように流れ込む。

 

……少しだけ、穏やかな気分で目を覚ます。

 

夢を見る事自体、久々だった。

組織の開発したこの装置が、眠る事を許さないからだ。

 

だが、定期的に眠る事ができる日がある。

生命の維持に必要だと判断しているのだろう。

 

……あの少年は……。

 

不意に、脳裏にその姿が浮かぶ。

刹那、身体が痺れるような感覚に襲われた。

 

一瞬。

 

……だが、痛みはない。

言いようのない不快感が辺りを覆う。

 

その少し後だった。

窓の外に白い髪が揺れるのが見えた。

 

……生きている。

 

だが、その前には数人の組織員。そして……後ろにはあの男。

少年の枷にはあの時と同じように鎖が繋がれている。

以前よりは足取りはしっかりしているものの、歩幅が狭く思ったように歩けないようだった。

 

どこへ……?

 

じっと見ていると、少年が顔を上げてこちらに目を向ける。

 

その目が、柔らかく揺れたように見えた。

ほんの僅かな時間……繋がったような気がした。

 

紫髪の男が進むよう促すが、少年は動かない。

すると男と視線が合った。

その口元が歪に歪む。

 

「ぐ……ッッ!!」

 

少年の身体が強張ったかと思えば、その場に膝をつく。

 

『ッ……!!?』

 

身を乗り出そうとするが、身動きが取れない。虚しく装置が唸るだけだ。

その様子を見て、男は楽しそうに笑う。

まるで新しい玩具を手に入れた子供のように。

 

「いい顔するなァ。コイツとそっくりだ」

 

両手に力が入る。爪が食い込む程。

しかし──

 

少年はゆっくりと立ち上がって、もう一度こちらに視線を向けた。

 

“………大丈夫”

 

その目はそう言っているように見えた。

 

……まだ、折れていない。

簡単には壊れない。

 

だが皮肉にも、それがあの男を楽しませている。

そう感じた。

 

……見送るしかない。

それがこれ程辛い事だとは、知る由もなかった。

 

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